第188話 倭の国パート29
「このままですとわんこぞば大会の受付に間に合いません。なので、私は先に行って受付を済ませてきます」
かえでちゃんは、そう言うとトールさん達を置いて、先に会場に向かったのであった。
「余計なこと・・・」
「こうなったら、迷子戦術を取るしかないわね」
「それだ!」
もうトールさん達はお互いの気持ちを隠すことはしない。今はどうやったら上手いことわんこそば大会を棄権できるかを、必死に考えているのである。
「トール、この道を左に行けばかえでちゃんに追いつくわ」
「そうだな。それなら急いで左へ行こうぜ」
本当はかえでちゃんは真っ直ぐ走っていった。なので迷子作戦を実行するために、左に曲がったのである。
「次は右に行くわよ」
「ポロンの指示に従うぜ」
「次も右よ」
「おう」
「これだけ曲がればかなり短縮できたはずよ。後はこの道を真っ直ぐ突き進んで、かえでちゃんにすぐに追いつくのよ」
「わかったぜ」
迷子作戦を気づかれないように、表向きは必死にかえでちゃんに、追いつこうとしている演技をしている。
しかし、トールさん達はぐるっと道を一回転しただけなので、元の道に戻って来た事に、全く気づいていないのである。
トールさん達は、牛歩戦術と迷子戦術を実行して30分が経過した。
「早く行かないと間に合わないぜ」
「そうね。なんとしても出場しないとね」
トールさん達は、いつかえでちゃんが戻って来てもいいように小芝居を続ける。
「まだ、こんなところにいたのですか?もう大会は始まっていますよ」
「あれ、迷子戦術でかなり遠くへ来たはずなのにもう見つかってしまったわ」
とポロンさんは小声でトールさんに話しかけた。
「あいつは優秀な忍びだからな。探索スキルに長けているのだろう」
とトールさんは小声で真剣に答えた。トールさん達は迷子戦術の失敗には全く気づいていないのである。
「もっと、急いでください。このままだと大会が終わってしまいます」
「それは困るわ」
「俺の足もっと動けーーー」
とトールさん達は言うが、顔は嬉しくてニヤついているのである。
かえでちゃんもとっくに気づいている。トールさん達が焼き鳥を食べすぎて、わんこそば大会に出たくないことを。しかし、ヒメコ様にトールさん達をわんこそば大会の会場に連れて行くように指示を出されたので、その責務を全うしようとしているのであった。
「仕方ありません。少し乱暴な方法になりますが、この縄でお二人を引っ張ってあげます」
かえでちゃんは、トールさん達を縄で縛って引っ張り出した。
「おい、あいつら何かしたのか?」
「そうだな。かえで様に縄で引かれて連行されているぞ」
周りの町人達がコソコソと話し出した。
「かえで、これだと俺たちが悪者みたいだぜ」
「そうですわ。恥ずかしいですわ」
「でも、これしか方法はありません。私が必ずわんこそば大会に連れて行きます」
かえでちゃんの熱意に負けて、トールさん達は渋々歩き出したのであった。
しかし、歩き出しただけであり走りはしないのである。トールさん達の最大の妥協点が牛歩戦術をやめて普通に歩くことであった。あくまでわんこそば大会には出たくないのである。
それから20分後に、やっとわんこそば大会の会場に着いた。
「やっと着きました」
わんこそば大会は大きな屋敷の広間で行われている。
「さぁ、急いで中へ入りましょう」
かえでちゃんはトールさん達を急かすように言う。
トールさん達は渋々中へ入っていった。
「参加者を連れて来ました」
かえでちゃんは係の人に声をかけた。
「残念ながらわんこそば大会は終わりました。今から結果発表に入るところです」
「なんてことだ!せっかくはるばるわんこそば大会に出るために倭の国へ来たのに、参加できないなんて悔し過ぎるぜ」
心にもない事を言うトールさんである。
「そうですわ。この日のために絶食をして体を作り上げてきたのに・・・とても残念ですわ。でも、間に合わなかったのは私達の責任よ。大会関係者の方々には、なんの落ち度もありませんわ。トール、責めるなら自分自身を責めるのよ」
キメ顔で言うポロンさん。
「あなた方の熱意に私は感銘を受けました。大会の組織委員長に掛け合ってきます」
そう言うと、係の人は急いで奥の部屋に行ったのであった。
トールさん達の顔は青ざめていた。
「良かったですね。もしかしたら参加できるかもしれませんね」
嬉しそうにかえでちゃんが言う。
「なんか目眩がしてきたぜ」
とトールさんは言って、頭を押さえて倒れ込むフリをする。
「持病の仮病が再発しましたわ」
ポロンさんは動揺して支離滅裂な事を言い出した
2人は小芝居を初めて体調不良を訴えるがもう遅かった。
「朗報です。組織委員長があなた方の熱意に感動して、わんこそば大会のラストバトルを開催してくれるそうです。急いで広間に来てください」
「急いで行きましょう」
かえでちゃんは倒れ込んでいるトールさん達を無理矢理に引き起こす。
「出るしかないみたいだな・・・」
「そうね・・・」
トールさん達は覚悟を決めて広間に行くのであった。
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