第418話 スカンディナビア帝国編 パート6


 ロキさん達はラディッシュの町から出て行った。私は止めることはできなかった。念のために子ルシス1号と2号を送り込んだのだが、これでよかったのだろうか?2人の意思を無視して、強引にでも2人を止めた方が良かったのだろうか・・・私の中で答えは出てこない。ただ、こんな形でロキさん達と離れ離れになってしまうのはとても悲しかった。



 「ルシスちゃん!これをつけるよのよ」



 私が肩を落として感慨にふけっていると、私の後ろから明るく元気な声でポロンさんが声をかけてきた。そして、私が振り返ってポロンさんを見ると、ポロンさんは仮面舞踏会で使用するような怪しげなライトグリーンの仮面をつけていた。そして、ポロンさんは、鮮やかに光る真っ赤な仮面を私に差し出していた。



 「ポロンお姉ちゃん・・・どういうことですか?」



 私はポロンさんの不可解な行動が全く理解できない。



 「私はポロンではないわ。私の名前はキューティーメロンよ!そして、あなたもこれをつければ、プリティーイチゴになれるわよ」



 ポロンさんではなくキューティーメロンが、強引に私に赤い仮面を握らせる。



 「これを着けたらいいのですか?」



 私は派手な赤い仮面を見て、着けるのにかなり困惑している。



 「そうよ!私たちは今から『ラスパ』ではなく『特盛フルーツパラダイス』という冒険者になるのよ。そして、誘拐された2人のレディーを救出しに行くのよ」


 「ポロ・・じゃなくてキュティーメロンさん。ロキお姉ちゃん達を助けに行くのですか?」


 「もちろんよ。エルフの国はスカンディナビア帝国と同盟を結んでいるので、迂闊には行動はできないわ。でも、私はエルフではなくキューティーメロンよ。そう、なんの制約もないただの冒険者よ。あの2人が望んでいなくても、『特盛フルーツパラダイス』が正義と信じる道を突き進むスーパーヒーローなのよ。プリティーイチゴも一緒に来てくれるわよね」


 

 私はキューティーメロンが差し出してくれた赤い仮面を付けた。



 「もちろんです。絶対に2人を取り戻します」



 エルフの王女であるポロンさんは、同盟国であるスカンディナビア帝国へ迂闊に干渉はできないと思っていた。しかし、ロキさんとトールさんをこのまま放っておくことなんて、絶対にできないのである。そして、ポロンさんなりに必死に考えた答えが『特盛フルーツパラダイス』なのであった。しかし、エルフの特徴的な尖った耳を隠せていないのにポロンさんは気づいていない。しかし、そのことは触れないでおくことにした。



 「2人ともちょっと待ちなさい!」


 私たちの姿を見てフレイヤが大声で叫んだ。



 「止めても無駄です。『特盛フルーツパラダイス』は正義の為に動くのです」



 キューティーメロンは、曇り一つない真っ直ぐな瞳でフレイヤを見た。



 「何が『特盛』よ!メロンとイチゴだけで『特盛』を名乗るなんておこがましいわ。『特盛』付けるならブドウも添えないといけないわよ」



 フレイヤはどこで用意したのか、紫の仮面を取り出して仮面を装着したのである。



 「私は王国騎士団団長のフレイヤではなくスイートデラウェアよ。私も一緒に行くわ」


 「フレイヤ様・・・」



 ポロンさんの瞳から涙がこぼれ落ちる。



 「フレイヤではないわ。私はスイートデラウェアよ。ロキさん達をこのまま放って置けないわ」


 「ありがとうございます」



 キューティーメロンはスイートデラウェアを強く抱きしめる。



 「困った時はお互い様よ」



 スイートデラウェアはキューティーメロンの頭をポンポンと叩くのであった。



 「『特盛フルーツパラダイス』のみなさん、冒険者登録はお済みかしら?まだなら私が受け付けるわよ」


 「ディーバ様、登録をお願いするわ」


 

 私たちはディーバ様に新たな冒険者証を発行してもらった。冒険者ランクは他の国へ出入りも自由であるEランク冒険者にしてもらった。あまり高ランクの冒険者証になると目を付けられたやすいので、ランクを低めにしてもらった。



 「冒険者証も発行してもらったわ。これからどうする予定なのかしら?」


 「・・・」



 キューティーメロンの額から汗が滴り落ちてくる。そして、純粋無垢な少年のような瞳でゆっくりとキューティーメロンは語り出した。



 「どうしましょう。何も考えていませんでしたわ。プリティーイチゴはどうしたらいいと思う?」



 キューティーメロンは私に丸投げした。



 「2人には小ルシス1号と2号を忍び込ませていますので、2人の場所と状況はすぐにわかります。今のことろ、2人に危険はありません。しかし、2人とも何も言葉を発せずに同じ馬車に乗って、スカンディナビア帝国へ向かっているそうです。すぐに2人を助け出すのではなく、2人の状況と2人の気持ちを精査してからの救出が望ましいかと思います」


 「私と全く同じ考えですわ」



 キューティーメロンは、聞き取れにないような小声で呟いた。



 「それならできるだけ2人を護送している近くまで行って、いつでも救出できる体制を整えていた方が良いと思いますわ」


 「そうしましょう。護送部隊には巨人族が2人いてますので、少し離れた位置のが良いと思います。巨人族の耳はかなり敏感だと本で読んだことがあります。魔力を制御して気配を消しても、僅かな音で尾行がバレる可能性があると思います」


 「わかったわ。プリティーイチゴの指示に従うわ」


 「私も同じことを思っていたわ」



 キューティーメロンは1人で頷きながら言った。


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