第222話 神守聖王国オリュンポス パート31


 『金玉』の出店は最悪のスタートであった。『ラスパ』『王国騎士団』の出店に長蛇の列ができる一方、『金玉』の出店には数人しか客が来ていない。



 「マーニ、暇ですね」



 ソールが残念そうに言う。



 「そうね。でも、まだ始まったばかりよ。私たちには『キュンキュン教団』の後押しがあるわ。そのうちたくさんの理解者が現れてくれるはずよ」



 そう、『金玉』の出店には人が集まらないのには理由があった。それは、『金玉』の出店には、『キュンキュン教団』のPRも兼ねていたからであった。マーニは、胸にキュンキュンと書かれたピンク色の可愛い教団服を着て販売をしていた。また、『キュンキュン教団』の旗を出店につけて、『世界を愛で一つにしよう』ハチマキを、ポテトフライを買ったお客にプレゼントしていた。


 マーニは、ノリノリで販売をしていたが、ソールは恥ずかして料理を作る方に専念していた。



 「布教の道は険しいものですよ」



 ハデスも『金玉』の出店に応援に駆けつけていた。



 「はい。でも地道に愛があれば全ての種族が共存して生きていけると訴えたいと思います」


 「そうです。その心がけが大事です。私も『愛で世界を一つにする』をスローガンで『キュンキュン教団』の素晴らしさを広めていきます」



 『愛で世界を一つにする』を掲げたのはマーニであった。マーニは『キュンキュン教団』の信者第一号にして、『キュンキュン教団』のトータルアドバイザーとして、『キュンキュン教団」の布教に積極的にサポートしていた。


 

 ネテア王も、『キュンキュン教団』の存在を公に認めて、決して怪しい宗教ではないと公言したので、少しは知名度はあるのだが、まだ王都の国民は様子を伺っている段階であった。


 しかし、どこの世界にも恋に悩める者はいるが、フライドポテトを買いに来たお客の中で『キュンキュン教団』を理解してくれる者は少なかった。



 「ポテトフライを3つください」


 「揚げたてをご用意いたしますので、少々お待ちください」


 「わかりました」


 「待っている間に、少しよろしいでしょうか?」


 「はい、別に構いませんが」


 「あなたは恋の力を信じますか」


 「どうですかね・・・恋は盲目になると言いますので、危うい力だと私は思っています」


 「あなたの言う通りです。恋の力は使い方を誤るととても危険だと思います。なので、恋の力を正しい方向に導くことを説いているのが『キュンキュン教団』です。世界の種族は、恋に悩み恋で苦しみそして最後には恋で救われるのです。正しい恋をして、恋溢れる素晴らしい未来をともに目指しませんか?」



 マーニは、ポテト揚げる時間を利用して、『キュンキュン教団』の布教を頑張っていた。しかし、きちんと話を聞いてくる人は少ない。しかし、それでも愛の大事さを説いていくのであった。



 「確かにそうかもしれませんが、『キュンキュン教団』には興味がありません」


 「そうですか。でも、もしも恋に悩んで苦しい時は、いつでも『キュンキュン教団』に訪れてください。王都には『キュンキュン教団』の本殿も建設します。いつでも恋に悩める方のサポートをさせていただきます」


 「わかりました」



 男性はフライドポテトを受け取ると出店を去って行った。



 「マーニ、残念だったな」



 ハデスが言う。



 「そうね。でも彼はきちんと話を聞いてくれたわ。彼が本当に恋に迷ったら必ず『キュンキュン教団』を訪れるはずよ」



 マーニは手応えを掴んでいた。


 こうして、マーニとハデスはポテトフライを揚げる待ち時間を利用して、布教活動を続けたのであった。


 しかし、この地道な活動が一部の人からは好感を持たれて、『キュンキュン教団』に興味がある者が数人訪れるようになった。



 「ポテトフライ1つと『キュンキュン教団』のことを教えて欲しいのですが?」


 「ポテトフライを揚げるのに、少々時間がかかりますので、その間に『キュンキュン教団」の事を説明します」


 「お願いします」


 「『キュンキュン教団』はハデス教祖が設立した恋を応援する支援団体です。恋に悩み恋に苦しむ種族の方に、共に恋の辛さ、苦しさ、歯痒さを共感して、恋の大切さ、素晴らしさ、美しさを再確認して、恋に苦しむのでなく、恋で自分自身を強くして、そして内面の美しさを磨く教団です」


 「素晴らしいですわ。『キュンキュン教団』に入れば、恋は実るですか?」


 「恋は必ずしも成立するものではありません。恋をすることに意味があるのです。全ての恋が実れば、それは素晴らしいものですが・・・それほど恋は甘いものではありません。『キュンキュン教団』は恋を成功させるための教団でなく、恋をする人を応援して、恋するすばらしさを広める教団なのです。実らない恋も決して無駄ではないのです。恋をして相手の事を思いやり、そして自分の内面を磨くのが恋なのです」


 「確かにそうですね。全ての恋が実るなんてありえないわね。私も教団に入って恋の素晴らしさを勉強したいです」


 「入団は自由です。『キュンキュン教団』の一員になったと思った瞬間にあなたは『キュンキュン教団』の一員です。王都には『キュンキュン教団』の本殿ができますので、いつでも自由にお越しください。そして『キュンキュン教団』の教えを広めてください」


 「わかりました」



 女性は素敵な笑顔になってポテトフライを持って帰って行った。


 こうして、マーニとハデスの地道な活動により、『キュンキュン教団』の入信者は少しずつであるが増えていくのであった。


 

 

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