第356話 魔石国家ケルト王国編 パート26


 「オーディン様は心配しすぎなのだ。俺も馬鹿ではない。キュテラ教国には、一応警戒しているから問題はない。人界の民同士の国の争いならアプロディーテー様も文句は言うことはできないはずだ」



 だからプロメーテウスは、トゥーニップ共和国にキュテラ教国を襲わせるようにしたのである。しかし、そんな小細工をアプロディーテーが許すわけがない。結果的には神人であるプロメーテウスが関与しているのである。そんな事にも気づけないプロメーテウスであった。


 オーディンの忠告も無視して、プロメーテウスは一旦人界へ戻って現状を確認することにした。



⭐️視点はキュテラ教国に戻ります。




 キュテラ教国の国境を越える1000人ほど兵士の姿が見えた。それは、無理矢理キュテラ教国に攻めることとなったトゥーニップ共和国の兵士たちである。武器や魔石具の支援を受けたトゥーニップ軍だが、国境を越えた途端に白旗を上げて、武器を投げ捨てて走ってキュテラ教国へ亡命をした。もちろんその中にはトゥーニップ共和国の国王もいた。


 国境を見張っていたアプロスは、その光景をじっと眺めていた。




 キュテラ教国の教王イーリアスは、アプロディーテーの使者と名乗る天使のような翼を持ったピンクの綺麗な長い髪の女性を見て、すぐにアプロスを女神アプロディーテー様の使いの者だと信じた。


 

 「ケルト王国が攻め込んできます。しかし、あなた方の願いはアプロディーテー様は叶えてくれました。アプロディーテー様の指示により、私がキュテラ教国を守りますので安心してください」


 「ありがとうございます。我が国は軍隊を持たない国であります。ケルト王国がいずれ攻め込んでくるのはわかっていました。しかし、平和と愛を愛するアプロディーテー様の教えにより、私たちは話し合いでの解決を望んでいました」


 「そうでしたか・・・本来なら神が戦争など起こらないように目を光らせておくべきだったのですが、人界への介入はしないことになっています。しかし、今回はある事情によって特別に関与する許可を得ることができました。何があっても私がこの国を守りますの安心してください」



 アプロスは、アプロディーテーの言葉を教王イーリアスに告げて、すぐにケルト王国が攻め込んでくる国境付近に飛んで行ったのである。



 「あいつら何をしているのだ!」



 クーフーリンが怒鳴り散らす。



 「クーフーリン、落ち着け。こうなることは俺の想定内だ」



 魔石具団の団長の1人蒼炎のクーフーリンと対等に喋る男は、魔石具団の団長の1人無炎のブリードである。



 「しかし、キュテラ教国は軍隊を持たない貧弱な国だぞ!俺たちが与えた武器と魔石具を使えば簡単に滅ぼすことができただろ!」



 クーフーリンの怒りはおさまらない。



 「お前も知っているだろ?女神に奇跡を!」



 女神の奇跡とは、キュテラ教国が、軍隊を持たないのは女神に守られているからだという噂である。しかも、その噂を信じる者は多い。なので、トゥーニップ共和国の軍隊は白旗を振って亡命したのである。



 「そんなの迷信だ!俺たちには神人が付いているのだぞ。俺たちが負けるわけがない」


 「その通りだ。しかし、神人の存在を知っているのは魔石具団の4隊長だけだ。お前の部隊の兵士たちもかなりビビっているだろう」


 「そうだな・・・」



 キュテラ教国は小国であり軍隊を持たない国である。なのにテウス王がすぐに攻めないのは女神の奇跡を怖がっていると兵士たちは思っていた。そして、それを確信に変えたのが、トゥーニップ共和国に先に戦争を仕掛けるように指示を出したことである。この事でテウス王が女神の奇跡を恐れていると確信に変えたのであった。


 プロメーテウスは、確かにアプロディーテーが関与しくるか警戒はしている。なので、あながち女神の奇跡を恐れているという考えは間違ってはいない。



 「どうする。テウス様の指示だと様子を伺うだけで戦闘はするなと言われている」


 「俺が、なぜここに来たと思っているのだ。トゥーニップ軍が女神の奇跡を恐れて逃げることは想定内だ。俺には透明の魔石具がある。姿を隠してキュテラ教国の教王イーリアスの首を取ってきてやる。教王の殺せば勝ったのも同然だ」


 「しかし、テウス様の指示は絶対だぞ」


 「お前も女神の奇跡を恐れているのか?あんなのは迷信だ」


 「俺も女神の奇跡など信じてはいないぞ!ただ・・・テウス様の指示を逆らうのは気が引けるのだ」


 「問題ない。手柄をあげればテウス様も納得してくれるだろう。それに、軍隊も兵士も持たない国に負けることなどありえない」



 ブリードはニタニタを笑いながら言った。



 「そうだな。お前に任せる」


 「ここから、教王イーリアスのいる神殿には1時間もかからないだろう。お前はここで俺の帰りを待っていてくれ」


 「わかった。もし、何かあればすぐに応援に駆けつけるぜ」


 「心配するな。透明の魔石具を持っている俺に誰も気づきはしないはずだ」


 「そうだな」



 ブリートは透明の魔石具を身につけると、ブリードだけでなくブリードの乗っている馬も透明になって姿が見えなくなってしまった。


 ブリードは馬に鞭を打って颯爽とキュテラ教国の国境を越えて、教王イーリアスのいるキュテラの町の駆け出して行った・・・が、ブリードの胴体が天空高く舞い上がって、下半身から胴体が離れて地面に落ちたのであった。


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