第70話 ターニプの町パート1
翌朝、ドワーフの国の首都ターニプの町へ向かうことにした。
サラちゃんは、人間の姿からサラマンダー本来の姿に変身した。サラマンダーは、体長10mくらいの赤い皮膚を持つ大きなトカゲである。大きな2枚の羽根があり、空を自由に飛ぶこともできる。しかし3人を背に乗るのは危険なので、気球のように、サラマンダーにロープを結び籠を吊すことにした。
サラマンダーが籠をつけて、空を飛ぶなんて前代未聞である。かなり目立つので町から少し離れたところに降ろしてもらうことにした。ターニプの町はイディ山を下って、5kmくらいのところにあるので30分くらいで着くことができた。
ドワーフの首都ターニプは、四方を山脈に囲まれている山の砦の町と呼ばれている。
私は、お礼のプリンをサラちゃんに渡して、ターニプの町へ向かった。
ターニプの町に入るには、岩でできた大きな門を通らないといけない。しかし、その門を守るように門番が立っている。
「冒険者とは珍しいな。この町に何かようか?」
ドワーフの門番は2人いた。エッグプラントの町で見たドワーフとの区別が全く付かない。違うところと言えば、こちらの門番は、精巧で見栄えのいい鎧を着ていることぐらいである。
「ドワーフの王に用事あるのです」
「それなら、冒険者証を見せてもらえるかな・・・・いや、ちょっと待て!エルフがいるのか!悪いが、エルフはこの町に入れるわけにはいかない」
「そこをなんとかお願いします」
ロキさんが懇願するが、門番は聞き入れてくれる様子はない。しかし、私はドワーフの対策は万全である。
「このお酒を、ドワーフの王に献上したいのです」
「お酒だと・・・」
「はい。とても美味しいお酒です。もちろん門番さんの分もあります」
「・・・・」
「このお酒は、エッグプラントの門番さんにもお渡ししました」
「・・・・」
門番は明らかに動揺しているが、歯を食いしばってお酒の誘惑を我慢している。
「このお酒はヤウルンさんも、大絶賛していました」
「あの、お酒には厳しいヤウルンが大絶賛だと・・・仕方がない、少しだけ味見をしてやろう」
門番がお酒の誘惑負けた。
「どうぞ」
私は、門番のドワーフに、日本酒とおつまみのポテトフライを渡した。
「今回もこれでいけそうだな」
「うまくいくのかしら」
「大丈夫ですわ」
門番は、エッグプラントの門番同様に日本酒を大絶賛している。これで、ドワーフの王に会えるだろう。
「こいつは、美味しいお酒だ。おつまみのポテトフライも絶品だ。これなら、王達も喜ぶことだろう。しかし・・・エルフを通すのは、俺たちでは判断できないぜ」
「ダメなのですか」
「ダメとは言っていない。が、俺たちでは判断できないので、ここに王の1人を連れてこよう」
「???王の1人とは、どう言うことですか」
「お前達は知らないのか、このドワーフの国を治める王は存在しない。150年前の事件をきっかけに、王は責任を取り王位を退き王族制度は廃止した。その王族制度の代わりに、7人の選ばれしドワーフによって、国の運営を行う七巨星王制度が採用された」
「そうなのですか。それで七巨星王の方が来られるのですか」
「そう言うことだ。なので少し待ってもらうぞ」
「わかりました」
門番の1人は、町の中へ入っていった。もちろん私の手渡した日本酒を持って。
「ドッレ様、町にエルフを連れた冒険者が来ています」
「エルフがいるのか、それなら、エルフ以外の者は入場させて良いぞ」
「それが、エルフもこの町に入りたいと申しています」
「それは、無理なことはお前も知っているだろう」
「もちろんです。しかし、その冒険者達は、このお酒を渡したいと言ってます」
「お酒だと・・・・」
「日本酒という、とても珍しいお酒です。あのヤウルンも大絶賛したそうです。もちろん私も味見しました。今まで飲んだことがない深みのあるお酒です」
「そういうことか。ヤウルンが認めるのだから飲まなくてもわかる。他の6人の巨星王を集めて検討しよう」
七巨星王が大広間に集まった。7人はそれぞれ違った色の鎧を着ている。赤の鎧を着たドッレ、橙色の鎧を着たジンレ、黄色の鎧を着たイロエ、緑の鎧を着たグリン、青色の鎧を着たブル、藍色の鎧を着たディゴ、紫の鎧を着たパプルの7人が七巨星王である。
1人の王だと間違った判断をしてしまう可能性があるので、7人の王で会議をして、この国の取るべき道を決めることになっている。
「みんなに集まってもらったのは、この町にエルフが来たからだ」
「だから、どうした。町へ入れなければいいだろう」
6人のドワーフが声をそろえて言う。
「わかっている。しかし、その冒険者は、ヤウルンが大絶賛したお酒を用意してきた」
「あのヤウルンが認めたお酒だと・・・」
ドワーフ達がざわつく。
「ドッレは飲んだのか」
「もちろん飲んではいない。七巨星王会議の公平のために」
「それを聞いて安心したぜ、7人で同時に飲んで判断しようではないか」
「みんなもそれでいいか」
「当然だ」
7人のドワーフは一斉に日本酒を飲んだ。大広間内は異様な空気が流れて静まりかえっている。足音でさえ大音量に聞こえるくらいに静かである。
そして、ドッレが最初に口を開いた。
「これは、本当にお酒なのか?こんな美味しい飲み物は飲んだことがない・・・」
静まりかえっていた大広間が、一気に歓声が飛び交うのであった。
「こいつはすげえぜ」
「もっとないのか」
「革命的だ。俺たちが今まで飲んでいたお酒はただの水だったのか」
「美味美味美味」
ドワーフ達が、もっと酒はないのかと騒ぎだす。門番は、まだたくさんあるみたいだが、この町に入ることが出来ないと、お酒はもらえないと説明する。
「どうする?俺は、この際エルフを町に入れてみても良いと考えている。しかしあの呪いを解除してもらうことを前提にだ」
「確かにそうだ。いつまでも、エルフと対立することはよくないことだ」
「俺もそう思う。あの呪いさえなければ国民も納得するだろう」
「それが良いだろう。それにこのお酒を、この町に提供しくれたら国民も喜ぶことだろう」
「当然だ。エルフを歓迎しよう。そして呪いを解いてもらおう」
「そうすべきた。エルフとの和解の時がきたのだ」
「150年続いた、憎しみを今日から慈しみに変えようではないか」
7人の意見は一致した。もっとお酒が飲みたいと・・・しかし、その結果150年続いたエルフとの確執を改善する時がきたのであった。美味しいが世界を変えるのであった。
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