第426話 スカンディナビア帝国編 パート14


 「魔王の降臨だけは絶対に食い止めないといけませんわ。トールの家族の命も守らないといけないけど、魔王がこの世界に現れたらとんでもないことになってしまうわ」


 「でも・・・ブラカリの町のいい伝えだと魔王は決して悪とは言えませんわ」


 「キューティーメロンさん、スイートデラウェアさん、魔王ではなくて魔王様です。そして、スイートデラウェアさんの言う通り魔王様は絶対に悪ではないのです。だから、魔王様は人間の命と引き換えに魔界から現れて巨人族に手を貸すようなことはしないはずです。魔王様は崇高で高貴な立派なお方だと存じています」



 私は前のめりになりながら鼻息を荒くして魔王様の崇高さを伝えようとした。しかし、私のあまりの興奮ぶりに2人は呆気にとられるのである。



 「そ・・そうなのね」



 キューティーメロンは私の興奮ぶりに納得せざる得ないのである。



 「プリティーイチゴの言う通りだと思うわ」



 スイートデラウェアも同調するしかないと判断した。



 「魔王様の降臨はないと思いますが、巨人族の動向はしっかりと把握しておかないとね」


 「そうですわ。ルシスちゃんの情報では、百腕巨人のヘカトンケイルと単眼巨人のキュクロプスがトールさんの護送を手伝っているみたいね。この2人の巨人をどう退治するか考えないといけないわ」



 「ヘカトンもキュクロも大したことないわよ。私の炎で丸焦げにしてあげますわ」



 サラちゃんが高らかに笑いながらメロンパンをむさぼり食っている。



 「そうね。サラちゃんに任せておけば大丈夫ですわ」



 キューティーメロンは、頼もしいサラちゃんがいるので危機感はない。



 「精霊神様が一緒だなんて心強いわね」



 スイートデラウェアも、精霊神であるサラちゃんがいるので、自分の出番はないと感じている。



 「う・・・う・・・お腹が・・・」



 サラちゃんが急にお腹を抑えて苦しみ出した。



 「サラちゃん!!大丈夫」



 キューティーメロンがサラちゃんに駆け寄った。



 「お腹がいっぱいでこれ以上メロンパンが食べれないわ」



 サラちゃんは朝からずっとメロンパンを食べ続けていた。私のストックとして持ってきたメロンパンは、ほぼサラちゃんに食べ尽くされていた。



 「なーんだ。お腹いっぱいになっただけだったのね」



 キューティーメロンは、サラちゃんが体調が悪くなったと心配したが、取り越し苦労に終わったと思ったが・・・



 「もうお腹がいっぱいなのでしばらくお休みしますわ」



 サラちゃんは、お腹がいっぱいになると眠りについてしばらくは目を覚ますことない。



 「サラマンダー様、こんなところで寝ていたら風邪を引かれます。イディさんに帰りましょう」



 イフリートが精印から出てきてサラちゃんを連れて帰ってしまった。



 「・・・」



 キューティメロンの空いた口が塞がらない。それはスイートデラウェアも一緒だった。巨人族相手に楽勝モードだったが、一気にお通夜のように静かになってしまった。



 「プリティーイチゴ・・・どうしましょう?」



 キューティーメロンは私に助けを求める。



 「1号ちゃんから速報です!トールさんのお兄様であるマグニが、捕らえていたビューレイスト元から逃げ出したみたいです。そして、マグニを追ってビューレイストと巨人達がロキお姉ちゃん達の元から離れたみたいです。今がロキお姉ちゃん達を救い出すチャンスかもしれません」


 


⭐️場面が変わります。



 「マグニがいないぞ!」


 「そんなはずはない。鎖でグルグルに縛っていたはずだ。逃げ出すなんて不可能だぞ」


 「しかし、荷台にはマグニの姿はありません。逃げ出したに違いありません」


 「すぐに、ビューレイスト様に連絡しろ!」


 「わかりました」





 「ロキ、マグニが逃げ出したみたいだ」



 ロキさんとトールさんが乗っている馬車にビューレイストが顔を出した。




 「・・・」


 「お前の仕業ではないのだな!」


 「・・・」



 ロキさんは少しも表情も変えることなくただじっとしている。



 「あの状態で逃げ出すとは俺はマグニを甘く見ていたのだろう。あいつも『神の血縁』を継ぐものだと忘れていたぜ。マグニの特殊能力は『分身』だ。『分身』の能力を使って上手く逃げ出したのか・・・ロキ、お前もマグニの捜索を手伝え」


 「・・・」


 「ロキ!俺の言うことが聞けないのか」


 「私は与えらて使命を全うするだけです。マグニの捜索は私の使命ではありません」



 ロキさんは、静かに目を動かしてビューレイストを睨みつけた。



 「わかった。お前の好きにするがいい。しかし、俺たち一族が今ままで苦しめられていたことを絶対に忘れるなよ。俺は『透明』の能力がなければ殺されていた。俺はこの幸運を天命だと思い、アーサソール家を滅ぼすためだけに俺は人生を捧げてきたのだ。あとは王都に戻ってアーサソール家を処刑すれば俺の悲願は達成するのだ。そのためにもマグニを逃すわけにはいかないのだ」



 ビューレイストもロキさんを睨み返して思いの丈をぶちまけた。



 「先にトールを連れて王都に戻っておけ。お前は父から与えられた役割を全うしろ」


 「・・・」



 ビューレイストは、馬車から降りてマグニの捜索へ向かった。



 「ロキ・・・これからどうする?」



 長いことを口を閉ざしていたトールさんが重い口を開いた。



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