第420話 スカンディナビア帝国編 パート8

 

 「父上、トールお嬢様と一緒にこの国を出て冒険者になることにしました」



 ロキさんは、トールさんとこの国を出る前に、父であるヴァリに挨拶をするのである。ヴァナヘイム家は、スカンディナビア城の地下の一階にある、薄暗い大きな広間を与えられていた。そこには、きちんとお風呂やトイレもあり、部屋数も4部屋ほどあり、環境は良くはないが、生活するには十分な広さは与えられていた。


 父であるヴァリは、アーサソール家に代々仕えている執事の出身なので、城内のことはなんでも把握しているので、執事から使用人と身分は低くなったが、アーサソール家に使えるメイド達やヴァリの代わりに新たな執事となった弟のヘルブリンディはヴァリに頭が上がらない。



 「そうか。好きにすると良い。しかし、お前の本来の役割を忘れるなよ。近いうちにこの国は俺のモノになるはずだ。その時はトールを拘束して戻ってこい。この国の支配者は誰であるか国民達に知らせるためにも、アーサソール家にはそれなり報いを受けてもらわないいけない」


 「私は与えれた使命を全うするだけです。だからトールお嬢様と冒険者になることに決めました」


 「それでいいのだ!母であるラウフェイは、アーサソール家に殺された様なものだ。母の恨みを絶対に忘れるなよ」



 ロキさんの母親であるラウフェイはロキさんが10歳の時に病で亡くなったのである。原因は過労で倒れてしまい、処置もしてもらえずに死んでしまったらしい。



 「私は責務を全うするだけです」



 ロキさんは表情を変えることなく淡々と答えるのであった。


 ロキさんは父親に別れの挨拶をして、トールさんと一緒にお城を出て行った。



 「ロキ、お前はもう自由の身だ。今日からは俺のことをトールと呼べ。俺は王族の地位を捨てて冒険者になるのだから、もう、お嬢様と呼ぶなよ」


 「わかったわ。トール」



 ロキさんが優しく微笑みながら言った。



 「ロキ!!」



 トールさんは、初めてロキさんが自分のことをトールと呼んでくれて嬉しかった。トールさんは嬉しくて感情を抑えることが出来ずに涙を流しながらロキさんに飛びついた。



 「トール!何を泣いているのよ。お城が恋しくなったのかしら?」



 ロキさんはトールさんをからかうように笑顔で言った。



 「うるせぇ!俺は今すごく嬉しいんだぜ」



 トールさんは少し赤くなって照れていたが、やっとロキさんが友達のように接してくれるのが嬉しくてたまらないのである。



 「トール、これからどうするのですか?冒険者として生活していくプランを聞かせて欲しいわ」


 「それは・・・そうだな・・・これから考えるぜ!とりあえず飯を食いに行こうぜ。腹が減ってはいいアイディアが浮かばないぜ」


 「トール!あなた昔から冒険者になると言っていたよね。もしかして、何も考えずに城を飛び出したの?」




 ロキさんは呆れた表情でトールさんに詰め寄る。



 「俺は、引かれたレールを走るのは嫌いだ。だから、何をするのも計画を立てるつもりはない。俺の心が導くままに俺は進むだけだ」



 トールさんは胸を張って言い放った。



 「はぁー。あなたは子供の頃から何も変わっていないのね。今から食事にするのもいいけど、お金は持っているの?これからは、王女の時のように親のお金で生活することはできないのよ」


 「大丈夫だ。俺はこの時のために金魚の貯金箱にずっと小銭を貯めたいたのだぜ。ついに金魚の貯金箱の封印を解く時が来たみたいだな」



 トールさんは懐から大きな貯金箱を取り出した。そして、貯金箱をロキさんに見せつけてから、勢いよく地面に叩きつけたのであった。



 『ガシャーーン』



 地面にぶつけられた貯金箱はバラバラに破壊された。



 「あれ・・・?」


 

 トールさんは首を傾げる。



 「トール!何も入っていませんよ」



 貯金箱の破片だけが地面に散らばっている。



 「よく見てみろ!一枚だけお金があったぜ」



 貯金箱の破片の下に一枚だけコインがあった。そのコインの価値は日本円にすると100円程度である。



 「コイン一枚で何を食べる気なの?」


 「それは・・・」


 「トール!ちゃんと貯金箱にお金を入れていたのですか?」


 「最初に一度だけコインを入れた記憶はあるぜ。しかし、それ以降の記憶は思い出すことはできないぜ」


 「トール・・・どうするの?今更お金を取りに城には戻れないわ」



 大見得切って城を飛び出してきたトールさんは、城に引き返すなんてできない。



 「よし。冒険者登録をしよぜ。そして、クエストを達成してお金を手に入れようぜ」


 「はぁーー。いきなり金欠からのスタートなのね・・・でもトールらしくていいかもしれないわ。すぐに冒険者ギルドに行くわよ」



 ロキさん達は、王都パステックでは冒険者登録をしたくないので、馬を走らせて隣町のスヒーズの町へ向かったのである。



 「ロキ・・・腹が減ったぜ」



 王都で食事ができなかったトールさんは、お腹が減って力が出ないのである。



 「もう少しでスヒーズの町に着くわよ。早く冒険者登録してお金を稼ぐのよ」


 「もうだめだぜ。全く力が出ないぜ・・・」



 トールさんは馬の背中に倒れ込んでしまって、そのまま町の方へ馬は走っていくのである。



 「トール!危ないわよ」



 ロキさんは馬にスピードを上げるように指示を出して、トールさんの馬を追いかけるのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る