第35話 キューカンバの町パート2
あの女の子は、間違いないクラちゃんだ。クラちゃんとは、もちろんクラーケンのことである。
クラーケンは、この世界では、海に住む魔獣と思われているが、実際は神界に住む神獣である。たまに人界へ訪れて、大好きな海の幸などを食べに来る。神獣のため人を襲う事はないが、移動時に起きる津波に巻き込まれて、船が海に転覆する事はあるが、きちんと魔法で元通りにして転覆した記憶を消すのである。
海に、あらわれることはあるが、人の姿に変身して町にまで来ることはない・・・はずだった。
クラちゃんとは、天使様との訓練で知り合った。体長30mもある大きなイカの神獣なので、はじめは、コテンパにやられたが、訓練を重ねるごとに勝つことができるようになった。
何度も戦うことで、そのうち仲良くなり、女子トーク友達になった。そして、この世界の本で学んだ、美味しい料理や飲み物の話しで盛り上がった。
あの時に、確か、美味しいブドウ酒やブドウジュースを作る町があるから、いつか2人で行けるといいねと話した記憶がある。
この町にクラーケンがあらわれたのは、ほんの少し?だけ、私にも責任があるのかもしれない。
「あれ、ルシスちゃんだよね」
クラちゃんが私に気付いて飛びついてきた。私は急いでクラちゃんの手を引っ張って、みんなの元からはなれた。
「こんなひとけのないところへ、私を連れ込んで何をする気なの」
クラちゃんは意地悪そうに言う。
「変な言い方しないで、クラちゃんと友達と知れたら説明が面倒になるからよ」
「私との関係は遊びだったのね」
「・・・クラちゃんも正体がバレたら困るんじゃないの」
「それは・・・」
「だよね。それにしても、町まで来て大丈夫なの」
「・・・どうしても、あの時に聞いた、ブドウ酒とブドウジュースが飲みたくて、ついつい来てしまったの。それで、飲み出すと止まらなくなってね。もうあの店で、この町にある物は全て飲み干したわ。でも、一週間後には、また入荷されるからそれまで我慢するよ」
「ダメです。」
「何で、お金ならたくさんあるよ」
「お金の問題じゃなくて、町の人が困っています」
「そうなの?ちゃんとお金払っているのに」
「一人占めなのが、ダメなのです」
「・・・・」
「それと、港に長く滞在すると、町の人が困るので、できたら迷惑のかからない港から離れたところ滞在してください」
「面倒だよ」
「お願いします」
「わかったわ。そのうちね」
「今すぐです、もう十分に飲んだでしょ」
「・・・・」
「天使様に報告しようかなぁ」
「戻ります。今すぐに」
「でも、1つ問題があるの。クラーケンは1か月ほど、港に滞在すると考えられているの。クラちゃんはここに来てどれくらい経つの」
「今日で4日目かな」
「そうなのね。今すぐ港を離れても、クラーケンがいなくなったとは誰も思われないの。どこかに潜んでると、警戒して海に漁に出る事はしないわ。そこで、クラちゃんに一芝居して欲しいの」
「どうするの?」
「そうだね。クラちゃんが、ブドウの匂いが弱点という事にして、ブドウを投げると逃げ出すというのはどうかな」
「ブドウかぁ。あのブドウ酒・ブドウジュースの原料だね。それは、美味しそう・・・じゃなくて、名案だね」
私は、美味しいものを与えたら、言う事を聞いてくれると思ったので、この食いしん坊作戦を考えたのである。
「そしたら、準備をしてくるから、また明日ここで待ち合わせしましょう。その時に詳しい計画内容を伝えるわ」
「わかったわ。そういえば、イチゴも美味しと言ってたよね。イチゴもくわえてくれると嬉しいわ」
私はクラちゃんの提案を無視して、みんなのもとへ戻った。
まだトールさんとポロンさんは倒れ込んでいる。ロキさんは、必死に2人に声をかけているが、反応はない。
「2人は、大丈夫ですか」
「ダメだわ。抜け殻のようになってしまって反応がないのよ。それよりルシスちゃん。さっきの子は知り合いなの?」
「いえ、人違いだったみたいです。知らない人が、いきなり抱きついてきてびっくりしました」
「そうだったのね。ところで、この2人はどうしようかしら」
「そうですね・・・・あ!あの店は、まだブドウ酒もブドウジュースも飲めるみたいです」
「なんだと!」
「何ですって!」
2人は倒れていたのが嘘みたいに、すくっと立ち上がった。
「嘘です」
「騙したな」
「ひどいわ」
「それよりも、大事な話しがあるのでこのお店に入りましょう」
2人はしぶしぶ着いてきた。店に入ると、私はクラーケンをこの港から追い出す方法があることを説明した。
「ほんとに、そんな方法で追い出すことはできるの?」
「はい、家にあった古い本にそう書いてありました」
「このピーチジュース美味しいですわ」
「いやいや、このピーチ酒もかなりいけるぞ」
2人のことは、無視しておこう。
「試してみる価値はあるね。この町のギルドに行って相談してみよう」
「はい」
「ここのサラダは、野菜の種類が豊富で美味しいですわ」
「いやいや、ここのステーキの分厚さといい・・・・・・・・・」
私は、2人をおいて、ロキさんと冒険者ギルドに向かった。
私たちは冒険者ギルドにつくと、ギルドマスターを呼んでもらって、クラーケンを町から追い出す作戦を提案した。
「クラーケンを追い出せるのは嬉しいが、本当にこの作戦で追い出せるのか?」
「大丈夫です。信じてください」
と言ったロキさんだが、不安げに私を見ている。
「ラスパのリーダーのロキさんが言うなら信じよう。ブドウはこの町の名産品だ。最近、ブドウ酒・ブドウジュースが品切れになってき、ブドウ自体も品薄になりつつあるが、今から商業ギルドにいって、ブドウを確保してくるので少し待っていてくれたまえ」
そう言うと、急いで出て行った。
そして、しばらくするとギルマスは戻ってきた。
「なんとか、100房ほど確保できるがこれで足りるか」
「はい、なんとかなりそうです」
「それでは明日までに用意しておく。それと船を1隻用意すればいいのだな」
「はい。お願いします。それでは、明日の晩にでも決行します」
「任せたぞ」
「ご安心ください。必ず、この港からクラーケンを追い出してきます」
そう告げると、私たちはさっきの食堂に戻った。食堂に戻ると、2人はお互いの食べた料理の感想を言い合っていた。
「2人とも、宿屋にもどりますよ。明日の晩、クラーケンをこの港から追い出します。詳しい事は、宿屋についてから、説明します」
「わかったぜ。クラーケンがいなくなったら、魚料理が食べれるしな」
「そうですわ」
私たちは、宿屋に着くと、私が考えたクラーケン追いだし作戦を説明した。内容はというと、私は空から、魔法でクラーケンに目掛けて、ブドウを投げつけて、3人は船である程度近づいて、ブドウを弓にセットして投げる作戦である。出来るだけ、口元に目掛けて投げるようにお願いした。
翌朝、クラちゃんとの待ち合わせ場所に行き、作戦の内容を説明した。
「イチゴも投げて欲しいよー」
クラちゃんの言葉を無視して、私は宿屋に戻った。
そして、準備を進めて決戦の夜を迎えたのであった。
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