第213話 神守聖王国オリュンポス パート22


 「ジュピターの悲鳴が聞こえなかったか」



 ヴィスタが言った。



 「あいつは、死ぬ運命なのです」



 ヘルメスが静かに言った。



 「ヘルメス・・・どうことだ」



 「あいつは雷霆を盗んディービルの森で魔獣に殺されることになっています。今頃はネズチュッチュに殺されているでしょう」


 「ヘルメス、何を考えているのだ。お前の考えをきちんと説明してくれ」


 「俺の推測では、ネプチューンはデレクを裏切ってアレスとユーピテルを使って王都を攻め入るでしょう。雷霆があれば、ネプチューンは容易にデレク、ネテアを葬ることができるかもしれない。しかしそれではいけないのです。俺はネプチューンとデレク、ネテアの3者の優勢な方に手を貸して、恩義を売る予定なのです。ジュピターの件は、王子がわがままを言って、ディービルの森へ宝を取りに行くと言って死んだといえば納得するでしょう」


 「そんな簡単にジュピターの死を納得すると思っているのか?」


 「大丈夫です。ジュピターがわがままなのはこの国ではみんな知っています。誰も疑う者などいません」


 「確かにそうかもしれが・・・」


 「ヴィスタ兄さん、俺を信用してください。この計画は俺1人だけの考えではないのです。後ろ盾にはイージス伯爵がついています。俺たちは、イージス伯爵の援軍と共に、優位な方に味方すれば全てうまくいくはずです」


 「気は乗らないが、こうなったらお前に従うしかないみたいだな」


 「そうです。俺に任せてください。あまりここで長居するのは危険です。急いでイージス伯爵の屋敷に向かいましょう」


 

 ヘルメスとヴィスタは、馬車に乗りイージス伯爵の屋敷に向かったのである。



★少しだけ時が戻ります。




 「ぎゃーーー」



 ジュピターは、悲鳴をあげて気を失ってしまった。


 そしてジュピターを襲うとしたネズチュッチュは、毒の矢を受けて紫に変色して死んでいたのであった。


 

 「アルテミス、ジュピター王子なんて助けて良かったのか?」


 

 ディーテが言った。



 「かまわんさ。それに、さっきヘルメスが逃げる姿が見えたぜ。ヘルメスのことだから、何かよからぬことでも考えているのだろうぜ。あいつの思い通りにいくのは面白くないからな。ワハハハハ」



 アルテミスが、大声で笑う。



 「それよりも、いつになったらアトランティスの地下遺跡に着くのですか」


 「レオ、そんなに焦らなくても大丈夫だぜ。道は必ずどこかへ繋がっているはずだ。ワハハハハ」


 「しかし、ネプチューン侯爵様からの依頼です。のんびりしている暇はないと思います」



 レオは深刻な顔をして言った。



 「俺は俺の気の向くままに進むのだ。そう、川のせせらぎのように、穏やかに道を進んでいくのだぜ。ワハハハハ」



 「アルテミス、また道に迷ったのですか!」



 アルテミスがリーダーであるこのパーティが『雲湖朕鎮』であった。


 

 『雲朕』のリーダーアルテミスは、重度の方向音痴でありなおかつ楽観主義者なので、どんなに道に迷っても、いつかは辿り着くだろうと呑気に考えているのであった。メンバーのディーテはそんなアルテミスに対して、何も言わずに黙ってついていくが、心配性のレオは、いつもハラハラドキドキしているのである。



 「レオ、いつものことだ。許してやってくれ。それにこうしてジュピター王子を助けることができた。アルテミスの方向音痴も役に立つこともあるのだよ」



 ディーテは笑顔で言った。



 「お前達は、『雲朕』じゃないか!ここで何をしているのだ」



 意識を取り戻したジュピターが叫んだ。



 「ジュピター王子様、アルテミスはあなたの命の恩人です。その態度はいくら王子といえども失礼です」



 レオは厳しく言った。



 「俺はこの国の王子だぞ。お前の態度のが失礼ではないか!」



 ジュピターが怒鳴る。



 「ここはディービルの森です。あなたを置いて私たちはこの場を去ってもいいのですよ」



 レオはジュピターを脅す。



 「別に構わないぞ。俺にはヘルメスがついている。それに役には立たないがヴィスタもいるぞ」



 偉そうにジュピターは言った。



 「その2人はどこにいるのですか?それにあなたの自慢の黄金の馬車もどこにもありませんが・・・」


 「ヘルメス!ヘルメス!ヘルメス!どこへ行った。すぐに出てこい」



 ジュピターは大声で叫ぶが返事はない。



 「ヘルメスは逃げて言ったぞ。ワハハハ」



 アルテミスは大声で笑う。



 「何がおかしいのだ。俺は王子だぞ」


 「ここはお城の中ではないのだぞ。王子だろうが、平民であろうが関係なく魔獣は襲ってくるぜ」



 アルテミスが威嚇して言った。



 「そんなのわかっているぞ」


 「なら、態度を改めるのだな。そうでないと俺達はお前をここに置いていくぜ。お前は1人でこの森を抜けることができるのかな?ワハハハハ」



 アルテミスが大声で笑った。



 「・・・」



 ジュピターは何もいえない。



 「心配するな。俺がちゃんと王都まで連れて行ってやるぜ」


 「本当ですか・・・」



 ジュピターがすがるように言った。



 「ただ、王都に着くまでは、俺もお前の対等な冒険者だ。さっきみたいに俺達を見下した態度を取ると、すぐに馬車から放り出すぜ。ワハハハハ」


 「わかりました。私を王都まで送ってください」



 ジュピターは頭を下げてお願いした。



 「それでいいのだ。ワハハハハ」


 「アルテミス、ネプチューンの依頼はどうするのですか?」



 レオが慌てて言った。



 「王子を送ってからでいいだろ。どうせネプチューンの依頼はかなり遅れているのだし。ワハハハハ」


 「わかりました。まずは王子を連れて王都へ戻りましょう」


 「よし、馬車を走らせるぞ」



 アルテミスは、馬車を走らせたが王都とは全く別の方向へ向かっていくのであった。

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