第36話 キューカンバの町パート3



 「準備はできているぜ」


 「ありがとうございます」


 「俺たちは、何もしなくていいんだな」


 

 集合場所の港には、ギルマス以外に数名の衛兵とギルドの職員がいた。



 「はい。船の船長以外は、危険ですので港で待機していてください」


 「わかった。検討を祈る」


 

 私は背中にブドウがたくさん入ったカゴを背負って、クラちゃんと約束した沖の方へ向かった。船も私の行く方向へ着いていく。



 「むこうに、クラーケンが見えるわ」


 「確かに何か大きな生き物が見えますわ」



 ポロンさんは、エルフなのでかなり目がいいのである。



 「近づきすぎると危険だが、この距離だとクラーケンを確認できないのでもう少し近づくぞ」


 

 クラちゃんは予定通り、あまり波をたてずにじっと頭だけ出してくれている。クラーケンは大きので、頭だけでも10mはある。クラちゃんは、私に気づいて胴体を海から出して、触手を突き出し手をふりだした。



 「クラちゃん、余計な事はしないで」



 クラちゃんには、私の心の声は聞こえず、私が気づいてないと感じたのか、さらに触手を出して4本の触手で、大きく手を振る。クラーケンは触手だけでも、20mもあり、その触手が振り動くのだから、その影響で大きな波が発生する。



 「クラーケンが、暴れ出したみたいだぞ。ここからだと、まだ遠い、船長、悪いがもう少しだけ近づいてくれ」


 

 「ブドウまだなのーー、お腹空いたよ」



 これ以上クラちゃんを、待たせるのは危険だ。小芝居がバレてしまう。私は、ロキさんたちが乗る船が、射程圏内に入るのを待たず、攻撃というなの餌付けを始めた。



 「ロキお姉ちゃん、先に仕掛けます」



 私は、背中のカゴのブドウを、魔法で次々とクラーケンの口元へ放り込む。クラーケンは触手を、激しくバタつかせて喜んでいる。しかし、その激しい動きで大きな波が船を襲う。


  

 「ロキさん、これ以上近づくのは無理ですぜ」


 「仕方がない、ここから攻撃するか」


 

 クラちゃんはブドウがおいしくて、喜びのあまりはしゃぎすぎて、船が予定の射程圏内まで近寄れない。



 「私に任せてください。目は良いので、この距離でも弓を放てますわ」

 

 「ポロン任せたぞ」



 ポロンさんが矢を放つと、ロキさんがすかさず、魔法で矢の後方にブドウの束をまとわせる。矢は寸分の狂いもなく、クラーケンの口元へ放たれる。



 「パクリ。パクリ」


 「これは、効いているの?私にはクラーケンが喜んでいるように感じるわ」


 「大丈夫です。ロキお姉ちゃん。クラーケンは苦しんでいます」


 「暴れているから、苦しいんじゃないか」


 「そうですわ。さらにブドウを投げつけましょう」



 あぶない、あぶないロキさんにバレるところだった。トールさんのおかげでなんとか誤魔化せた。クラちゃんとの約束では、もうそろそろ、退散してくれる予定なのだが、あの食いしん坊は、もっとよこせと暴れている。苦しくてじゃなくて・・・



 私と、ポロンさんで、クラーケンへのブドウの餌付けは続くが、一向に退散する気配がない。もうブドウも尽きそうだ。



 「うー苦しいよ。ブドウの匂いは苦しいよ。うーもっと欲しいよ」



 ダメだあの食いしん坊は・・・しかもブドウは、これで最後だ。



 「クラーケン!これが最後のブドウです。これで観念してください」



 私は大声で、説得することにした。



 「エーン・エーン、もう少し欲しいよ。食べたいよ」



 「おっ、クラーケンがなんか、わめいているぞ。かなり効いているみたいだぞ」


 「そうなの。なんか違うような気がしますわ」


 「効いていますわ。これが最後のブドウですわ。これでとどめをさしましょう」



 これほど、あの2人が頼もしいと思った事はない。良いメンバーに恵まれたと私は感謝した。しかし、ポロンさんの最後のブドウでもクラーケンは、まだ欲しいと駄々をこねるのであった。



