第298話 ホロスコープ星国 ルシス編 パート10

 

 ラードーンは体長20mもある大きなドラゴンに変身した。頭の数は私に2本潰されているので98本である。



 「少し強いからといって調子に乗るなよ。俺が本来の姿を現したら、お前など一瞬でミンチにしてやるぜ」



 ラードーンは98本の頭で私を食い殺そうとした。無数の鋭い牙を持ったラードーンの頭が私の体を食いちぎる。



 「バキバキ・バキバキ」



 私の体が砕ける音がしない・・・代わりにラードーンの鋭い牙が砕け散る。



 「なんて固い体をしてるのだ」



 私の体は鋼鉄のように硬い・・・はずはない。なぜ?ラードーンの牙が砕けたのか私にはわからない。もしかしたら、ラードーンは、ちゃんと歯磨きをしていないので、虫歯が多くて牙が砕けのかな?と私は考えていた。



 「どうしたのですか?私を殺すのではないのですか?」


 「何をしたのだ!俺に抵抗するとホットドッグの命はないぞ」



 ラードーンは、虫歯で牙が折れた訳ではないみたいである。



 「私は何もしていないです。あなたの牙が柔らかすぎるのではないでしょうか?」



 私は無抵抗で何もしていない。



 「くそ・・・噛み砕くこともできないのか。それなら」



 ラードーンは大きく息を吸い込んだ。そして、98本の口から次々と炎を吐き出した。



 「地獄の業火で、全身を焼かれる苦しみを味わいやがれ」



 私に向かって無数の炎が飛んできた。私は避けることなく全ての炎を受け入れた。しかし、全く熱さを感じない。それどころか、心地よい感じがした。ラードーンの炎は、私の体のツボを刺激して、私の全身のコリをほぐしてくれるのである。



 「あなたは、本当は良いドラゴンなのですか?」



 私は、旅で疲れた体を癒してくれたラードーンが、悪人には思えないのである。



 「何を寝ぼけた事を言っているのだ!俺は世界を滅ぼす魔獣王だ。俺が王の森を抜け出た時が、世界の終焉を迎える時だ」



 ラードーンは大口を叩くが、本当はかなり怯えている。それは、いくら私に攻撃しても全く効果がないからである。



 「そうなのですね。てっきり炎のマッサージで私を癒してくれていたのだと思いました」



 「ラードーン様大変です。ドッグワンがホットドックに返り討ちにされました」


 「ホットドックさんは無事みたいですね」



 私はホッとした。


 ホットドッグはスピードは遅いが戦闘力は高いのである。



 「余計な事を言うな!」



 ラードーンは部下の安易な発言により、ホットドッグの無事か確認されたことに激怒した。



 「貴重な情報をありがとうございます。これで、心置きなく戦う事ができます」



 私はラードーンの配下にお礼を言った。



 「ウルフキングよ・・・待ってくれ。俺の話を聞いてくれ」



 ラードーンの大きな体がブルブルと震えている。



 「私は争いは好みません。しかし、話し合いで解決した事など一度もありませんでした。私の手は何体もの同胞の魔獣の血で汚れています。もう・・・戦う事でしか解決しないと私は知ってしまったのです」



 私は、ただみんなと平和に暮らしたいだけであった。しかし、フェニに連れられて、森を抜け出してわかったのです。この世界の魔獣は、争いを好む生き物だと。だから、私は力によって魔獣の争いを無くすことにした。



 「俺は話し合いで解決を望む魔獣だ。争いはよくないはずだ」



 ラードーンは、私に勝てないと判断して命乞いをしている。



 「あなたは私に勝てないと判断して態度を変えただけです。さっきまであなたの行いを、あなたご自身はどう考えているのですか?あなたも魔獣王と名乗るのでしたら、自分の信念を貫いてください」



 私は何度も態度をコロコロ変える魔獣を何度も見てきた。なので、態度をすぐに変える魔獣など信用しない。



 「自分より強いモノに頭を下げて何が悪いのだ。俺は自分より弱いモノには強く出るし、自分より強いもには頭を下げてコビを売るのだ。それが俺の生き方だ!」


 


 「ラードーンよ、そのままウルフキングの気を引いておけ、ウルフキングにスキができたら、上空へ一気に逃げるぞ」



 ラードーンに声をかける人物がいた。



 「潔い意見です。しかし、本来は逆だと思うのです。親は自分より弱い子供を守るために、命懸け戦います。それと同じように、力のあるモノは、力のないモノを守る必要があるのです」



 私は、ラードーンと話し合いなどするつもりはなかった。しかし、ラードーンの言葉に耳を傾けてしまったのである。



 「そんなのは茶番だ。力の弱いモノは、力の強いモノに服従をして安全を確保するのだ。だから力の強いモノは、自分の好きなようにすればいいのだ。それが魔獣の世界の掟だ。俺の考えのが正しいのだ」



 ラードーンは私を挑発するかのように饒舌になっていく。



 「だから争いがなくならないのです。力の強いモノに虐げられたモノは、さらに強いモノに助けを求めるでしょう。そして、強いモノ同士が争い、さらに虐げれるモノが増えるだけです」


 「それの何が悪いのだ。俺がその頂点に立つ魔獣王だ。俺が1番魔獣の中で偉いのだ!だから全てが俺の思い通りにいかないとおかしいのだ!」


 「私としたことが、あなたの話し合いに応じてしまいましたね。いくら話しても、平行線は交わることはないのです。私は私のやり方で、魔獣の世界を変えてみせます。あなたはあんたのやり方を貫いてください」



 私は、ラードーンとの無駄話をしたことに後悔をしていた。いくら話しても返ってくる答えは、つまらない考えばかりである。私はため息をついて気持ちを入れ替えた。



 「今だ。空へ逃げるぞ」


 「わかったぜ」



 『サンドパラダイス』


 

 1人の騎士がラードーンに背に乗って、魔法を放った。


 辺り一面に砂嵐が起こり、私の視界を封じたのである。


 ラードーンは全速力で上空へ逃げていった。



 『ホワイトブレスβ』



 私は、微かに見えたラードーンに向かって『ホワイトブレス』の強化版の『ホワイトブレスβ』を放った。



 白い波動がラードーンを襲う。



 「ヤバイぞ。避けろ」


 「無理だぁー」



 ラードーンの情けない声が響く。


 私の放った『ホワイトブレスβ』がラードーンの98本の頭に命中した。



 「グギャーー」


 

 白い波動がラードーンの頭を次々と切り落とす。



 『ライトシールド』



 騎士がシールドを張った。


 しかし、騎士の張ったシールドも白い波動がぶち壊す。



 「悪いが、お前を助けることは出来なさそうだ」



 騎士はラードーンから飛び降りて、新たなドラゴンを召喚して、上空へ逃げて行った。





 

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