第47話 王都パート3



 「俺がリカーミストの能力を発動している時は、俺の半径3m以内に入ると脳内のアルコール濃度を高めてお酒に酔った状態と同じ状況を作り出すことができる。だから、俺に近寄れば平衡感覚を失いまともに立っていることはできないぜ」


 「秘密をペラペラと喋って大丈夫なのか」


 「知ったところでどうする事もできまい」


 「なら、近寄らなければいいことだ」



 トールさんは、接近戦を諦めて中距離での魔法攻撃に切り替えた。トールさんが武器を介入せずに、魔法だけで攻撃するのはめずらしい。それほど近寄ると危険なのであろう。


 トールさんは、雷風属性だ。なので電・風の魔法が得意だ。そういえば、ゴブリンキングを倒したときは電撃を使っていた。


 距離を保ちつつ、トールさんは、指先から雷光を撃ち放つ。


 雷光は、バッカスのリカーミストの範囲内に入ると消滅する。



 「俺には、魔法は効かないぞ。リカーミストは、攻撃魔法を無効にする能力もあるのだ」



 「なら、これは、どうだ」



 トールさんは、ハンマーを振りまわし、ハンマー投げのようにして、バッカス目掛けてハンマーを投げつける。



 「リカーシールド」



 ハンマーは、バッカスのリカーミストのシールド能力により防がれる。



 「無駄な事を。俺を倒すには接近戦しかないぜ」


 「そうみたいだな」



  トールさんは、覚悟を決めたみたいだ。バッカスに勝つには、リカーミスト内で、戦うしかないのである。私が加勢することができるのなら、いくらでも戦い方がある。しかし、この戦いは戦闘ではなく、あくまでルールのある試合なのである。だから、2人の戦いに誰も手を出さない。




 一方ロキさんは・・・・こちらもかなり苦戦している。


 ロキさん、そして相手のソールも同じ火属性であるみたいだ。


 ロキさんは、灼熱の炎を剣にまとい攻撃を仕掛けるが、相手に炎のが数段も火力が強い。ソールの剣戟を凌ぐのが精一杯である。ソールの剣がまとう黒炎は、闘技場の温度を上昇させる。観客席の者は、暑くて席をたつ者さえもいる。


 その剣をさばいているロキさんは、かなりの暑さであろう。全身から汗が滲み落ちている。火属性の者は、火の耐性を持っているのに、それでも、あの状況だからソールのまとう黒炎はものすごく暑いのだろう。



 その一方・・・・・ポロンさんは、どこから取り出したのか、うちわで仰ぎながらジュースを浴びるように飲んでいる。


 

 トールさんは、バッカスのリカーミスト内に入る。脳が揺らされているかのように、平衡感覚がなくなる。しかし、ふらつきながらもハンマーでバッカスを攻撃する。


 しかし、力の入らない攻撃は容易く斧で弾かれる。弾かれて、よろめいたところを、バッカスは斧を振りかざす。トールさんは、転がりながら斧を避ける。


 バッカスは攻撃の手を緩めない。何度も何度も、斧を振りかざす。トールさんは、転がりながらも、斧の攻撃を避ける。トールさんは、かなり体力を消耗している。リカーミストの効果と、体力の消耗でもう立ち上がる事が出来なくなっている。



 「しつこいやつだな。トドメを刺してやる。ゾーイ、頼んだ」


 「やっと私の出番が来たね。もう出番はないのかと思ってたよ」


 「思ったよりこいつがしぶとくてな。攻撃力とスピードを上げてくれ」


 「任せといて」



 そいうと、ゾーイは、バッカスの攻撃力、スピードアップの魔法をかけた。



 「おい、まだか。全然力が湧いてこないぞ」


 「いや、おかしいわ。先ほどから魔法をかけているはずよ」


 「早くしろ!俺の足を引っ張るな」


 「そんなことはないわ。いつも通り魔法をかけているわ。あなたがおかしいんじゃない」



 2人は、言い争っているが、もちろん、私が魔法を無効化していた。後衛は相手の後衛に対する、支援の邪魔はできるのである。



 「うぁーー」



  バッカスが悲鳴をあげる。



 「おいおい、戦闘中に、よそ見とは油断が過ぎるぜ」



 トールさんがハンマーでバッカスの頭部を叩きつける。


 バッカスとゾーイが言い争っている時に、私がトールさんの体力を回復したのである。バッカスの詳しい能力は知らなかったが、バッカスに接近すると危ないとは知っていた。そして、ゾーイという支援魔法が得意の者がいることも知っていたので、こうなる展開はある程度予測していた。だから、トールさんが試合前にこの作戦を立てていた。


 作戦通り、幼い私に対しては無警戒であった。すぐに魔法で支援すると警戒されるから、ギリギリまで、トールさんの回復はしないようにしていた。バッカス達にとっては私は、弱い支援魔法しか使えないと思っていたのであろう。



 「バッカス、大丈夫」


 「ウーーー」



 バッカスが、倒れ込んだことにより、リカーミストの効力が切れた。トールさんは、このチャンスを逃すはずはない。バッカスに、トドメの一撃を加えようとした。



 「ロックフォール」



 ゾーイは、トールさん目掛けて、攻撃魔法を仕掛けた。これは、規則違反だ。私はすかさず、ライトシールドを張った。そして、ゾーイに目掛けて炎球を投げつけた。



 ゾーイは、シールドを張ったが、シールドごと炎球の炎に包まれる。



 「少しやりすぎたかな」



 私はすぐに、炎を鎮火させる。そこには、髪がチリチリになったゾーイが呆然と立ち尽くしている。


 トールさんの方は、ハンマーの前で気を失っているバッカスがいる。トールさんはトドメを刺さず、バッカスの目の前にハンマーを叩きつけたのであった。




「勝敗は決まったみたいだわ。あなた達の勝利ね!」



 ロキさんと戦っていた、ソールが私のところへきてそう告げた。


 ロキさんとソールの試合は引き分けだったみたいだ。しかし明らかに、ソールは手を抜いていたらしい。



「バッカス達の失礼な態度、ほんと申し訳ございません。しかし、これであなた達の力を王都の冒険者に見せつけることができたはずよ。私を相手にロキさんもかなり善戦してたしね。これで、あなた達がCランク冒険者になることは、誰も文句は言わないと思うわよ」


 「善戦・・・完敗でわ」


 「俺もバッカスに勝てたのは、相手が油断したからだ」


 「油断するのが悪いんですよ」


 「そうですわ。自分の能力に過信する者は強くなれないわ。だからバッカスはあれが限界だったのよ。でもあなた達はもっと強くなれるはずよ。期待しているわ」


 「ありがとう。次あう時は、今よりさらに強くなってやるぜ」


 「私もよ」


 


 私たちは勝利をおさめ、はれてCランク冒険者になることができたのであった。




 そういえば、ソールが私に近づいた時、石が黒く輝いた気がした。もしかして彼女は・・・聖魔教会の関係者なのかもしれない。






 「これで、依頼は完了ですね」


 「ありがとうございます。ソールさん。これで、王都の者も暴食の皆さんのCランクに対して、文句を言うことはできなくなります。ディーバ様もさぞお喜びでしょう」


 「私もあの子には、少し関心があったので丁度よかったわ」


 「でも、よかったのですか?バッカスとゾーイの立場はかなり悪くなったのでは」


 「問題ないわ。これで、あの2人をパーティーから解消する理由もできたしね。それに、2人の利用価値も無くなったしね」


 「そうですか。また何かあれば、ご協力お願いします」


 




 

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