第417話 スカンディナビア帝国編 パート5


 トールさんが、ラディッシュの町の門まで歩いて行くと、30名ほどのスカンディナビア帝国の兵士とその後方にそびえ立つ2人の巨人族が居た。


 巨人の1人は人間の3倍の位の大きさで、腕が千手観音のようにたくさんの手を持つ巨人へカトンケイルまたの名を百腕巨人である。一つ一つの腕には様々な武器を持っている。もう1人の巨人は赤い一つ目の巨人であり、大きさはヘカトンケイルとさほど大差はないが相撲取りのような体格をしている。手には大きな棍棒を持っている。この巨人はキュクロプスでありまたの名を単眼巨人という。


 トールさんが姿を見せると、30名ほどの兵士の中から1人だけ金色に輝くプレートアーマーを着た男がトールさんに近づいてきた。その男はトールさんの目の前までくると、ヘルメットを外してトールさんに声をかける。



 「トール、俺が直々に迎えにきてやったぞ」



 メルメット外した男の姿は、トールさんと同じ赤髪の短髪で紫色の瞳をしているのでトールさんによく似ている。



 「マグニ。お前が親父を殺したのか?」



 トールさんは先ほどと違い拳を握りしめて、怒りを抑え込んでいるように見えた。



 「そうだ。いつまでも男子優先長子継承制度を行う無能な王に、国を任せることはできない」


 「そんな理由で親父を殺したのか?」



 トールさんは体の震えを抑えるので必死だ。



 「モージよりも俺のが王に相応しいと思わないか?あいつは長男というだけでいつも偉そうに命令をしてくる。俺のが知性も剣技も上なのに納得がいかなかったのだ」


 「知性も剣技もないのはお前の方だと俺は思うぜ。お前と違ってモージは優しくて強い兄貴だ。お前は王の器ではない」


 「相変わらず口の悪い妹だな。でも、いつまでそんな口を叩けるのか見ものだな。お前も気づいていると思うが、巨人族が俺の味方についたのだ。お前は特殊能力は持っていないが、魔法と格闘センスはバカつくほどの才能を持っていた。しかし、いくらお前でも巨人族の前では赤子同然だ」


 「今さっき、実力があるような口ぶりで話していたとおもったら、早速巨人族の傘の中に入るのか・・・ほんと情けない男だ。でも安心しろ!抵抗するつもりはない。おとなしく投降してやるぜ」


 「今日は素直に従うのだな。それは懸命な判断だ。お前も旅を通して大人になったのだな。ロキ!このロープでトールを縛り付けろ」



 ロキさんはマグニが投げ捨てたロープを拾った。そして、ロープをぎゅっと握りしめてトールさんの方へ歩いて行き、トールさんの両腕をロープで縛りあげた。



 「トール、スカンディナビア帝国に戻るには三日ほどかかる。スカンディナビア帝国に戻ると俺以外のアーサソール家は、魔王降臨の儀式の為の生贄になるのだ。お前に残された残り3日間を恐怖に怯えながら護送の旅を満喫するのだな。ガハハハハ」



 マグニの下品な笑いが響き渡る。



 「何を勘違いしている。お前も生贄に参加するのだ」



 大木のような大きな腕がマグニの前に振り落とされる。マグニの視界は急に真夜中が訪れたように真っ暗になる。大きな手のひらがマグニを包み込むように覆い尽くす。



 「どういうことだ!ヴァリが裏切ったのか?」


 「父は裏切ってはいません。当初の計画通りです」



 巨人の手の中に包み込まれたマグニの前に1人の男性が姿を現した。その男は漆黒の長い髪、闇のような黒い瞳、細身だが華奢というよりも無駄な肉がない洗礼された体、そして身長は2mほどあった。



 「ロキ、久しぶりだな」


 「はい。兄上」



 ロキさんは無表情のまま頭を下げた。


 ロキさんの兄であるビューレイスト・ヴァナヘイムは透明になって姿を消す能力を持っている。なので、生まれてすぐに防衛本能で透明になり姿を消したので、死産扱いになっている。なので、戸籍上では存在しない人物なのである。ビューレイストは、ヴァリが信頼する仲間に預けられて、スカンディナビア帝国を抜け出て、巨人族が支配する国で生活をしていたのである。そして、ロキさんは一度だけビューレイストに会ったことあるのであった。



 「キュクロプス、握りつぶすなよ」


 「もちろんです。こいつは魔王降臨の大事な生贄です」


 「兄上、本当に魔王を降臨させるのですか?」


 「そうだ。それが巨人族が俺たちのクーデターに協力してくれた条件なのだ。それにアーサソール家を根絶やしにしたい俺たちにも都合の良い話だと思わないか?それとも幼い頃からずっと一緒いるトールを殺したくないのか?」


 「私は自分の使命をまっとうするするだけです」


 「そうだな。俺たちヴァナヘイム家の悲願がやっと叶う時が来たのだな。これで、スカンディナビア帝国はヴァナヘイム家のものになるのだ」



 ビューレイストは晴れやかな笑顔で喜んでいるが、ロキさんは対照的に感情を失ったかのように能面のような無表情な顔をしている。


 ロキさんはトールさんを連れてビューレイストの用意した馬車に乗る。マグニは鎖でグルグルに巻き付けられて身動きできない状態にされ、馬車の荷台にゴミのように放り投げられる。


 馬車に乗ったロキさんの隣には腕を縛られたトールさんが座っている。2人は会話を交わすこともなく目を閉じて置物のようにじっとしている。しかし、ロキさんの右腕は縛られたトールさんの左腕にそっと手をまわして、トールさんの手を強く握りしめていた。



 

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