第363話 魔石国家ケルト王国編 パート33
「オーディン!うるさいわよ。今は食事中よ。静かにしなさい」
パイスがオーディンを怒鳴りつける。
「しかし、こいつが急に食卓に現れたのだぞ。転移するならもっと場所を考えろよ」
オーディンが言う事が正しい。
「いいじゃないの。可愛い男の子を見て食事するのもアリだと思いますわ」
アプロスはニヤニヤと笑みを浮かべながら言った。
「お食事中のところ申し訳ありません。転送者がミスをしてしまってこんな場所に転移してしまいました」
僕は頭を下げる。
「気にしなくていいのよ!むしろ大歓迎よ。私はあなたのような可愛い男のは好きなのよ」
パイスは微笑みながら言った。
「お前らこのガキに甘すぎるぞ!こいつは魔王の子供だぞ。いずれ魔王になるかもしれない危険人物だ」
オーディンは大声で叫ぶが、3神嬢は全く聞いていない。
「私の隣で座るといわ」
アプロスが僕を誘う。
「ダメよ。彼は私の隣よ!」
「いいえ、わたしの膝の上よ」
3神嬢は、僕がどの席に座るかもめている。
結局、3人でジャンケンをして、ジャンケンに勝ったアプロスの隣の席に案内された。
「お前は何しにきたのだ!」
誰にも相手にされないオーディンが大声で叫ぶ。
「僕はお姉ちゃんの難病を治療する方法を探しに表天界に来ました」
僕は目的を告げた。
「・・・確か魔王の子供の1人は死んだと聞いているぞ」
オーディンが呟く。
「何かの間違いです。誰も死んではいません」
「いや、間違いなどではないはずだ。力を失った魔王の長女は、ナレッジが魔獣の餌にするために人界へ転送させたと聞いているぞ」
「そんなはずはありません。お姉ちゃんは人界で生きているはずです」
「お前はナレッジに騙されているのだよ。俺はウーラノス様から魔界と天界の取引のことを聞いているぞ」
「魔界と天界の取引?」
「そうだ。魔界参謀長官のナレッジは、己の勢力の魔族を魔王にするために、魔王候補を1人減らそうと考えていたのだ。そして、魔王の子供の3人の中で、3世界を掌握する大魔王の器のある少女が、危険人物だとウーラノス様に真言して、神の力によって魔石を浄化して殺して欲しいと頼んだらしい」
「神がお姉ちゃんの魔石を浄化したのか・・・」
僕は湧き上がる怒りを抑えながら静か尋ねた。
「そうだ。ウーラノス様の指示で天使が魔界へ向かったと聞いている。天使はナレッジの手引きで、悪魔と契約する『契りの間』に案内されたらしい。そこで、浄化に成功した聞いている」
「あいつの仕業だったのか・・・」
「しかし、浄化してもそのガキはなかなか死なないから、人界へ転移させて魔獣の餌になったと聞いているぜ」
「あいつは俺が殺してやる」
僕は怒りを抑えるのに必死だった。
「本当に死んだのかしら?」
オリーブが呟く。
「そうね。その話は表天界では有名な話で誰でも知っているわ。でも、魔王の子供の魔石を浄化できたという話は信じられないわ」
パイスが呟く。
「浄化されたのは事実です。お姉ちゃんからは全く魔力を感じることができませんでした」
「そうなのね。でも、魔族の魔石を浄化するだけでも困難だと言われているわ。それが、大魔王の器の女の子だと、不可能だと思うのよ」
パイスは腑に落ちない点があるようだ。
「それは私も思っていたわ。しかも、誰が浄化したかの情報は入っていないわ」
「お姉ちゃんの魔石を浄化した天使は誰なのかわからないのですね」
「そうよ。ウーラノス様だけが知っているわ」
「誰が浄化したかわかれば、真相がわかるかもね」
「そうね。でも、魔人が裏天界に行くことは不可能だわ」
「そうでもないわ。ナレッジという男だけが裏天界へもいける能力を持っていると聞いているわ」
「『時空の番人』の能力ですね」
「そうよ。でも、裏天界に行くのは危険すぎるわ」
オーディン達の話によると、もうお姉ちゃんは死んでいるらしい。しかし、それはあくまで憶測の話だという。ナレッジがお姉ちゃんが魔獣に食べられて死んだとウーラノスに報告したという情報なので、どこまでナレッジの話に信憑性があるのか疑問が残るらしい。
しかし、それよりも、お姉ちゃんの魔石を浄化した天使の正体の気になるのである。僕は魔界に戻ってナレッジを処刑するつもりだったが、裏天界に行ってお姉ちゃんの魔石を浄化した人物を特定するためにはナレッジの力が必要である。お姉ちゃんの生存を確認する方法はないので、裏天界へ行ってお姉ちゃんの浄化の詳細を調べようと僕は思った。
「僕は、お姉ちゃんの難病を治す方法を探すために表天界へ来ました。でも、お姉ちゃんの魔石を浄化した本人を調べれば答えは出ると思いました。なので、裏天界へ僕は行きます」
「本当に行くつもりなの?」
アプロスが心配している。
「はい。僕はお姉ちゃんが死んだとは思いたくないのです。なので、生きていると信じて、浄化を解除する方法を教えてもらうために、ウーラノスの会って、お姉ちゃんを浄化した犯人を特定します」
「辞めといたほうがいいわ!私たちで誰が浄化したか調べるから、裏天界へ行くのはやめて!」
パイスは僕を懸命に説得する。
「そうよ。ウーラノス様は魔界と仲良くするつもりはないはずよ。ナレッジという男も協力するふりをして、馬鹿にして遊んでいたのよ。あなたも同じように扱われるだけよ」
「でも、僕にできることはそれしかないのです」
「あなたのお姉ちゃんはきっと生きているわ。だから無茶をしたらだめよ。いくらあなたが魔王の子供でも、裏天界の王であるウーラノス様と渡り合うにはまだ幼すぎるわ」
「そうよ、ここは3神嬢の私たちに任せてもらえるかしら。実は私たちも、この件に少し興味があったのよ。魔界と天界に大きな亀裂ができるか心配していたのよ」
「お願い。ここは私たちに任せてちょうだい」
3神嬢は、真剣な眼差しで僕を説得する。
「わかりました。それではおねがします」
僕は3人の気持ちに答えることにした。
「これを連絡用に渡しておくわ」
僕は一度だけ天界へ戻れる転移の魔石具をもらった。
「これがあれば一度だけ天界へ戻って来る事ができるわ。赤く光ったらこれを使用してちょうだい」
「わかりました」
あまり表天界に長居することはできないので、僕はお礼を言って魔界へ転移した。
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