第212話 神守聖王国オリュンポス パート21


 ★少し時間はさかのぼって、ディービルの森へ向かっている『珍宝』の話しです。



 「おりゃーー、おりゃーー」



 ジュピターの奇声が響き渡る。



 「これでこの辺りのネズミンは討伐したぞ」



 自慢げにジュピターが言う。



 「さすがジュピター様、もう雷霆を使いこなされていますね」



 ヘルメスがジュピターをもち上げるように言った。しかしネズミンは討伐難度Gランクの最弱の魔獣である。



 「俺は才能の塊だ。俺にあつえない武器はないのだ。ガハハハハ」



 ジュピターの下品な笑いが響き渡る。



 「ヘルメス、ネズミンをこんなに倒して大丈夫なのか?」


 

 ヴェスタがヘルメスに言った。



 「これでいいのです」



 ヘルメスは静かに呟く。



 「ヘルメス、どうなっても知らないぞ」



 ヴィスタが心配するのには理由があった。ネズミンは30cmくらいのネズミのとても弱い魔獣である。しかし、ネズミンは進化する魔獣なのである。ネズミンから、ネズミッチ、そして最終進化であるネズチュッチュに進化する。


 ネズチュッチュになると討伐難度は一気に上がりDランクになる。ネズチュッチュは、弱いネズミンを倒した者を必要に追いかけてくる、仇討ち魔獣とも呼ばれている。なので、経験豊富な冒険者は、ネズミンを見かけても、攻撃しないのであった。このことはもちろんヘルメスもヴィスタも知っている。知らないのはジュピターだけであった。



 「ジュピター様、先を急ぎましょう」


 「そうだな。こんな雑魚魔獣を倒しても俺の名声は広がらないからな。もっと強い魔獣を倒して、俺の力を国民達に知らしめないとな」


 「そうでございます。このままブラカリの町へ行ってもいいのですが、あちらの岩場にレア魔獣が出ると聞いています。ジュピター様の強さを国民に見せつけるのには丁度良いと思います」


 「ヘルメス、それは良い案だな。俺にはこの雷霆がある。これがあればどんな魔獣が出てこようが、負ける気はしないわ。ガハハハハ」



 ジュピターの下品な笑いが響く。



 「ヘルメス・・・あの岩場はかなり危険だぞ」



 ヴィスタがヘルメスに小声で言う。



 「問題はありません」



 ヘルメスは静かに言った。



 「よしいくぞ!」



 ジュピター達は、馬車を走らせて岩場の近くまできた。



 「馬車を潰されると困りますので、ここからは徒歩でいきましょう」


 「そうだな。ところでヘルメス、この岩場にはどんな魔獣がいるのだ」



 強気を装っているジュピターだが、内心はかなりビビっているのであった。ディービルの森は獰猛な魔獣が住む悪魔の森と言われている。腕に自信のある冒険者が、腕試しにディービルの森に来ることはたまにあるのだが、ほとんどの者は魔獣に恐れをなして逃げ出すのであった。



 「岩石トカゲが生息していると思います。岩石トカゲは貴重な岩石をドロップすると聞いています」


 「岩石トカゲを倒したらいいのだな」



 足をガクガク振るわせながらジュピターは言った。


 岩石トカゲも討伐難度はDランクである。C1冒険者であるジュピターなら勝てる魔獣であるが、ジュピターの本当の実力はEランク程度である。なのでジュピターは怖くなったのであった。



 「よし、みんなで協力して倒そうではないか」


 「私どもが協力してもよろしいのでしょうか」



 ヘルメスは申し訳なさそうに言った。



 「俺1人でも楽勝なのだが協力を許可する」



 ビビっているのがバレないように言った。



 「しかし、ジュピター様の足を引っ張るマネをしたくありません。私は遠くで観戦しときます」



 ヘルメスは深々と頭を下げながら言った。



 「そうか・・・でも、俺はお前達にも手柄を与えたいと思っている。『珍宝』として全員で岩トカゲを倒してみんなで名声を手に入れようではないか」



 どうしても一緒に戦って欲しいジュピターであった。



 「私は名声など入りません。私はジュピター様の活躍を国民に伝える伝道師になりたいのです。なので、遠くから観戦して、ジュピター様の勇姿を目に焼き付けます」



 ヘルメスは深々と頭を下げながら言った。



 「しかし・・・」



 ジュピターは困り果てていた。このままでは1人で戦わないといけない。



 「ヴィスタ、お前にも名声を与えたやるぞ。だから俺について来い」



 ジュピターは、ヴィスタが嫌いであったが、1人で行くのは怖いから、ヴィスタを連れていくことにした。



 「わかりました」



 ヴィスタはヘルメスが何を企んでいるかわからないが、誠実なヴィスタはジュピターの指示には逆らわない。



 「よし、お前が先に行って確認してこい」


 「わかりました」



 ヴィスタが颯爽と岩場の方へ走っていった。



 「ヘルメス、お前も着いてきたらどうだ」



 ヴィスタだけでは不安だったので、しつこくヘルメスを誘うジュピターである。しかし・・・



 「ヘルメス・・・どこへ行ったのだ」



 ジュピターが振り返るとヘルメスの姿はどこにも見当たらないのであった。



 「ヘルメス」「ヘルメス」



 ジュピターは、何度も何度もヘルメスの名を叫んだが返事はない。



 「ヘルメスに身に何かあったのか・・・」



 ジュピターは急に不安になって頭を抱えて座り込んでしまった。



 『チューー・チューーー』



 ジュピターの背後からネズミの鳴き声のような声が聞こえてきた。


 ジュピターは恐る恐る背後を見た。


 ジュピターの後ろには、2mくらいの二足歩行のネズミの魔獣が3体立っていた。その魔獣はネズチュッチュである。


 ジュピターは雷霆を構えようとしたが、背中に付けていた雷霆がなくなっていた。



 「俺の雷霆が・・・」



 ジュピターは雷霆がなくなったことに気づき呆然と立ち尽くしている。


 ネズチュッチュは、鋭い爪をジュピターに突き刺そうと突進してきた。



 「ぎゃーーーーー」



 ジュピターの悲鳴が轟いた。


 

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