第421話 スカンディナビア帝国編 パート9
ロキさんは必死にトールさんの馬を追いかけたが、トールさんを乗せた馬は暴走してスヒーズの町の門へ駆け込んで行く。
「止まれ!身分証を提示しろ」
スヒーズの町の門兵は、トールさんに馬を止めて身分証を出すように指示するが、トールさんは腹ペコで気を失ってしまって、馬は暴走モードに入っているので、静止を求める門兵を弾き飛ばして強引に町へ入って行った。
「その馬を止めろ。そして、馬に乗っている奴を捕らえるのだ」
もう1人の門兵が大声をあげて叫んだ。
暴走した馬が町へ入ってきて、町の人たちも驚いて道をあける。
「誰かその馬を止めろ!」
門兵は走って追いかけるが、馬のスピードに追いつけるわけがない。
「何を騒いでいるのだ」
門兵の背丈の3倍以上あろかという大きな巨人が門兵に声をかける。
「ティターン様、聞いてください。あの馬に乗った女性が、私たちの静止を振り切って町へ侵入したのです。町へ入るには、門で身分証を確認することになっています。身分証を見せないということはあの女性は危険人物だと思います。すぐに捕らえて拘束する必要があるのです」
門兵は必死に巨人のティターンに説明をする。
「仕方がない・・・手を貸してやる」
巨人族が住むガリヴァー国は、スカンディナビア帝国とは友好的な関係を保っており、ガリヴァー国から、スカンディナビア帝国へ観光へ来る巨人も少なくない。なので、スカディナビア帝国の人間は巨人を見てもあまり驚くことはなくむしろ友好的なのである。
「ティターン様、寄り道をしている暇はありません」
ティターンの近くからティターンに声をかける者がいるが、その声の主は誰にもみることはできない。
「そう焦るな!今後のためにも恩を売っておくのも良いとは思わないか?」
「確かにそうですね」
ティターンは、建物を壊さないように慎重に周りを見渡して大きくジャンプした。ティターンはトールさんの乗った馬の少し先に着地して、大きな手を振り落として、暴走していた馬の首を掴んで捕まえた。そして、ティターンは馬を摘んだまま門兵の元へ戻ってきた。
「ほれ!」
ティターンは馬を門兵の目の前にそっと置いた。強大な手で掴まれた馬は、借りてきた猫のようにおとなしく縮こまっている。そして、馬の背の上でトールさんは空腹で気絶している。
「ティターン様、ありがとうございます」
門兵は深々と頭を下げる。
「ティターン様、先を急ぎましょう」
「わかったぜ」
トールさんは門兵に捕まって、スヒーズの町にある留置場に連れて行かれた。そして、トールさんは無理矢理起こされて留置場で尋問を受けることになる。
「お前はこの町に何しにきたのだ」
「・・・」
「身分証は持っているのか?」
「・・・」
「なぜ黙っているのだ!」
「お・・お・・・お腹が・・・」
「お腹がどうしたのだ!」
「ペコペコだ」
トールさんそう言い残すとその場で、再び倒れ込んでしまった。
「起きろ!」
門兵は怒鳴りつけるが、トールさんはピクリとも動かない。
「その子はお腹が減っているのよ。それくらいもわからないのかしら」
「お前は黙っておけ」
「そんな口を私に聞いてもいいのかしら?私はアルフヘイム妖王国の第3王女よ。後で後悔することになるわよ」
「うるさい!それなら王女である証拠を見せてみろ。いくら同盟国のエルフであっても食い逃げをした罪を帳消しすることはできないぞ。しかも、王女であると嘘の証言をするとはいい度胸だな。後で、アルフヘイム妖王国に連絡して、お前の処分を決めてやるからおとなしくしているのだ」
「やめて!お父様に連絡するのだけはやめてほしいのよ!」
さっきの強気な態度から一変して、頭を下げるエルフの女性がいた。
トールさんが不法侵入で留置場に連れてこられる数時間前に、食堂で食い逃げをしたエルフが衛兵に捕まって留置場に拘束されていたのである。
「いつまで、エルフの王女の演技をしているのだ!だいたい、エルフの王女が食い逃げなどするはずがないだろう」
「たくさん用意したお金を全て使ってしまったのよ」
このエルフは、もちろんポロンさんである。ポロンさんは、ライアーの協力を得てスカンディナビア帝国へ来たのはいいが、精霊神の情報を集めるどころか、毎日スヒーズの町で美味しい物を食べて寝るという自堕落な生活をしていたのである。
「その話は何度も聞いてる。もしエルフの王女ならエルフの国からお金を工面してもらえばいいのだ」
「それはできないわ。私には大きな目標を持ってエルフの国を出てきたのよ。だから、お金がなくなったからといって、お父様に連絡するなんてできないのよ」
「お前の個人的事情はどうでもいいのだ。お金の件は食堂の店主からは、支払いはしばらく待ってくると言っていたが、無銭飲食の罪は変わらないぞ。しかし、今回は初犯なので、身元引受人を用意すれば釈放してやる」
「身元引き受け人なんていないわよ・・・そうだわ!その子に私に身元引受人になってもらいますわ」
「何を言っているのだ!こいつもお前と一緒の犯罪者だ。犯罪者が身元引受人になんてなれないのだ」
食い逃げは犯罪であり、決して許される行為ではない。しかし、ポロンさんはお金がまだ残っていると勘違いしてお店に入って食事をしてしまい、お金を支払う時に財布の中身が空であることに気づいたのである。店主とは話し合いで解決する予定だったが、客が『食い逃げだーーー』と叫んで騒ぎを大きくしてしまし、たまたま通りかかった衛兵に捕まってしまったのである。店主からは、後日支払いをすれば許してくると言っているので、身元引受人がくればポロンさんはすぐにも釈放されるのである。しかし、ポロンさんは家族には連絡することはできないので困っているのである。
一方トールさんは、空腹で気を失っていたので、悪意があって不法侵入したわけではない。なので、きちんと説明すれば罪に問われることはないが、いまだに空腹で倒れ込んで意識がないのであった。
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