第384話 カースド共和国編 パート6

 

 カースド共和国のゼラチン王は、少し小太りの温和な性格の王である。国と名乗るにはあまりにも小さな国であるが、何も特産物もないこの国の領土を脅かす外敵はいない。



 「ゼラチン王、町の教会に神様が現れました」



 女性の名はサーヤ。ナレッジが救った子供の母親である。




 「こんなところに神様が現れるわけがないだろう」




 ゼラチン王はサーヤの話を信じることができない。



 「見てください。生まれてからずっと病弱だったロイがこんなに元気になりました」


 「ゼラチン王、僕はこんなに動けるようになったよ」



 ぴょんぴょんとロイは元気に跳ね回る。


 小さな国なので、ロイが生まれた時から病弱でほとんど寝たきりで動くことができない事は、国民なら誰でも知っている。そして、ロイを治す術がなかったことも・・・



 「本当にあの病弱なロイなのか?」



 ゼラチン王は自分の目を疑った。ロイが元気に動き回るなんて信じられないのである。



 「ゼラチン王、あれは間違いなくロイです」



 ゼラチン王の護衛件執事を務めるデンプンが助言する。



 「本当に神様が現れたと言うのか?」


 「ロイが元気になったのは事実です。一度教会へ確認した方が良いと私は思います」



 デンプンはロイの元気な姿を見て、サーヤが嘘を言っているとは思えなかったのである。



 「ゼラチン王、ゼリー王女様の火傷も治してもらえると思います」



 ゼラチン王には2人の子供がいる。そのうちの1人ゼリー王女は、幼い頃に火事によって顔と腕に大きな火傷を負ってしまった。ゼラチン王は、少ない国費を使って他の国から優秀な回復術士を呼んで、ゼリー王女の命を救うことができたが、火傷の痕が消えることはなく、今でも痛みで苦痛を伴っているのである。なので、常に回復術士がゼリー王女に付いているのである。



 「もうよい・・・何度騙されたことか」



 ゼラチン王は、ゼリー王女を救うために大金積んで何度も他国の優秀な回復術士に治療を依頼したが、ゼリー王女の火傷が完全に治ることはなかったのである。しかも、治療費が高くて、ゼラチン王は王様なのに国民と同じように質素な生活をしていた。もちろん、お城などなく少し大きな屋敷にゼラチン王は住んでいる。



 「神様はお金を要求することはありません。ロイも無料で治してくださいました。しかし、無料では悪いと思いまして、私は神様に食事を提供しいます。神様への感謝の気持ちはお金じゃなくていいのです。私たちの誠意を見せれば喜んでくれます」



 サーヤは、必死にゼラチン王にナレッジのこと説明する。



 「デンプン、今から教会へ行ってみることにする。ゼリー王女の準備をしてくれ」


 「かしこまりました」



 デンプンはゼリー王女を馬車に乗せ教会へ向かった。





 「神様!話を聞いてください」



 案内役としてサーヤも付いて来た。



 「またお前か!次の食事は夜にしてくれ」



 面倒くさそうにナレッジは言った。



 「今回は食事を運びに来たのではありません。神様にお願いがあります」



 「俺には用がない」


 「お願いします。話だけでも聞いてください」


 「好きにしろ」



 サーヤはゼラチン王の娘であるゼリー王女のことを説明した。



 「俺に治せと言っているのか!」


 「お願いします。ゼリー王女は火傷の痛みで毎日苦しんでいます。王女様をお救いなれば、カースド共和国の国民達も神様へのお供物が増えると思います」


 「お供物・・・」



 ナレッジはふと思った。サーヤの子供を治療してあげたらタダで食事を貰うことが出来た。次はこの国の王女を助ければもっと良い物がもらえるのではないかと。魔界から逃げてきたナレッジは、頼る者がいないので人間をうまく扱えばメリットになると思ったのである。



 「治してやってもいいが、ここにフカフカのベットを用意させろ。それと毎日美味しいお酒も飲ませろ」


 「わかりました。ゼラチン国王に伝えてきます」



 サーヤは教会から出てナレッジの言葉をゼラチン王に伝えた。



 「本当に治せるのだな?」


 「神様が治せると言ったのでは問題ありません」



 サーヤはナレッジを神様だと思っている。なので、神が治ると言えば絶対に治ると信じている。



 「わかった。お前を信用する」



 ゼラチン王とデンプンはゼリー王女をおぶって教会の中へ入っていった。



 「お前達は誰だ」



 耳障りな低い歪な声でナレッジは声をかける。


 ゼラチン王とデンプンはナレッジの姿を見て悲鳴をあげそうになった。ナレッジの姿はどう見ても神様には見えないのである。神と言うよりも悪魔に近いと感じた。



 「貴方様が神様でしょうか?」


 「俺がくだらない神などであるわけがない。早く治してほしい娘を見せてみろ」



 ナレッジにとっては神は自分を裏切った宿敵でしかないのである。



 ゼラチン王はナレッジの迫力に飲まれて、ナレッジの言うがままにゼリー王女をナレッジに見せた。ゼリー王女は包帯をぐるぐる巻きして、まるでミイラ男のような姿であった。



 「包帯などしてなんの意味があるのだ」



 ナレッジはゼリー王女を一目見て火傷の症状を確認した。



 「人族の治癒魔法はレベルが引く過ぎるぞ。こんな治癒魔法など意味がないわ」



 ナレッジは悪態を吐くが、ゼラチン王は神の助言とし真摯に受けて止めている。



 「私どもの力ではこれが限界です。お願いします。娘を痛みから解放してください」


 「こんな火傷すぐに治るわ!」



 ナレッジは魔界では魔法は特に優れているわけでない。しかし、火傷を治すくらいはできるのである。


 ナレッジが治癒魔法をかけるとゼリー王女の火傷は瞬時に治ったのである。



 「お父様、痛みが消えましたわ・・・」



 今まで人形のように一言も喋らなかったゼリー王女が声を発した。ゼリー王女は何度も治療をしたが、全く治ることがなかったので、もう諦めていたのであった。



 「神様、娘の火傷の跡も治してくれませんか!」



 ゼラチン王は先程と違って、ナレッジに跪いてお願いをした。



 「もう、全て治っているわ。俺の治癒魔法を馬鹿にしているのか!」



 ナレッジは声を荒げる。



 「申し訳ありませんでした」



 ゼラチン王は何度も頭を床に擦り付けて謝る。


 ゼリー王女は包帯をとって自分の顔を震えながら触った。



 「お父様・・・火傷の跡がありませんわ」



 ゼリー王女は嬉しさのあまりその場にしゃがみ込み泣き出したのであった。


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