第406話 ボルの人界征服編 パート19


 「ボル様、あいつは間違いなく魔王の娘ルシスです。運よく生きていたのでしょう。しかも、魔力も回復しているみたいです」



 ナレッジがボルに話しかけるがナレッジの姿は見えない。



 「ナレッジ、どこに隠れているのだ」



 ボルは声だけしかしないナレッジに問いかける。



 「時空の間に待機しています。あいつとは顔を合わせたくありません」



 ナレッジは私の姿を見てビビって『時空の番人』の能力を使って時空の間に逃げたのである。



 「お前の力などアテにしていないからかまわないが、本当にアイツが魔王の娘で間違いないのだな」


 「はい。魔石を浄化されたので見た目は魔族には見えませんが、アイツがルシスに間違いないでしょう」


 「そうか、アイツのステータスを除いてやろう」



 ボルがウーラノスから授かった力は『神の目』である。『神の目』とは相手のステータスを見ることができる便利な能力である。ステータスを見ることができるということは、相手がどのような魔法を使うか、どのような能力を有しているか確認できるので、相手に油断することなく正確に相手の実力を見極めることができるのである。



 「確かに、全ての数値が群を抜いているな。しかも『ブラックホール』だけでなく『ディメンション』など、高位の闇魔法を使えるみたいだな。これならムーンやオーシャンがやられたのも納得がいくわ」



 ボルは嬉しそうに笑った。


 

 「ボル様でもアイツには勝てないのですか?」



 ナレッジは不安げにボルに尋ねる。



 「何をバカなこと言っているのだ!俺は神人最強の男・・・すなわち3世界最強の男ということだ。アイツも魔王候補と言われるだけの器があるのは認めよう。しかし、アイツはまだ10歳と幼くまだ成長段階だ。俺は150年に及ぶ下積み経験を積んで手に入れた力があるのだ。今のアイツと俺は、まさに大人と子供との差がある。俺が負ける可能性を見つける方が難しいだろう」



 ボルは私のステイタスを見て余裕で勝てると判断した。



 「それは、頼もしいお言葉です。私もそちらへ行ってルシスが殺される光景を目に焼き付けましょう」



 ボルの背後にナレッジが姿を見せた。



 ボルとナレッジが悪役らしいフラグを立てていた頃、私は小ルシス2号を抑えるので必死であった。



 「ルシスお姉様。もう一度だけ私にチャンスとください。あのへなちょこをギャフンと言わせるアイディアが思い浮かびました」


 「2号ちゃんは2度も負けているのよ。もう諦めなさい」


 「ルシスお姉様。この世界には3度目の正直という言葉があります。私は2回目までは相手の油断を誘うためにあえてあのような無様な負け方をしたのです。なので、あのポンコツは私にかなり油断していると思います。その油断をついて私の『ギャラクシー・クレイジー・ローリングパンチ』を喰らわすつもりでいてます」


 「2号ちゃん。あなたには格闘属性の付与は与えていません。なぜ、魔法じゃなくて格闘をチョイスするのですか?」



 小ルシスと小ルシス2号には魔法に特化した構成で作られているので、格闘よりも魔法で戦う方が強いのである。



 「私は拳で語るのが好きなのです。それに、あのへなちょこ相手にルシスお姉様から授かった魔法を使うなってもったいないです。では行ってきます!」



 小ルシス2号は、またしても私の静止を振り解いて飛びったった。そして、小ルシス2号は空高く飛んで行き、クルクルと回転しながらボルに向かって突撃する。



 『ローリング・スパイラル・ハリケーンヘッドバット』



 なぜだか技の名前も変わっているし、拳で語るはずが頭で語るようである。



 「ボル様、上空から何か襲ってきます」


 「またあの蠅のような妖精か・・・うっとしいから消え失せろ」


 『ホワイトホール』



 ボルは小ルシス2号に向かって手をかざした。ボルの手のひらから入道雲のような白い煙が飛び出してきて、空一面が入道雲で覆われた。



 「フゥーーーー」



 ボルの大きく息を吸い込みそして息を吐き出した。吐き出した息の風速で入道雲は一瞬で吹き飛んで空には何も残っていなかった。



 「次はお前を消し去ってやるぜ」



 ボルは小ルシス2号を消し去って私の方へ近寄ってきた。



 「あれが光魔法の究極魔法の『ホワイトホール』ですか?」


 「そうだ。死ぬ前にありがたい魔法を見させてもらって感謝の言葉でも述べたいのか?」


 「そうですね。あのようなしょぼい魔法を見せてくれてありがとうございます」



 と私の後ろで小ルシス2号が言った。もちろん、私がすぐに小ルシス2号を復活させたのである。



 「俺の魔法がしょぼいだと・・・まぁ良いだろう。いつまでその強気の態度を取れるか見せてもらおう」




 ボルには絶対の自信があるので、小ルシス2号の煽りにも動揺はしない。



 「あなたの後ろに隠れているのはナレッジですか?」



 私がボルに確認をとる。



 「そうだ。久しぶりの再会で涙が出るのか?それとも積もる話でもあるのか?」



 私はナレッジを恨んでいるわけではない。お母様の命令で私を人界へ転移させたので、ナレッジが悪いわけではないと思っている。しかし、なぜ?神人のボルと一緒にいるのか気になっていたのである。



 「くそナレッジ!よくも平然とルシスお姉様の前にツラを出すことができたわね」



 小ルシス2号は悪態をつく。



 「2号ちゃん!少し黙っておいて。今から大事な話をしないといけないのよ」


 「ルシスお姉様。あのゴミくそ野郎には私の『ローリング・スパイラル・ハリケーンヘッドバット』は通用しなかったけど、あの寄生虫野郎なら倒せるはずです。私に4度目のチャンスをください」



 小ルシス2号は私に懇願するがもちろん却下したのである。



 


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