第147話 妖精王パート17



 「どちらが生贄の女の子ですか」


 「こいつです」



 トールさんはポロンさんを裏切った。



 「違いますわ。この子です」



 ポロンさんも負けていない。



 「一体どちらのなの?そんなに怖がらなくても大丈夫よ。生贄だからと言って殺すわけじゃないのよ」


 「生贄になるどうなるのだ?」


 「オロチの管理するヤミークラブ調理工場で働くことになるのよ」


 「ヤミークラブ調理工場?」


 「そうよ。朝から昼過ぎまでヒュドラの取ってきたヤミークラブを解体し、茹で上げて料理するのよ」


 「そのヤミークラブは食べてもいいのか?」


 「もちろんよ。そんなにたくさんは食べれないけど、それが私たちの賄い食になるのよ。今日は新人の生贄さんの歓迎パーティだから好きなだけ食べることができるわよ」


 「本当なのか?」


 「本当よ。オロチは貴重な生贄を丁重に扱うわ。なので、洗濯・掃除などの雑用は、オロチがしているのよ。私達は工場での仕事以外は自由にできるのよ」


 「生贄になって辛くないのか」


 「家族に会えないのは辛いわ。でもそれ以外は満足しているわ」


 「家族に会い行けばいいだろう」


 「それは無理よ。家族に会いにいくには、ヒュドラのいる宍道湖を通らないといけないのよ。今日は生贄がくる日なので、オロチの命令でヒュドラは湖の底で寝ているから、あなた達はここまで来る事ができたのよ。普段はヒュドラがいるので村には戻れないのよ」


 「そうなのか・・・オロチを倒そうとは思わないのか」


 「無理よ。今は人型なので、おとなしく家事をしてるけど、蛇の姿に戻ったら、私達なんて一瞬で食われてしまうわ」


 「そうなのか」


 「そうよ。それでどちらが生贄なの」


 「俺だ」


 「私よ」



 トールさんとポロンさんは、ヤミークラブが食べられると思って、自分が生贄だと言い出したのである。



 「どちらなの!!」


 「ポロン、ここは俺が犠牲になるから、お前はロキのところに戻れ」


 「それは無理よ。トールを置いて私が逃げることができると思っているの?私が犠牲になるのわ」



 醜い争いをしている2人である。



 「ミコト、何を騒いでいるのですか」


 「それが・・・生贄の女の子が来たのですが、どちらが生贄かいい争っているのよ」


 「よほど生贄になるのが嫌なのであろう」


 「いえ、違うのよオロチ。2人とも生贄になりたいと言っているのよ」


 「それは珍しいな!毎年、生贄になる女性は泣き叫んでおとなしくさせるのに苦労するのに、今年は変わった女の子が来たのだな」


 「お前がオロチか!」



 山田 オロチ・・・八岐大蛇の人型の姿である。見た目は50代の小太りのさえないおっさんである。



 「元気がいい生贄だな。気に入ったぞ。お前を生贄にしてやろう」


 「やったぜ。早くヤミークラブ鍋を食べさせろ」


 「ちょっと待つのよ!オロチ、私も生贄にしなさい。そして、ヤミークラブ鍋を食べさなさい」


 「お前はよく見たらエルフじゃないか・・・。エルフは料理が上手くないと聞いた事がある。だからお前は却下だ」


 「そんな・・・料理の腕で判断するなんてひどいわ」


 「ポロン諦めて戻りな。ヤミークラブ鍋は俺が全部いただくぜ」



 トールさんが勝ち誇った顔でポロンさんを見下す。



 「ちょっと待ってください。先ほどから話しを聞かせてもらっていますが納得がいきません。ポロンさんがヤミークラブ鍋を食べれなくなると、私も食べれないではありませんか。ヤミークラブの調理は炎の使い手であるこのイフリートに任せてください」



 精印からイフリートがあらわれた。



 「イフリートだと・・・火の精霊神の分身がなぜここにいるのだ」



 さえないオロチの顔が険しくなっていく。そして、オロチの顔が蛇に変身した。



 「お前達は生贄ではないな。火の精霊神の加護を持っているエルフが生贄になるわけがないだろう」


 「イフリートのせいでバレたじゃないか!」


 「そうよイフリート。反省しなさい」


 「すいません」


 「あなた方は生贄ではなかったのね?」


 「そうだ。俺たちは八岐大蛇を討伐しに来た冒険者だ」


 「そうなのね。でもオロチを倒すなんて無理だわ」


 「ミコトの言うとおりだ。俺を倒すなんて不可能だ」


 「これでもくらいなさい」



 ポロンさんは炎の矢を放った。炎の矢はイフリートの力を媒体して、マグマの矢に代わり、オロチの胸元に突き刺さり激しく燃え上がる。




 「あちい、あちい、いきなり攻撃するなんて卑怯だぞ。俺の本来の姿に見せてやる」


 「オロチ、家が壊れるから外で変身しなさい」


 「わかりました」


 

 オロチは燃え盛る体の熱さを我慢して玄関まで猛ダッシュした。





 

  ヒュドラは8つの首を失って、1体の大きな蛇になり苦しそうに転がりだした。サラちゃんが幻魔のコアを食べたのであろう。幻魔のコアを食べ尽くせばヒュドラは消えて無くなるはずだ。


 ヒュドラは激しく動き回っていたが、そのうち動きが止まって体が崩れ落ちた。


 ヒュドラの崩れ落ちた体の中から、目を回してふらふらのサラちゃんが姿を見せた。サラちゃんは、ヒュドラが激しく転がっていたので目を回してしまったのであろう。




 「サラちゃん。大丈夫!」


 「世界が回っていますわ。あれ、ルシスちゃんが4人も居てますわ。ルシスちゃんは4つ子だったのね・・」


 

 サラちゃんは訳のわからないことを言って倒れ込んだ。



 「サラちゃんしっかりして」



 私はサラちゃんに状態異常回復の魔法を使って意識を回復させた。



 「あれ、ルシスちゃん。さっきルシスちゃんの姉妹にお会いしましたわ。どこに行ったのかしら」



 私はサラちゃんの言葉を無視した。



 「幻魔のコアは食べたのですか?」


 「もちろんよ。とってもおいしかったわ」


 「それはよかったです。そういえば、幻魔のコア以外にも他にもコアがあったと思うのですが?」


 「・・・・何も・・・なかったわよ」


 「そう。それならよかったです」


 「なんでなの?」



 サラちゃんは不思議そうに聞いてきた。



 「ヒュドラの体内には、幻魔のコアと猛毒のコアがあると思ったのです。猛毒のコアは食べると体内に猛毒を発生させてしまうとても危険なコアです」


 「えーーーーーー。ペッ、ペッ・・・」



 サラちゃんは何かを吐き出そうと必死で吐いている。



 「サラちゃん・・・もしかして、食べてしまったの?」


 「えーーん。えーーん。食べてしまったのよ。変な匂いがしてけど、気になったからつい食べてしまったよーーー」



 サラちゃんは大粒の涙を流しながら泣き出してしまった。


 



 

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