第176話 倭の国パート17



  「準決勝戦を始めます。家康将軍の秘密兵器鬼童丸対フレッシュ組の超新星沖田早郎です」



 開始の鐘が鳴る。


 沖田は刀を握り締めて動かない。いや動けないのであった。



 「こいつは、人間じゃない・・・・どう見ても魔獣だ」


 

 と沖田は審判に訴えるが審判は何も言わない。いや言えないのである。審判も気づいている鬼童丸が人間じゃない事に。しかし、家康将軍の指示なので何も言えないのであった。余計なことを言えば、自分の命が危ないからである。



 「動かないのなら俺から行くぞ」



 鬼童丸はドシンドシンと音を立てながら沖田に近づいていき、大きな棍棒を振りかざした。


 沖田はサッと素早く避ける。鬼童丸の振り落とした棍棒が石の舞台に叩きつけられる棍棒の衝撃により石の舞台は大きなヒビが入る。


 

 「すばしっこい奴め」



 鬼童丸は、沖田を執拗に追いかけて棍棒を叩きつけるが、沖田のスピードに追いつけず舞台を破壊し続ける。


 沖田は悟った。鬼童丸の力は人並み外れて強大だがスピードは自分のが早いと。


 沖田は、逃げ一辺倒だったが一変して攻撃にうって出る。


 沖田は左右に移動しながら、鬼童丸を翻弄してスキを作り、鬼童丸の腹部に刀を斬りつけた。



 「カキーーン」



 鬼童丸の強固な体のまえに沖田の刀が折れてしまう。



 「ありえない・・・」



 沖田の顔が青くなる。



 「刀が効かない相手にどうやって戦えばいいのだ」



 沖田は呆然と立ち尽くす。



 「そんなおもちゃのような刀では、俺の体に傷一つもつけることはできないわ」



 鬼童丸が棍棒を振りかざす。


 棍棒は立ち尽くしている沖田に頭の上に振り落とされる。


 棍棒の衝撃により石の舞台が激しく砕かれるが舞台には沖田はいない。


 もちろん、ロキさんのレーヴァティンにより救出される。



 「どこへ消えたのだ」



 鬼童丸が辺りを見回すが沖田の姿は舞台にはない。


 

 「これ以上無益な試合をする必要はありませんわ」



 ロキさんが鬼童丸に叫ぶ。



 「そこにいたのか!」



 鬼童丸がロキさんに抱えられている沖田に気づく。



 「次は私が相手をしますわ」



 ロキさんは、沖田を降ろして舞台に飛び上がる。



 「望むところだ。試合を開始しろ」



 鬼童丸は審判に試合を始めろと催促する。審判は鬼童丸の勝ちを宣言してロキさんとの決勝戦を開始した。



 「お前を倒したら俺の優勝だな」


 「それは、私も同じことですわ」


 「俺の強さを見て勝てると思っているのか?虚勢を張っているのか、それともただのバカなのか」


 「あなたこそ、私の力を侮っているとしか思えませんわ。どうやって沖田さんを助けたのかおわかりですか?」


 「簡単なことよ。俺の棍棒の破壊力で沖田は吹っ飛ばされただけだろう。運のいいやつだ」


 「沖田様に幸運が訪れてよかったです」



 もみじちゃんが鬼童丸の話しを簡単に信用した。


 もみじちゃんは、イケメンの沖田かワイルドな鬼童丸かどちらと結婚しようか迷っていた。もみじちゃん的にはどちらも好みのタイプであった。もみじちゃんにたいして沖田も鬼童丸も手を振った。沖田は観客全員に向けて手を振ったが、もみじちゃんは自分だけに手を振ったと勘違いしている。


 もみじちゃんは、2人に手を振られて困っていた。それは、どちらと結婚したらいいのかと・・・そして、沖田と結婚の約束をしていたのに、鬼童丸を惚れさせてしまった自分の魅力に、心の中で自分を責めていた。



 「私はひどい女です。沖田様という婚約者がいてるのに、鬼童丸様にも愛されてしまいました。この罪深きもみじはどうしたらいいのですか?」



 もみじちゃんは真剣な表情でヒメコ様に相談した。



 「好きにしたらよい」



 ヒメコ様は呆れていたが率直な意見を言った。



  「私には選べません。お二人には悪いけど今回の結婚の件は無かったことにします」



 沖田と鬼童丸は、自分達の知らないところで、もみじちゃんに振られてしまったのであった。




 試合に戻ります。



 「鬼童丸、その言葉であなたの実力はわかりました。あなたでは私に勝つのは不可能ですわ」


 「威勢がいいな。その言葉そっくりそのまま返してやるぜ」



 鬼童丸は棍棒を大きく振りかざしてロキさんを殴りつけた。


 ロキさんは鬼童丸の棍棒を簡単に避けて鬼童丸のお腹を切り裂いた。



 「俺の強靭な体を切り裂くのは不可能だぜ」



 鬼童丸はロキさんを睨みつけながら言う。



 「もう勝負は終わりましたわ」


 「何を言っているのだ。俺の体は傷一つついていないぜ」



 確かに鬼童丸のお腹には傷はない。ロキさんにお腹を切り裂かれて、胴体が真っ二つになったはずなのに・・・ロキさんのレーヴァティンでも鬼童丸を傷つけることはできないのか?



 「次は外さないぞ」



 鬼童丸は棍棒を振りあげてロキさんの元へ向かう。しかし、ロキさんの方へ向かったのは下半身だけである。上半身は下半身と離れて崩れ落ちてしまう。



 「何が起こっているのだ」


 ロキさんの鮮やかな切り口により、胴体が真っ二つにされても鬼童丸は異常を感じることはできなかったのである。


 鬼童丸は、しばらく自分の身に何が起こったのか全く理解できなかった。そして、理解するより先に死んでしまうのであった。



 「これで、私の優勝ですわ」




 ロキさんは剣を頭上にあげて勝利を宣言した。



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