第15話 討伐クエスト

         


 町から出ると森へ続く道がある。私が町に来る時に通った道だ。あの時に通る道が、逆方向だったら、私はベアーウルフの餌になっていたかもしれない。


 森は魔獣の住処になっている。森の中心に近づくとより強い魔獣が住んでいる。森には、魔獣が食べる動物・果物・植物、さらに弱い魔獣は強い魔獣の餌になる。


 魔獣は、他の魔獣の魔石を食べることで、さらなる力を手に入れる事ができるのである。それが魔獣の特性でもある。


 この世界で、生きている全てのものは、魔石から得る魔力により生きている。


 人間・魔人・エルフ・獣人・魔獣・動物など、さまざま生き物は、全て魔石が心臓の代わりになっている。その中でも魔獣のみが、魔石を喰らい能力を高めていくのである。


 

 「ロキお姉ちゃん。このパーティーの名前はなんて言うのですか」



 そういえば、このパーティーの名前や冒険者ランクの事を聞いてなかったので、確認することにした。



 「ラストパサー【最後の晩餐】です。略してラスパと呼ばれています」


 「なんでラスパにしたのですか?」


 「トールが決めたのよ。冒険者はいつ死んでもおかしくない。だかららクエストを行う前日は、悔いのないように、たくさん食べることにしようってことで、ラストパサーという名を付けたのです」


 「でもトールがあまりにもたくさんたべるから、最近は、『暴食』って呼ばる事が、多くなってます」



 それで今回の討伐クエストの前日もたくさん食べていたのである。でもクエスト関係なしに、いつでもたくさん食べていそうな気がするので、『暴食』のがあってるのかもしれない。



 「冒険者ランクはどうなってますか?」


 「Dランクだぜ」

 


 トールさんが答えた。


 この世界の冒険者ランクは、下はGから始まってAまである。Dということは、中級冒険者の上のクラスだ。


 Dランク冒険者になると、他国への移動もかなり楽になる。Dランク冒険者証があれば、手続きをせずにいろんな国へ行くことができる。



 「すごいです」


 「でも、Cランクに上がるには、自国民じゃないと上がりにくいから足踏み状態だぜ」


 「トールお姉ちゃんは、この国の出身じゃないのですか?」


 「そうだ。俺とロキはスカンディナビア帝国から来たんだぜ。ポロンはエルフの国アルフレイム王国出身だ。冒険者組合は、国・種族問わず公平な審査を行わないといけないが、やっぱり、その国への貢献度の高さが、ランクアップに影響する。しかし、国の重要なクエストは、その国の出身者の冒険者が、優先的に依頼を受けることになるから、仕方がないことなんだ。だから、俺らみたいな他の国の冒険者は、町に危険をもたらす魔獣を狩る事がメインの依頼になる」



 トールさんのいうとおり、国の重要な案件を、他の国の冒険者に頼むと機密情報が、漏れるかもしれないから危険なのである。


 Cランク冒険者は、上級冒険者といわれクラスもC1、C2、C3と分かれてる。最上級のC1冒険者は、ほとんどが貴族お抱えの冒険者になり、貴族から多大なる支援を受けている。



 「たいへんだけど、がんばってCランク冒険者目指しましょう」


 「もちろんだぜ」



 私は、なぜロキさん達が、この国きたのか知りたかったけど、あえて聞かなかった。私も事情があってこの人界にきた。ロキさんたちも、わけあってこの国に来たのであろう。本人達から話してくれるまで待つ事にした。



 「何か近づいています」



 私は少し離れたところから、20体くらいの魔力を感じた。たぶんそんなに強くない魔獣だ。



 「それはホントなの?」


 「はい。私はある程度離れた距離でも、魔力を感じることができます」


 「それは助かるぜ」


 「このまま30メートルくらいのあたりに、魔獣が20体くらいいます。そんなに強くない魔獣だと思います」


 「よし、この先は俺とロキが先頭に立つ、ポロンとルシスは後方で援護を頼む」


 「わかりました」


 「たしかにこちらに何か向かってきてるわ」


 「いつでもこいやー」



 トールさんの武器はハンマーである。魔力をハンマーにこめると、ハンマーはみるみる大きくなる。トールさんは、自分の背丈ほどあるハンマーを片手で持っている。


 ロキさんは、細長い剣が武器である。魔力をこめると赤く輝き炎をまとっている。


 ポロンさんの武器は弓矢である。しかし、矢はもっていない。魔力を込めて撃つと、いろんな属性の矢が出るので、矢は必要ないのである。しかも、回復の矢なんてものもあるらしい。


 そして私の武器・・・何もない。なにも用意してなかった。私は拳ひとつで成り上がってやる。って冗談はさておき、基本、魔法攻撃がメインなので武器はいらない。必要なら魔力の剣を作ることもできる。



 「来るぞ」


 「ブラックウルフだわ」



 ブラックウルフは、体長1mの狼の魔獣である。討伐難度はFの弱い魔獣である。


 ブラックウルフがトールさんに襲い掛かる。トールさんはハンマーを素早く振り落とす。

 


 「グチャ」



 もぐら叩きのように、ブラックウルフが襲い掛かると、ハンマーを振りおろす。



 「グチャ」 「グチャ」 「グチャ」


 「あー面倒だぁー」



 そういうとトールさんはハンマーを振り回して、森の木をなぎ倒しながら、ブラックウルフを全滅させた。



 「楽勝、楽勝、ブラックウルフなんて弱すぎだぜ」


 「トール、1人で無茶はしないでね」



 ロキさんは心配している。



 「ロキお姉ちゃん、さっきよりもかなり大きな魔力を感じます」


 「ルシスちゃん、どれくらい先から感じるのですか?」


 「50メートルくらい先だと思います」


 「よしわかったぜ。さっきと同じく俺とロキが前に行くぜ」


 「わかりました」



 少し歩くと森はひらけて広い草原が現れた。



 「あれかぁー」


 「あれだね」


 「あれだと思います」


 「あれですね」



 草原の真ん中で、熊みたいな大きなオオカミがいる。あれがベアーウルフである。こちらを睨みつけて、様子をうかがっている。しかも1体じゃなく、10体もいる。



 「こりゃきついなぁー」


 「きついですね」


 「きついと思いますわ」


 「楽勝です」




 「えーーーーー」



 私以外の3人は、私の発言にすごく驚くのであった。




 



 

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