 「うー苦しいよ。苦しいよ。イチゴの匂いがあれば、逃げてしまいそうだよ」



 やっぱり、クラちゃんはイチゴを要求してきた。私は、こうなるのではないかと心配していたので、イチゴもこっそり用意していたのである。


 「これで。本当に最後です。これを喰らいなさーーーい」



 私は、多量のイチゴをクラーケン目掛けて放り投げた。



 「やったぁー・・・うーうー、苦しいよ。嬉しいよ。」



 と触手を振りながら、クラーケンは海の中へ消えていった。



 「撃退したみたいだな」


 「やりましたわ」


 「なんか、手を振っているみたいに見えたのは気のせいかしら?」


 「ロキお姉ちゃん、クラーケンは苦しんで退散しました。これでこの町の人も安心して、漁に出ることが出来ます」


 「あ・ああ、そうだね」


 

 私は、ロキさんにバレないように、急いで港に向かった。港では、クラーケンがはしゃいでおきた波だけが見えていたので、かなり心配していたみたいだ。私たちが戻ると、心配そうにギルマスが近寄ってきた。



 「かなり激しい戦闘に、見えたが大丈夫ですか」


 「大丈夫です。クラーケンは、無事に逃げていきました」

 

 「それは助かる。これで、明日からは、漁に出かけることができる。私から、この町の領主様に報告しておくので、明日ギルドに来てもらえないか。そこで今回の報酬のことを話そう。まさか、ブドウで撃退できるなんて今でも信じられない」



 そう言うと、ギルマスは急いで領主様の元へ向かった。私たちは、宿屋に戻り体を休めることにした。


 次の日、ギルドに向かうと、領主様がギルドの部屋で待っていてくれた。



 「君たちが、クラーケンを撃退してくれたのかね」


 「はい」


 「そうか、この町を救ってくれてありがとう。この町は、漁業と果物の栽培で成り立っている。クラーケンが、あらわれてから、漁に出られず困っていたところだ。もし1か月も滞在されたら、経済に大打撃が起きるところだった」


 「これで、魚料理人食べれるぜ」


 「トール、領主様の前だぞ」


 「いやいや、気にしなくて良い。この町の魚料理は絶品だからな。さっそく、朝から漁に、出かけているみたいだから、今夜は町の広場で、クラーケン撃退パーティーを開く予定だ。君たちには、ぜひ参加してほしい」


 「タダで食えるのか」


 「トール」


 「もちろんだ」


 「やったぜ。でもブドウ酒がないのは悲しいぜ」


 「わしの蔵からブドウ酒は用意しよう」


 「あの、ブドウジュースはないのですか」


 「ポロンまで、何を言っているの」


 「もちろん用意しとくよ」


 

 2人は涙を流して喜んでいる。しかしほんとに泣きたいのは、ロキさんであった。これでまた、暴食の通り名が広まってしまうと。



 2人は、念願の飲み物が飲めるとあって、夜が来るのをすごく楽しみにしていた。あのトールさんが、夜のために、体調を万全にしたいと、お昼ご飯をおかわりをしなかったぐらいである。

 

 しかし、夜になって、町の広場に行くと、どこを探しても、ブドウ酒・ブドウジュースは見つからない。2人は広場の会場をくまなく探すが見当たらない。周りの人に尋ねてみると、さっきまでたくさんあったらしいとのこと。


 どこえ消えたのだろう。しかし私は知っている・・・


 この広場に来たときに、白い髪のポニーテールの女の子の後ろ姿を見たのであった。あの食いしん坊は帰ったふりをしていたみたいだ。見つけ出して、お仕置きをしてあげないと。だって、私はクラちゃんよりも強いんだから。





 


 



 

 

 

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