第178話 倭の国パート19

 


 「ヒメコ様ですか?」



 妖狐はヒメコ様と同じ着物を着ている。それに声もヒメコ様そっくりであった。



 「はい。私は人間でなく妖狐という妖怪なのです」


 「妖怪のあなたがなぜ、倭の国の帝なのですか?」



 ロキさんがヒメコ様に問う。



 「この倭の国は、妖怪と人間が共に暮らす国だったのです。しかし150年前の事件により、妖怪はほぼ絶滅し人間だけが暮らす国になったのです。私も150年前に妖力を使い切り、かろうじて人間に変化することができましたので、人間の姿をしてこの国を影で支えていました」


 「そうなのですか。でもなぜ倭の国を支配しようとした酒呑童子を庇うのですか」


 「それは150年前に、私と共に倭の国守るために戦った仲間だからです。しかし、150年前の出来事で、人間を憎むようになったのかもしれません。酒呑童子はお酒が大好きなので、それを利用して化け狸に上手いこと操られていたのでしょう」


 「そうなのですか・・・。私には、倭の国の事情はわかりませんので、ヒメコ様の判断にお任せしますわ」


 「ありがとうございます。酒呑童子・・・お前は何をしているのです」


 「妖狐・・・生きていたのか。俺はあの時、お前は死んでしまった思っていた。俺たちは、命をかけて人間のために倭の国を守る戦いをした。しかし、人間達は俺たち妖怪を蔑み化け物だと罵った。だから化け狸に力を貸してしまった」


 「あなたの気持ちもわかるわ。しかし、私たちのことを憎んでいたのは、一部の人間だけです。それはあなたもわかっていたでしょ」


 「俺はみんなが死んだと思っていたので、もう倭の国なんてどうでもよかったのだよ」


 「確かにみんな死んでしまったわ。だからこそ、みんなが守ったこの倭の国を、再興させないといけないのです。私だけではどうにもなりません。あなたの力が必要です」


 「俺でいいのか」


 「もちろんです。また妖怪と人間が仲良く暮らせる倭の国を取り戻しましょう」


 「妖狐の頼みだ。俺が倭の国の再興に協力するぜ」



 酒呑童子はさっきの弱々しい顔から勇ましい鬼の顔に戻ったのであった。



 「ヒメコ様、このバカ狸はどうしますか?」



 バカ狸・・・いや化け狸は、ヒメコ様と酒呑童子が話し合っている中、今が逃げるチャンスだと思い、鳥に変げして逃げようとした。しかし、ロキさんの魔剣レーヴァティンですぐに捕まえられたのであった。



 「離せ俺を誰だと思っている。このエードの町の将軍だぞ」



 バカ狸がロキさんに捕まれて、バタバタと暴れている。



 「うるさいわね。あなたの正体はバレているのよ。おとなしくしなさい」



 ロキさんに怒鳴られたバカ狸は、縮こまっておとなしくなった。



 「化け狸、家康将軍はどこにいるのですか」



 ヒメコ様がバカ狸を問い詰める。



 「エード城の地下に捕らえています」


 「殺していないのですね」


 「はい。酒呑童子様が殺すことに反対したので」


 「そうですか・・・それなら、私の送った侍達はどうなったのかしら」


 「全員捕らえています」


 「みんな無事なんですね」


 「はい・・・俺はどうなるのですか」


 「全員の無事を確認してから決めます」



 会場の観客達全員がヒメコ様に向かって平伏していた。



 「妖狐様だ・・・」


 「妖狐様が生きておられたのね」


 「ヒメコ様が妖狐様だったなんて」



 倭の国では、妖狐は150年前の倭の国滅亡の危機を救った英雄として、また神の化身として祭り上げられていた。その伝説の英雄である妖狐が剣術大会の舞台に突如として現れたのである。国民達は、最初は目を疑ったが、言い伝え通りの美し狐の妖怪を目の前にして、本物の妖狐であると確信したのであった。


 

 「倭の国の民よ、私は姿を変えて帝として150年間あなた方の行く末をじっと見守ってきました。私は、国政に関わらずに、領主の判断に全てを任せて、人間の力のみで国の発展を期待していましたが、倭の国は外敵を恐れて他の国との干渉を拒み、倭の国は衰退してしまいました。そして、家康将軍に化けた化け狸に力を貸した武蔵達は、平民を蔑み、武家の為の国政を行うようになったのです。私はこのままだと倭の国は滅んでしまうと危惧していましたが、幸いなことに、優秀な冒険者様が、この倭の国へ訪れてくれましたので、ご協力をお願いして、化け狸、武蔵達の企みを防ぐことができました」



 国民達は平伏しながらヒメコ様の話しを真剣に聞いている。



 「化け狸の話しでは、本当の家康将軍は、エード城の地下に幽閉されています。もう一度家康将軍の元で倭の国の再建を図りましょう」



 平伏していた平民が大きな拍手をする。



 「ヒメコ様、お願いします」


 「妖狐様」



 バカ狸にそそのかされて、平民をバカにしていた武家の侍達はうつむいたまま何も言わない。侍達は、バカ狸が家康将軍に化けてからは、いろんな面で優遇されていたのでおもしろくないのである。


  

 「お前達、妖狐様のご指示に従えないのか」



 近藤男が大声で叫ぶ。



 「・・・・」



 侍達は黙っている。



 「お前達は、倭の国最強の武蔵の試合を見ただろう!あれは腹痛で倒れたのではないぞ。ルシスちゃんに一撃でやられたんだ。そして、佐々木もルシスちゃんにビビって逃げただろ。俺たちは弱いんだ。とてつもなく弱いんだ。それは、鎖国をして他の国との接触を拒み、そして、自身の立場にあぐらを組んで、努力をしなくなったからだ。俺たちは変わらないといけないんだ」



 近藤男は熱く語るが、侍達はばつが悪いので逃げるように会場から出て行った。



 「近藤さん。私の代わりに言ってくれてありがとう」



 ヒメコ様が近藤男にお礼を言う。



 「しかし・・・あいつらには届きませんでした」


 「今まで優遇を受けていたので、すぐには変わるのは難しでしょう。少しずつ倭の国を変えていきましょう」


 「はい。私は全力で手伝います」



 ヒメコ様は、バカ狸を連れてエード城の地下に幽閉されている家康将軍に会いに行った。


 地下牢には、家康将軍だけでなく、ヒメコ様がエード城の偵察に送った侍達も無事に生きていた。その中にはもみじちゃんのお父さんもいた。




 

 

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