第399話 ボルの人界征服編 パート12
「えっ!今なんて言ったのよ」
サラちゃんの声がパン屋の店内に響き渡る。
「申し訳ありません。先程のお客様のご注文でパンは全て売り切れてしまいました。またのご来店をお願いします」
パン屋の店員は深々と頭を下げる。
「嘘よ。そんなの信じなわよ!すぐに私に美味しいパンを食べさせるのよ」
「申し訳ありません。お詫びにこのパンの無料チケットをお渡しします。朝の9時から開店していますので、このチケットをお持ちいただけたら優先的にパンをお渡しいたします」
「グヌヌヌヌ・・・」
サラちゃんは、無料チケット受け取りチケットを強く握りしめて怒りを抑えるのである。
「私のパンが・・・私の美味しいパンが・・・」
サラちゃんのパンが食べれなかった怒りは、今にも爆発寸前であるが、店員に怒りをぶつけるのは間違いだとわかっているので、ぶつぶつと呟きながらチケットを握りしめて店を出て行く。
「私のパンが・・・私のパンが・・・」
サラちゃんのパンが食べれなかった怒りは収まることはない。ぶつぶつ呟きながら下を向いて、冷静を装うとする。
『バーーン』
サラちゃんは、何か大きな物体にぶつかりはじき飛ばされる。
『邪魔なのよ!」
サラちゃんはスクッと立ち上がり、パンを食べれなかった怒りをぶつけるように、その大きな物体を渾身の力で殴りつけた。
『グギャーーーーー』
大きな物体は、金切声を上げながら天高く消えていった。
「なんかスッキリしたわ」
サラちゃんは、大きな物体を思いっきり殴ることによって、パンが食べれなかったストレスを発散することができたのである。
「サラちゃん!助けに来てくれたの?」
ポロンさんはサラちゃんに駆け寄った。
「ポロンさん・・・残念なお知らせがあるのよ」
サラちゃんは深刻な顔をしたポロンさんに話しかける。
「サラちゃん・・・何があったの?」
いつになく深刻な顔つきのサラちゃんに、ポロンさんは困惑している。
「実は・・・パンは売り切れてしまって食べることはできないのよ!」
「そんな・・・」
「ガラガラガッシャーン」
と声を上げながらポロンさんは崩れ落ちる。
ポロンさんとサラちゃんにとっては、神人との戦いよりもパンの方が大事なのである。
「でもポロンさん。これを見るのよ!」
サラちゃんは高らかにパンの無料チケット見せびらかす。
「それは・・・何かしら?」
ポロンさんにはただの紙切れにしか見えないのである。
「ポロンさん。あなたの目は節穴ですか?そのエメラルドグリーンの綺麗な瞳をぱっちりと開けてしっかりと見るのよ」
ポロンさんはサラちゃんに言われた通りに、目を大きく見開いてサラちゃんの手に握り締められた紙をじっくりと見た。
「無料券?」
「そうよ!これはパン屋のパンを無料で食べれる無料券なのよ。しかも、この無料券があれば、行列に並ばなくても、すぐにパンを食べることができるのよ」
サラちゃんは満面の笑みを浮かべながら嬉しそうに言った。
「私も欲しいですわ」
ポロンさんは、高価なダイヤを見るように無料券を見つめながら言う。
「ポロンさんの頼みでも、これを譲ることはできないわ。ポロンさんは、明日もあの長蛇の列にアリンコのように這いつくばって並ぶといいのよ。オーホホホホ、オーホホホホ」
サラちゃんは意地悪な悪役令嬢のような笑い声でポロンさんを見下すのである。
「いでよ!業火の火炎竜よ。そして、この世界を灼熱の大地に変えて、全ての生命に終わりを告げるのだ」
イフリートが詠唱を終えると上空から燃え盛る火炎竜が出現した。全身が燃え盛る炎の姿をした火炎竜は、大きな口を開けて真っ赤に燃えがる炎をサラちゃんに向かって放出した。
サラちゃんは、すぐに火炎竜の吐き出す炎に気づいた。
「イフリート何をしてるよのよ!」
サラちゃんは、サラマンダーの姿になり大きく翼をはためかせて、火炎竜の炎を蹴散らした。そして、大きく息を吸い込み、口から特大のマグマの塊を吐き出した。
「消えてなくなるのよ」
グツグツと煮えたぎる特大のマグマは火炎竜を一瞬で消滅させた。
「・・・」
ポロンさんは、あまりの出来事に口を開けてポカーンとしていた。
「イフリート!なんで火炎竜なんて呼んだのよ」
「それは・・・さっきまで神人がいてたのです」
「神人???どこにいるのよ!」
「おかしいです。さっきまでここにいたはずです。サラマンダー様もお店に入る前に見たはずです」
「そんなの覚えていないわよ」
「ポロンさん、さっきまでここに神人がいたはずですが、どこへ行ったのですか?」
「・・・」
ポロンさんは、現実逃避してなかなか戻ってこない。
「もう、いいわ。これからは気をつけるのよ」
「わかりました」
少し納得がいかないイフリートであるが、サラちゃんには文句が言えないのである。
「ポロンさん、これをもう一度見るのよ」
サラちゃんは途中で邪魔が入ったので、最初からやり直すことにした。
「あれ???」
サラちゃんは、手に持っていはずの無料券が黒焦げの紙にすり替わっていることに気づいた。
「私の無料券はどこにいったのよ!」
サラちゃんは慌てて周りを探すが無料券はどこにもない。あるのは黒焦げになった紙だけであった。
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