第392話 ボルの人界征服編 パート5


 全長10mくらいの光球がトールさんのいた場所に激突した。轟音が辺りに鳴り響いて、光球が落ちた場所は隕石が落ちたかのように大きなクレータが出来上がっていた。



 「砕け散ったか・・・」



 ムーンはトールさんが死んだと確信して、振り返ってシリウス城に向かう。



 「やばかったぜ」



 トールさんは額から滝のような汗を垂れ流している。



 「トールお姉ちゃん、ぺちゃんこになるところでしたね」



 小ルシスはクスクスと笑っている。



 「トール、気を引き締めて!ムーンという男は、今まで戦ったどの相手よりも強敵だわ」


 「わかっているぜ。少し緊張していて判断が鈍ってしまったぜ・・・」



 トールさんは、かつて戦った事ない強敵を目の前にして判断が鈍っていた。自分より数段強い相手に、正面から1人で戦いを挑み危うく光球にぶつかって粉々に砕け散るところであった。しかし、冷静なロキさんが、瞬時に魔剣ルーヴァティンを使って空間を切り取って、トールさんを安全なところへ移動させたのであった。


 魔剣ルーヴァティンは、空間を切り裂くことができる魔剣なのである。



 「ロキ、あいつは俺が死んだと思っているぜ。今がチャンスだ!」


 「そうね。仕掛けるわよ」



 ムーンにとって人間などゴミクズであり、いちいち存在など確認していない。なので、ムーンの目にはトールさんしか認識していなかったので、ロキさんの存在など眼中になかったのである。それほどムーンは人間を舐めているのである。


 ロキさんはムーンに目掛けてルーヴァティンを振りかざした。ロキさん達とムーンとの距離がグッと縮まった。


 ムーンはすぐに異変に気づき振り返る。



『メガトンハンマー』



 ムーンが振り返ると、トールさんがミョルニルを振りかざして、ムーンの頭に叩き落とした。



 「生きていたのか・・・しかし!そんな武器で俺に傷をつけることは不可能だ」



 ムーンは右腕を上げて人差し指を突き出した。



 「指一本で防いでやるぜ」



 ミョルニルがムーンの人差し指に激突した。



 『ウギャーーーーー』


 

 ムーンは断末魔のような声を上げた。そして、転がりながら駄々をこねる子供のようにゴロゴロと転がるのである。



 「さすが神人だ・・・俺の全力のハンマーを人差し指だけで受け止めたぞ」



 転げ回るムーンを見ながら、トールさんは感心している。



 「そうね。人差し指は粉々に砕けたかもしれないけど、それ以外は無傷だわ」



 ロキさんも目を見開いて驚いていた。



 「それよりも・・・神人でなんだ?」


 「私も知らないわ」


 「神人は表天界に住んでいる住人です。神人は神から力を授かっているのでとても強いとルシスお姉ちゃんが言っていました」


 「本当に天界ってあるのだな」


 「そうね・・・お伽話の世界だと思っていたわ」



 この世界では神人の存在を信じている者は少ない。なぜなら、神人と会ったことがないからである。なので、ロキさん達は神人を聞いてもピンと来なかったのである。そして、私を魔人でなく亜人とすぐに思ったのもそれが原因でもある。神人と同様に魔人にも会ったこと人間のどほとんどいないのである。



 「ロキお姉ちゃん、油断しないでください。ムーンはすぐに回復して私たちを襲ってきます」



 ムーンはゴロゴロと回転しながら、治癒魔法を使って回復していたのである。



 「なぜだ?なぜゴミムシの武器が俺にダメージを与えるのだ!」



 神人の体は魔力障壁で覆われていて、人界の武器はほとんどダメージを与えることはできない。しかし、トールさんのミョルニルは神剣なので、魔力障壁を無効化できるのである



 「トールお姉ちゃんのミョルニルは神剣ですので、神人にもダメージを与えることができるのです」



 小ルシスはトールさんに説明した。



 「ロキお姉ちゃんのルーヴァティンも魔剣なので、神人にダメージを与えることはでできますよ」


 「そうなのね。それなら、あいつに勝てる可能性は大きわね」


 「そうです。でも、次からは油断なしで本気でくると思いますので気をつけてください」



 いつになく真剣な口調でアドバイスをする小ルシスである。



 「ロキ!トドメを刺すぜ」


 「わかったわ」



 ゴロゴロと転がって治癒しているムーンに向かって、ロキさんが剣を振りかざして距離を詰める。そして、目の前で転がっているムーンに向かって、トールさんがミョルニルを叩き落とす。



 『調子に乗るな』



 ムーンは鼓膜が破れるくらいの大声を出した。



 『スーパームーン』



 ムーンは自らの体を光輝く満月のような3mくらいの光球に変身させた。



 トールさんのミョルニルが、光球に振り落とされた。



 『ゴツン』



 鋭く鈍い音が響いたが、球体には異変はない。



 『グゥゥゥーーー』



 トールさんが、ミョルニルを落として両腕を抑えつける。



 「硬すぎるぜ」


 「トール、避けるのよ」



 光球が、回転してトールさんに向かって転がり出した。



 「危ないですよ」



 小ルシスがトールさんを引っ張って上空へ逃げた。



 しかし光球は、バウンドして上空にいるトール目掛けて飛んできた。ロキさんがルーヴァティンを振りかざす。光球は地面に叩きつけられる



 「お前を先に殺した方がいいみたいだな」



 ムーンは、やっとロキさんの姿を認識した。


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