第403話 ボルの人界征服編 パート16
小ルシス2号は美女を逃した後、ケルト城の最上階にある王の間を窓越しから中の様子を伺うことにした。
小ルシス2号が大きな窓からこっそりと中の様子を確認すると、そこには仰向けになって血まみれになっているフレイムの姿があった。
「お前のような奴は神人を名乗る資格などない。嘘をつくならもっと俺を騙せるような現実味のある嘘をつくのだな」
ボルは魔王しか使えない『ブラックホール』を使える者などいないと思っている。なので、フレイムの必死の問いかけも嘘を並べた言い訳にしか聞こえない。
「フレイム、『ブラックホール』は闇魔法の究極魔法だ。魔王不在の今その魔法を行使できるものなどいないのだ」
亡骸となったフレイムの死体に向かってボルは冷たく言い放つ。
「ボル様!何があったのですか?」
フレイムのこの世の終わりを告げるような断末魔を聞いたナレッジが王の間に駆けつけてのである。
「ナレッジかぁ・・・フレイムのやつが人界人のごときに恐れをなして逃げてきたのだ。しかも、人界人が『ブラックホール』の魔法を使ったと虚偽の報告をするから、殺してやったのだ」
「そうだったのですか。しかし、フレイムほどの力を持つ男が、逃げるなんて想像がつきません。もしかして本当のことを言っているのではありませんか?」
ナレッジは、『ブラックホール』と聞いて体に寒気が走ったのである。そして、急に体が震え出して冷や汗が止まらない。
「ナレッジ・・・心当たりがあるのか?」
ボルはすぐにナレッジの態度が急変したことに気づいた。
「1人だけ『ブラックホール』を放てる膨大な魔力を持って生まれた奴を知っています。しかし、そいつは俺が魔獣の餌になるように人界へ放って死んだはずです」
ナレッジは、冷静を装って淡々と喋るが背筋が凍るほどの恐怖を感じている。
「魔王の子供か?」
「はい。しかし、アイツはウーラノス様の協力により魔石が浄化されて魔力を完全に失ったはずです。もし、アイツが生きていて魔力を取り戻したのなら『ブラックホール』を発動してもおかしくはありません」
「あくまでも仮説の段階だな。しかし、『ブラックホール』を放てるほどの人物なら俺の相手に丁度良い。明日にでも相手をしてやるか」
ボルは、自分の勘違いでフレイムを殺したことに関して全く触れることはない。
「失礼ですがボル様。『ブラックホール』は闇魔法の究極魔法です。『ブラックホール』が発動すれば、その対象物は少しの抵抗さえできずに飲み込まれてしまいます。安易に行動するのは危険かと思います。一旦表天界に戻って作戦を練ることをお勧めします」
ナレッジは、もし私が魔力を取り戻して生きていれば、ボルでも勝てるのか不安視している。
「臆病者の魔族の発想だな。お前は『ホワイトホール』という魔法を知っているか」
ナレッジを嘲笑うかのようにボルは言い放った。
「聞いたことがあります。天界最大級の光魔法『ホワイトホール』。全ての物体を無の状態に戻す伝説の魔法だと聞いております。天界でもウーラノス様しか使えないはずです」
「さすがナレッジ。お前は物知りだな。その魔法を俺が使えるとしたらどうだ?」
「『ブラックホール』を打ち消すことができると思います」
「その通りだ。俺はウーラノス様から『ホワイトホール』の魔法を授かったのだ。『ホワイトホール』があれば魔界すら簡単に滅ぼすことができるはずだ」
「本当に『ホワイトホール』が使えるのですか?」
「俺が嘘をつくような脆弱な男に見えるのか?」
ボルは自身たっぷりな嫌味たらしい顔つきでナレッジを睨みつける。
「疑うようなことを言って申し訳ありません」
ナレッジは深く頭を下げた。頭を下げたナレッジの顔は笑いを抑えるので必死であった。それは、もし私が魔力を取り戻して復活していれば、命を狙われる危険がある。しかし、ボルが『ホワイトホール』を使えるのなら、私を倒してくれると思ったからである。
「わかればいいのだ。ムーンとフレイムは死んだ。もし、魔王の子供が生きていれば、オーシャン、ビバレッジも『ブラックホール』の餌食になっているだろう。初めから俺1人で三世界を征服するつもりだったので何も問題はないぞ」
ボルは、仲間が全滅したかもしれない状況ですら、なんとも思わないのである。ボルにとって自分以外の存在は、ゴミであり無価値なのである。その傲慢で自分本位な考えなので、小ルシス2号が窓の外から偵察していることすら、気付こうとしないのである。
「人間の女が逃げたみたいだな」
ボルは、ようやく小ルシス2号によって美女が逃がされたことに気付く。
「代わり美女を用意いたしましょうか?」
「いや、もういいだろう。俺のこの興奮を抑えるには人間の女では役不足だ」
ボルは、ウーラノスとの修行で神をも超える力を手にすることができた。そして、そのあまりに強大な力を試すことができなくて鬱憤が溜まっていた。しかし、ついにその力が解放できると思うとアドレナリンが、ガソリンに投下された炎のように激しく燃え上がり、気持ちを抑えることができないほど興奮しているのであった。
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