第401話 ボルの人界征服編 パート14


 ポロンさんはパン屋の前で何が起きたのか説明してくれた。



 「キャ・キャ・キャ・キャ!イフリートのやつがサラの無料券を燃やしたのだな」



 トールさん腹を抱えて笑っている。



 「トール笑い事じゃないわよ!せっかくもらった無料券がなくなってサラちゃんは、途方に暮れているのよ。仲間なら少しは優しい声をかけてあげなさい」


 「でもよ、サラは食べ物のことになると、凶暴になることがあるから変に声をかけるのは危険だぜ」


 「そうなのよ。だから私は何もしないでじっとしているのよ」



 ポロンさんはできるだけ関わりたくないのである。そして、イフリートはサラちゃんの大事な無料券を黒焦げにしたことに気づいて、逃げるように精印に戻っていたのである。



 「でも、このままサラちゃんを放置するわけにはいかないわ」



 仲間思いのロキさんはサラちゃんを放ってはおけない。



 「サラよりも、サラが殴り飛ばした神人はどうなったのだ?」


 「わからないわ。サラちゃんの本気のグーパンチを喰らって、空高く飛んで行ってしまったわ」



 ビバレッジは、サラちゃんのストレスの発散のために犠牲になったのである。空高く飛んでいったビバレッジは消息不明となってしまった。



 「結果的には神人を倒したのだから、よかったじゃないか」



 理由はどうあれサラちゃんのおかげで王都シリウスは守られたのであった。



 「これでもう安心なのね」



 ポロンさんはホッとして顔が緩む。



 「ポロン、まだ安心はできないぞ。ルシスの話だと神人の脅威はまだ去っていないみたいだ。しばらくは、神人の動向を探らないといけないぜ」


 「ルシスちゃん・・・そうなの?」


 「はい。神人の1人は逃げて行きました。でも小ルシス2号を尾行に送りましたので、今後のどのような動きをするのかはすぐにわかると思います」


 「それは助かるわ。それなら、明日は安心してパン屋に並ぶことができるわ」



 ポロンさんは、神人よりパンのが最優先なのである。



 「ルシスちゃん、このことをポルックスさんにすぐにでも報告しないといけないわ」


 「はい。私が説明してきます」


 「ルシス!ちょっと待ちな。その役割は俺が引き受けるぜ」


 「トール。私もお供させてもらうわ」



 いつになくやる気を見せるトールさんとポロンさんである。



 「ルシスちゃん、トール達はサラちゃんの相手をするのが嫌なのよ!」


 「その通りだぜ。屍のようなになったサラを元に戻せるのはルシス、お前だけだぜ!神人の報告は俺たちに任せてサラのご機嫌をとってくれ」


 「ルシスちゃん!お願いするわ」



 トールさんとポロンさんは逃げるようにこの場を去ってシリウス城へ向かった。



 「ルシスちゃん・・・一緒にいてあげたいけど、あの2人に任せてはおけないので私も行ってくるわ」



 ロキさんまでも去っていき、残ったのは屍のようになったサラちゃんと私だけになった。



 「サラちゃん、元気を出して!明日は一緒に並んでパンを買いに行きましょう」


 「・・・」



 返事は返ってこない。



 「サラちゃん!いつまでもこんなところにいたら風邪を引いてしまいますよ。シリウス城に行って暖かくて美味しい食べ物を食べましょう」


 「・・・」



 食いしん坊のサラちゃんが、食事の話でも復活しないとはかなりの重症である。



 「仕方がありません。ついにあのパンを出す時がきたみたいです」



 私はポロンさんがパンが大好きなので、ポロンさんのためにあるパンを試作していた。それはメロンパンである。この異世界ではパンといえば食パンかコッペパンの二つしかないのである。そして、パンの食べ方は、焼き立てのパンをそのまま食べるか、サンドイッチにして肉などを挟んで食べるというのがこの世界のスタイルである。


 私はもっと美味しいパンを知っているので、パン好きのポロンさんに喜んでもらうために、旅の合間にアカシックレコードを使ってメロンパン作りにチャレンジしていたのである。そして、ついにメロンパンを完成させることができたのである。メロンパンを完成させるの時間がかかったのは、パンを焼くための窯を作るのに時間がかかったからである。しかし、時間をかけてパン焼窯を作ってので、これからいつでも美味しいパンを食べることができる。


 ちなみにメロンパンとは、パン生地の上に甘いビスケット生地を乗せて焼いたパンである。



 「サラちゃん!美味しいメロンパンはいかがですか?」



 私は出来立てホヤホヤの美味しいメロンパンを収納ボックスから取り出した。



 「表面がサクサクしていてとても美味しいですよ!」



 メロンパンの香ばしい匂いがサラちゃんの元へ届く。屍のようなサラちゃんの体がピクリと反応した。


 

 「一緒にコーヒー牛乳を飲んでください」



 コーヒー牛乳は大浴場に完備するために以前作ったものである。


 コーヒー牛乳の甘ーーい香りがサラちゃんの元へ届く。


 屍のようなサラちゃんの体がビクン・ビクンと先ほどより激しく動き出した。



 「サラちゃんが食べないのなら私が食べることにしまーーす」



 私は大きく口を上けてメロンパンを頬張ろうとした。



 「ちょっと待つよーーー」



 さっきまで屍のように青白くくすんだサラちゃんの顔が、血色の良いみずみずしい顔になって、私が持っているメロンパンを奪いに来たのであった。


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