第177話 倭の国パート18



 ロキさんが勝利を宣言した時、会場の全ての人が安堵の表情を浮かべていた。それは、いきなり人間とは思えない侍が現れたので、平民だけでなく武家の侍も恐怖で慄いていたのであった。


 しかし、家康将軍の配下の者が負けて喜ぶことはできない。もし喜んで家康将軍の怒りをかえば殺される可能性がある。そしてそれは平民も同じであった。フレッシュ組に平民の地位を向上してもらおうと応援に来ているが、優勝したのは他の国からきた冒険者である。家康将軍の配下が優勝しなかったことは嬉しいことだが、他の国からきた冒険者の優勝を祝福でもしようものなら、家康将軍の怒りをかって殺される危険がある。


 そして審判も迷っている。鬼童丸が殺されて勝負がついたのはわかっているが、絶対に鬼童丸が勝つようにしろと家康将軍から命令されている。しかし、ロキさんが勝ったことを覆すのは難しいのである。



 「ただいまの試合は・・・・えーーーーーと・・・その・・・・」


 「今の試合はロキ選手の勝ちだな」



 舞台の上に家康将軍が現れた。



 「まさか、鬼童丸がこんなに簡単にやられるとは思わなかったぞ」



 家康将軍は身長が158cmと小柄で、丸々と太った中年の男性である。



 家康将軍が舞台に姿を現すと同時に、観客席の全ての者が頭を下げて平伏した。もちろん審判もである。しかし、その中で平伏していない者が4名いた。それは私とロキさん、ヒメコ様ともみじちゃんである。


 もみじちゃんは家康将軍が現れるとすぐに、ヒメコ様の前に立ち家康の動向を見守る。




 「家康将軍現れました。私がヒメコ様をお守りします」


 「もみじ、気をつけてください。家康将軍だけではありません。かなり大きな妖気を感じます。ついにエード城に住みついた妖怪が正体を現します」


 「よ・う・か・い」


 「そうです。家康将軍は人間ではありません。妖怪だと今はっきりとわかりました。それに、より大きな妖気を感じます。なので、他にも妖怪がいると思います」


 「ヒメコ様、妖怪は150年前に滅んだのではないのですか?」


 「そうです。150年前の八岐大蛇の襲撃により、倭の国を守るために妖怪達は全滅しました。しかし、ごく一部の妖怪は生き残っていたのです」


 「家康将軍は妖怪の生き残りなのですか」


 「そうだと思います。なので気をつけるのです」


 「わかりました」




 「鬼童丸は大したことなかったですわ」



 ロキさんが家康将軍に言う。



 「お前、家康将軍の御前だぞ。その態度は失礼だぞ。早く平伏しろ」



 審判がロキさんに注意する。



 「気にするな。俺はお前の勝利を祝福に来たのだよ。約束通りお前の望みを叶えてやろう」


 「私の望みは家康将軍の退陣ですわ。あなたが倭の国の諸悪の根源だと思っています。なのであなたの地位を剥奪しますわ」


 「よかろう。私は将軍の座から降りよう。そして俺は倭の国の帝になるぞ」


 

 家康将軍はそういうと人間の姿から小柄な狸の姿になった。元が小太りの中年だったので、さほど変化は感じなかった。



 「正体を現しましたね」


 「もう、正体を隠す必要はないしな。俺は化け狸だ。どんな人物にも変身出来る狸の妖怪だ」


 「そう見たいですね。今まで家康将軍に化けてエードの町を操っていたのね」


 「そうだ。そして今日でそれも終わりだ。お前のせいでかなり予定が変わったが、力ずくで倭の国を支配してやる。だからここでお前には死んでもらうぞ」


 「望むところですわ。でも狸さんあなたはとても弱そうですわ。ちゃんと戦えるのですか」


 「無理に決まっておる。俺は弱い。とてつもなく弱い。俺が出来るのは変化だけだ。だから戦うのは俺ではない」


 「そうなのね。では私のお相手は誰ですか?」


 「酒呑童子様お願いします」



 上空から大きな赤い鬼が舞台に飛び降りてきた。



 「やっと俺の出番が来たか。俺の家来の鬼童丸を殺したのはお前だな」



 体長3mの赤い鬼が酒呑童子である。酒呑童子は長い大きな三又の矛を持っている。



 「そうですわ。あなたも私があの世に送ってあげますわ」


 「面白い。鬼童丸ごときを倒したくらいでいい気なるなよ」



 酒呑童子は三又の矛をロキさんに突き刺す。


 ロキさんはさっとジャンプして三又の矛の先に飛び乗った。



 「遅いですわ。そんなスピードでしたら、私を突き刺すなんて1000年はかかりますわ」



 ロキさんは覚醒者になって、数段強くなった。2つの魔石の特性を上手く利用して、身体能力を限りなく上げている。



 「これならどうだ」



 酒呑童子は緑色の霧を口から吹き出した。この緑色の霧はもう毒である。この毒が皮膚に触れると、体が溶けるほどの非常に強い猛毒である。


 ロキさんは、三又の矛から飛び上がり緑の霧の周りの空間をルーヴァティンで切り裂く。


 緑の霧は空間と一緒に消えてしまう。



 「私にはその霧は通用しませんわ」


 「なんだその剣は・・・」


 「この剣は魔剣ルーヴァティンですわ」


 「魔剣だと・・・なぜそんな物がここにあるのだ」


 「そんなことどうでもいいですわ。もうこれで終わりにするわね」


 「化け狸、俺は逃げるぜ。魔剣使いがいるなんて聞いてなかったからな」



 酒呑童子は疾風の如く逃げていった。



 「逃がさないわよ」



 ロキさんがルーヴァティンを振りかざす。空間は切り取られて、酒呑童子はロキさんの目の前に現れる。



 「助けてください。俺は化け狸に頼まれて用心棒をしていただけだ。俺は倭の国の支配など全く興味はないのだよ。お酒さえ飲めればそれでいいのだ。許してくれ。2度と人間には手を出さない。本当だ」



 酒呑童子は頭を下げて謝ってきた。


 ロキさんは酒呑童子をじっと見てどうしようか悩んでいた。



 「ロキさん、許してあげてください」



 ロキさんを止めに入ったのはヒメコ様だった。しかしロキさんの目の前に現れたのは、美しい着物を羽織った狐の妖怪である妖狐であった。





 

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