第442話 スカンディナビア帝国編 パート30
「トール、兄は私が倒すわ」
ロキさんは思い詰めて表情でトールさんに声をかける。
「大丈夫か・・・無理をするなよ」
「問題ないわ。私が責任を持って倒さないといけないと思うのよ」
「わかった。でも、いつでも助太刀はするぜ。俺たちは仲間だ。どんな辛いことも一緒に共有するぜ」
「ありがとう」
ロキさんは、ルーヴァティンを構えてビューレイストに立ち向かう。
しかし、ビューレイストはロキさんの姿を見るや否や両手をあげて戦いの意思がないことを示した。
「俺は戦いに来たのではない。魔王様に命令に従ってロキと共に戦いに来たのだ」
「兄上・・・何を言っているの?魔王様とは誰のことなの?」
ロキさんはビューレイストの言っていることが理解できない。
「お前の仲間の金髪の可愛い少女の事だ。あのお方は魔王様だったのだ。魔王様はヘカトンケイルと私を仲間に加えてくれたのだ。だから、私は魔王様の命令でお前と共に父であるヴァリを討伐することにしたのだ」
ビューレイストは身振り手振りをしながら必死に説明をした。
「ロキ、もしかしたらルシスのことじゃないのか?」
トールさんはピーンと閃いた。
「確かにルシスちゃんなら魔王様と勘違いされてもおかしくないかもしれないわ」
「あれだけの強さなら魔王様であってもおかしくないだろうぜ」
「そうね。兄の言っていることは本当みたいね」
「ビューレイスト、ヘカトンケイルはどこにいるのだ」
トールさんが大声で叫ぶ。
「ヘカトンケイルは魔王様の命令で、ヴァリを拘束するために王都パステックに向かっている」
「そうか。お前はこれからどうするつもりだ」
「俺は、魔王様に命令に従うだけです。魔王様を敵に回すことほど愚かな選択肢はない」
ビューレイストの真っ直ぐな瞳に、偽りが全くないとロキさん達は判断した。
「わかったぜ。一緒に戦おう。でも、ヘカトンケイルが王都へ向かったなら俺たちの出番はないかもしれないぜ」
「そうね。でも油断は禁物よ。明日は朝イチで王都へ向かうわよ」
「わかったぜ」
ロキさん達は、小ルシス1号の出した簡易の家で体を休めることにした。ビューレイストと付き添いの兵士たちは簡易の家を見て、かなりビックリしていたが、私が用意した物だと聞かされて、改めて私の凄さに敬服したのである。
「やっぱりルシスちゃんの簡易の家は快適だわ」
ポロンさんがホクホク顔でブドウジュースを飲んでいる。
「そうね。ルシスちゃんが仲間に加わってから私たちの旅はかなり快適になったわね」
「そうだな。それにルシスが魔王様と呼ばれるのは仕方がないことだな。でもルシスは魔王様ではないが魔族なのは間違いないだろうな」
「えっ・・・ルシスちゃんは魔族なの?」
フレイヤは少しビックリしているがそれほど慌てた様子はない。
「本人は亜人と言ってるけど、あの常識外の強さは魔族以外考えられないだろうぜ」
「そうね。あまり詮索はしたくないから私たちは何も言わないけど、魔族であることは間違いないと思うわ」
「ルシスちゃんはルシスちゃんよ。亜人だとか魔族だとかどうでもいいわ」
ポロンさんはブドウジュースを飲みながら笑顔で言った。
「そうだぜ。ルシスは俺たちの大事な仲間だからな。種族など関係ないぜ」
「ネテア王妃も最初はルシスちゃんの正体が気になっていたわ。でも、そのうち、正体なんてどうでもいいのでは?と思い始めたみたい。全種族が仲良くできる国を目指しているのだから、大事なのは種族ではなく、みんなが仲良く暮らせることだと再確認したのよ。でも、あの桁外れの強さの理由が魔族なら納得がいくわ。ブラカリの町の教えでは魔王様が『オリュンポス国』を守ってくれたと言われているわ。『オリュンポス国』は2度も魔族に救ってもらったのね」
「そういうことになるわね。でも、スカンディナビア帝国も守ってくれたことになるわ」
「そうだな。あながちルシスは魔王様なのかもしれないぜ。でもあいつが魔王様ならこの世界を平和な世界にしてくれそうな気がしないか?」
「そうね。でも、ルシスちゃんの力だけを借りるのは間違っていると思うわ。私たちの手で全種族が仲良く暮らせる世界にしないといけないわ」
「私も同感だと思うわ。私たちの手でこの国・・・いえこの世界を変えないといけないのよ」
ロキさん達は熱く今後の世界のあり方を話し合っているが、ポロンさんはマイペースにブドウジュースを飲みながら、メロンパンを食べているのであった。
「ルシスちゃん・・・次はどんな美味しいパンを作ってくれるのかしら。ウフフフ・・・」
ポロンさんは嬉しそうに微笑んでいた。
⭐️場面は王都パステックに変わります。
「ヴァリ王、戴冠式の日取りは3日後に決まりました。そして戴冠式と同時にアーサソール家の処刑を行い魔王の降臨の儀式を行いたいと思います。魔王を降臨させて国民達にヴァリ王の絶対的な力を見せつけてやりましょう」
「それはとてもいい案だな。俺は巨人だけでなく魔王さえも支配することになるのだな」
「そうです。巨人と魔王を従うことができればエルフなど全く怖くはありません。戴冠式が終わったらすぐにでも『アルフヘイム妖王国』へ攻め込むことをお勧めします」
「そうだな。以前までは南は巨人の国『ガリヴァー国』、北はエルフの国『アルフヘイム妖王国』に囲まれて領土を広げるのが困難であったが、魔王が俺の配下になれば何も怖いものはない。一気に『アルフヘイム妖王国』を滅ぼすぜ!ガハハハ・ガハハハ」
ヴァリの下品な笑い声が謁見の間に響き渡るのであった。
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