第451話 スカンディナビア帝国編 パート39


 「ルシス・・・そんなところにいたのかよ!」



 私はサラちゃんが突き破った城の天井の隙間に隠れていたのであった。



 「本当に怒っていませんか?」



 私は弱々しい声で言った。



 「怒っていないぞ。何があったのか知りたいだけだ」



 トールさんはイライラしながら大声で話すが決して怒っているわけではないみたいである。私は天井の隙間から降りて来て、詳しい経緯を説明した。



 「『ソンナ』に急いで向かうために天井を突き破ったのだな」


 「そうです。後で魔法で天井は修復しておきます」


 「本当はサラに修復させたいが、あいつのことだから『記憶にございません』とか言いそうだな」


 「そうね。ルシスちゃんには悪いけど修復をお願いするわ」


 「はい、後ほど修復いたします」


 「本題に入るとするか。兄貴が牢屋から出ていると言うことは、ヴァリは拘束したのだな」


 「はい。ヘカさんに頼んでヴァリは拘束して、トールお姉ちゃんの家族は解放しました」


 「ルシスちゃん、カレン様はご無事でしたか?」


 「はい。カレン様はご無事でした。ヴァリがジャイアントを送り込んでいましたが、ジャイアントは私が退治したので問題はありません。そして、ヘカさんとジャイアントは私の支配下になってしまいましたので、カレン様の灌漑事業を手伝うように手配しました。それと、ロキお姉ちゃんに需要なお知らせがあるのです」


 「え・・・何かしら?」



 ロキさんは真剣な眼差しで私を見ている。



 「実はロキおねちゃんにもう1人お兄さんがいたのです」


 「ファールバウティ兄さんのことかしら?」


 「えっ・・・知っていたのですか?」


 「実は母からもう1人兄がいることは聞かされていたのよ。でも誰にも言わないように口止めされていたのよ」


 「そうだったんですね。それならソイビーンの町にいることも知っていたのですか」


 「そうね。母からはカレン様に匿ってもらっていると聞いていたので、ソイビーンの町にいるのは知っていたわ。でも、一度も姿を見たことがないので、早く会ってみたいと思っているわ」


 「それなら問題ないです。昨日の晩にソイビーンの町を出発したので、明後日には王都パステックに着くと思います」


 「ファールバウティ兄さんもこちらへ向かっているのね。会えることを楽しみにしているわ」


 「ロキ、良かったな」



 トールさんはロキさんの肩にソッと手を置いた。



 「そうね。でも・・・父ともう1人の兄であるビューレイスト兄さんの処分を決めないといけないわ」


 「マグニもだな・・・」



 トールさんがため息混じりの声を上げた。



 「トール、ロキ、クーデターの首謀者はヴァリだと思うが、親父を殺したのはマグニだ。そして、ビューレイストは巨人族と同盟を組んでたくさんの兵士を殺した。3人にどのような処分を下すよりも先に、この国の王を選定した方がいいのではないか?」


 「確かにそうだな。親父は死んでしまったから、お前が王になるか?」



 トールさんはモージに王になるように進言したが、モージは少し下を向いて黙ってしまった。そしてモージは静かに言葉を発した。



 「俺は、アーサソール家が王になるべきではないと思っている。アーサソール家は、代々ヴァナヘイム家を奴隷にように扱い、しかも男系を処刑して、能力者による謀反を企てないようにしてきたのだ。俺は、父達が行ってきたやり方は間違っていると思う」


「モージさん、母はもしヴァナヘイム家が王の座についていれば、同じことをしたであろうと言っていました。今までアーサソール家が行ってきた非道な行為は許すことはできませんが、憎しみからは何も始まらないと母は言っていました。祖先達の憎しみをあなた達にぶつけたところで、結局は同じことの繰り返しなってしまいます。なので、私はモージさんに王になって頂いて、新たな政権の樹立をお願いしたいと思っています」


 「ロキ・・・ありがとう。でも、やはり俺が王になるべきではないと思っています。そういえば、ロキには、もう1人兄がいると言っていましたね。その方に王になってもらうのどうでしょうか?」


 「ファールバウティ兄さんのことですか・・・私からは返事はできませんが、兄が王都に着いてから相談するのはどうでしょうか?」


 「わかりました。ファールバウティさんが訪れてから決めることにしましょう。それまで、3人の処分は保留にしておきましょう」


 「兄貴、ヴァリは拘束しているが、マグニとビューレイストはどうするつもりだ。ビューレイストはルシスの配下に加わったから、抵抗することはないと思うが、マグニの行方はわからないぞ」



 トールさんの言う通りである。ヴァリは拘束しているが、後の2人はまだ自由の身である。ビューレイストは王都へ向かっているが、自分の立場を考えると逃げる可能性は大きいのである。マグニにいったては居場所もわからないである。



 「トール、心配するな。マグニはロキの配慮で逃がしてもらったのだろ?あいつはお前のように1人でどこへでもいけるようなタフな心は持っていない。そのうち、王都へ戻ってくるはずだ。ビューレイストに関してはルシスさんのご協力をお願いをしたい」


 「もちろん協力します」



 私はニコッと笑って返事をした。


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