第210話 神守聖王国オリュンポス パート19

 


 ★パーシモンの町に戻ります。



 「ワイアットさんに会いにきました」



 ワイアットとはバルカンのことである。



 「バルカンのことですね。この工房の中にいるのですが、バルカンはかなり危険な状態です。ルシス様お願いです。バルカンを助けてください」



 ケレスは私に助けを求めてきた。


 私はすぐに工房の中に入った。工房の中では、神剣を抱き抱えながら倒れているバルカンがいた。



 『リフレッシュ』



 私はバルカンに回復魔法を使った。バルカンはすぐに元気を取り戻した。



 「ルシスちゃん・・・私を助けにきてくれたのですか?」


 「そうです。ワイアットさんが危険かもしれないとディーバ様が教えてくれたのです」


 「ディーバ様は、私が神剣をアポロ公爵様に渡さないこと見抜いていたのですね。ディーバ様のご判断に感謝しないといけませんね」



 バルカンは微笑みながら言った。



 「詳しい事情はわかりませんが、無事で何よりです」


 「無事なのはルシスちゃんのおかげですよ。あっそうだ!ルシスちゃんに頼まれていた神剣が完成したのです。ぜひこれを受け取ってください」



 バルカンは私に神剣を手渡した。



 「ありがとうございます」



 私は頭を下げてお礼を言った。



 「ルシスちゃんはこれからどうするのですか?」


 「ネプチューンって人が悪い人みたいなので、お仕置きをしようと思っています」


 「それはいいことだと思います。ぜひ頑張ってください」


 「はーーい」



 私は元気よく返事して、ネプチューン侯爵がいるガッリーナの町へ向かった。



 「バルカン、奇跡は起こったみたいだな」


 「そうだな。俺はルシスちゃんが助けてくれると信じていたからな」


 「信じることはいいことだ」


 

 バルカンとケレスは嬉しそうに笑いながら言った。


 一方、アポロ公爵は地面に埋もれて意識を失っていた。


 バルカンとケレスはアポロ公爵を大根のように地面から引っこ抜いて、パーシモンの屋敷の地下に監禁したのであった。


 私は全速力でガッリーナ町へ向かった。ガッリーナの町はガッリーナ山の近くにある大きな町で、周りにたくさん人工的な湖のあるとても綺麗な町である。


 ネプチューン侯爵は、ガッリーナの町の中心部の周りを池で囲まれた大きな屋敷に住んでいると、ディーバ様から聞いていた。


 ガッリーナの町は水の都と言われるくらいに至る所に水路がある。しかしこの水路や、町の周りの人工的な湖、さらに屋敷の周りが池なのは当然理由があった。それはネプチューン侯爵の神の子の力が、水を操る能力であるからであった。


 ネプチューン侯爵は、自分が戦闘に有利に進めるために、至る所に水を用意しているのである。



 「ハデス、やっと日が暮れたな」


 「はい。これで私の力を存分に発揮することができます」


 「夜はお前の独壇場だな。手始めに何をするのだ」


 「アトランティスの地下遺跡の動向を確認します」


 「ユーピテル様の視点を覗くのだな」


 「そうです」



 ハデスは、夜になると闇の能力を最大限に使うことができるのである。ハデスは闇の能力の一つである『盗見み』を使った。『盗見み』とは、ハデスが作ったゾンビの見ている光景を見ることができる能力である。



 「ギャーーー」


 「ハデス何を悲鳴を上げているのだ」



 ネプチューンが焦って言う。



 「いきなり大声を出して申し訳ありません。ユーピテル様の頭が切り落とされたのでビックリしたのです」


 「おい!ユーピテル様は大丈夫なのか?」


 「問題ありません。ユーピテル様はゾンビです。すぐに首はくっ付きます」


 「そうだったな」


 「ギャーーー」



 またハデスは悲鳴を上げた。



 「ハデス・・・次は何があったのだ」


 「大変です。ユーピテル様が浄化してしまいそうです」


 「なんだと!大変ではないか・・・どうするのだ」


 「私の闇の力をユーピテル様に送ります」


 「ユーピテル様を浄化できる人物がいるとは想定外だったな」


 「はい。でもギリギリ間に合いました。ユーピテル様に闇の力を送ったので、もう問題はありません」


 「そうか、これで一安心だな」


 「はい。次はアレスが、かなり深傷を負っているみたいなので、私の『洗脳』の能力を使ってアレスの体を乗っ取ることにします」


 「それはいい案だな。これでアレスを自由にコントロールできるのだな」


 「そうです」


 「よし、すぐにでもアレスの体を奪うのだ」


 「お任せください」


 『ウルウル・ウルウル』


 「ハデス・・・何を泣いているのだ」


 「いえ、なんでもありません。ホコリが目に入っただけです」



 ハデスはアレスの心の声を聞いて、感動して涙が出てきたのであった。



 「やっぱりアレスの体は諦めましょう」


 「ハデス・・・何をバカなこと言っているのだ!すぐにアレスの体を乗っ取るのだ!」


 「しかし・・・ジュノチンの思いが・・・」


 「何を訳のわからないこと言っているのだ!早く奪うのだ」



 ネプチューンが声を荒げて言った。



 「もう少しだけ待ってください。アレスの思いをジュノチンへ届けてさせてください」


 「意味がわからないぞ!すぐに奪え」



 ネプチューンが怒鳴った。



 「うるさい!こんな感動的なシーンを放っておくことができるか!」



 ハデスはキレてしまった。ハデスは恋愛小説が大好きなので、アレスとジュノのやりとりに感動していたのであった。



 「ユーピテル、何を笑っている!ジュノチンの判断は正しいぞ」



 ハデスはユーピテルに対してキレてしまった。



 「ハデス・・・どうでもいいから早くアレスの体を奪うのだ。


 『シクシク・シクシク』



 ハデスはもう隠さない・・・ジュノとアレスのやりとりを聞いて大きな声で泣いたのであった。



 「ジュノチン、アレス本当にすまない。しかし俺にも使命がある。アレスの体を頂くぞ」



 ハデスは心を鬼にしてアレスの体を奪ったのであった。


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