第46話 王都パート2

 


 冒険者ギルドの裏側には、大きな闘技場がある。ここでは、様々な大会やイベントが行われている。そして、冒険者同士のいざこざにも使われる事もたまにある。


 闘技場には、どこで聞きつけたのか、たくさんの観客がいるみたいだ。私たちは冒険者ギルドの受付に向かった。



 「よく、逃げ出さずに来たな」


 「いいから、闘技場に案内しろ」


 「はぁー、案内して下さいだろ」


 「お前から、ぶち殺してやろうか」

 

 「俺に手を出したら、どうなるかわかっているのか」


 「どうなるか、試してやるわ」



 トールさんはハンマーを握り締め、受付の台に目掛けて叩きつけた。



 「ぎゃー、やめてくれ」



 受付の男性は悲鳴をあげて腰をぬかす。



 「そのくらいで勘弁してあげて」



 ギルマスのフレイが奥の部屋から出てきた。



 「代わりに、私が案内してするわ」


 「ああ」


 「受付の対応が悪くてごめんね」


 「かまわない。王都では俺たちは嫌われ者だからな」


 「王都の人間といい冒険者といいナワバリ意識が高いくて、よその国の冒険者に対して敵意を持っていますわ。これも神守教会の影響ですわ」


 「ギルマスがそんなこと言っていいのか」


 「私は、王妃様派の人間だから問題はないの。むしろ、この雰囲気を変えたいと思っているのよ。そのため、ディーバも君たちにCランク冒険者に推薦したのだと思いますわ」


 「そういう意図もあったのか」


 「そうよ。そして、こうなることも想定していたはずよ」


 「俺たちは試されているのか」


 「試すのとは少し違うかもしれないわ。むしろ期待していると思うのよ。ただ、金玉が相手ではかなりきついと思いますわ」


 「そうかもな、とりあえず全力で戦うのみだ」


 「応援してるわよ」



 私たちは、フレイさんに闘技場まで案内してもらった。冒険者ギルド内の通路は闘技場まで繋がっていて、すぐに着くことができた。そして、控え室で待つように言われた。



 「作戦通り俺とロキが前衛で戦うから、ルシスは、後方で相手の支援魔法を抑えてくれ」


 「はい。私は攻撃に参加しなくてもいいのですか」


 「冒険者同士の3対3の決闘は、基本は前衛同士が戦い、支援者は仲間の支援のみを行うのよ。しかも前衛は、1体1での戦いをすることになっているのよ。前衛が1勝1敗の引き分けになったら、後衛が戦うのが暗黙のルールになっているわ。しかし、支援者を妨害するのは許されているわ。冒険者同士の決闘は、戦いというよりも、スポーツ的な要素が強いのよ。しかし、この暗黙のルールを破って、支援者が前衛と協力して攻撃をすることもあるので、その時は迷わず支援者を倒してくれてかまわないわ」


 「わかりました。もし、支援者が、ロキお姉ちゃんたちに攻撃したらやっつけてやります」


 「頼もしいな」




 「ラスパの皆さん。試合が始まりますので、こちらの通路から闘技場の広場に行ってください」


 「いよいよですね」



 ロキさん達は、かなり緊張しているみたいだ。相手はかなり強いから仕方がないのだろう。



 「ああ、Cランクになろうぜ」


 「はい。がんばりましょう」


 「頑張ってくださいね」



 ポロンさんは、飲み物を片手に持って観戦モードに入っている。


  

 闘技場の広場に出ると、私たちに向けて罵声が飛んでくる。



 「早く、やられてしまえ」


 「亜人は殺せ」


 「この国から出ていけ」



 広場の反対側には、金玉のメンバーがいる。



 「バッカス任せたぜ」


 「金玉最高」


 「ソール様頑張って」



 闘技場の観客は全員、金玉を応援している。



 「逃げ出さずに、来た事だけは褒めてやろう」



 バッカスが偉そうに言う。



 「・・・・」


 「怖くて、何も言えないか。今なら、Cランク冒険者を諦めて、逃げ出してもかまわないぜ」


 「・・・・いいから、早く始めろ」


 「生意気な奴め!生きて帰れると思うなよ。ここでお前らを殺しても誰も止めないからな」



 

「それでは、金烏玉兎対ラストパサーの試合を行います。金烏玉兎の前衛は、バッカス様とソール様です。後衛はゾーイ様になります。よそ者達の前衛は、トールにロキ後衛は亜人のガキになります。それでは、金烏玉兎様による、よそ者達への処刑を開催いたします」


 「うおぉーーーーー」


 「殺してしまえ」



 闘技場は、すごい熱気に包まれている。ここの闘技場に来ている者はラスパのメンバーへの怒りが

大きい。よその国の者が王都でCランク冒険者になるのは、前例がなく絶対に認めたくないのである。さらに、パースリの事件後は、他種族への怒りはとてつもなく大きくなっていた。



 「バッカスは俺がやる。悪いがソールの相手は任せたぞ」


 「わかったわ。勝てる気はしないけど全力でぶつかるわ」


 「ロキ・・死ぬなよ」


 「お互いにね」


 「私が絶対に殺させはしませんよ」


 「そうだな。ルシス」


 「頑張ってね」



 ポロンさんは、ジュースを片手に持ち、もう片方の手で唐揚げとポテトを持って、闘技場の広場の席に座りながら声をかけてくれた。この異様な空気感の中でもマイペースなポロンさん。エルフの国を出てたくましくなったものである。



 「俺から行くぜ」



 トールさんは、ハンマーを両手で持ちバッカス目掛けて走り出した。



 「威勢がいいな。でも俺に近づけるかな」



 トールさんはバッカスに近づくと、急によろめきだした。まるでお酒によっているかのように。



「なんだこれは、頭がクラクラして、思うように動けないぜ」


「不用意に飛び込んでくるとは、バカなやつだぜ」



 バッカスは、ふらついているトールさんに目掛けて、斧を振りかざす。トールさんは、ハンマーでかろうじて斧を防ぐ。



 「この状態で、なかなかやるじゃないか、でもいつまで防げるかな」


 

 バッカスは、攻撃の手を緩めず、斧を振り回す。トールさんは、フラフラになりながらも、攻撃を凌ぐが完全には防ぐことができず、浅いが斧が体を切り裂いていく。



 「くそ。やばいな」



 トールさんはバッカスから距離をとる。



 「俺には、近づけないだろう。これが、俺が神から授かった能力『リカーミスト』だ」



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