第171話 倭の国パート12



 剣術大会は、大きな日本庭園のある屋敷の庭の広場で開催される。この屋敷の広場は、以前は平民達の憩いの場であったが、家康将軍が急変した頃から、この大きな広場は、平民は入ることが許されていない。なので、年に一度の剣術大会の日のみ解放されるのであった。


 今回は、家康将軍の優勝者に対して、望みを一つ叶えるとの御触れにより、平民の地位向上を掲げるフレッシュ組を応援する平民が、多数駆けつけていた。


 もし、家康将軍の家来の武蔵達が優勝したら、さらに平民の立場が悪くなると、心配する声も多数出ているので、なんとしても、フレッシュ組に優勝してほしいのである。


 そして、他の町から参加した剣豪達の領主達は、自分の部下の剣豪が優勝したら、家康将軍の配下になり、倭の国のナンバー2としての椅子を、約束をしていたのであった。


 しかし、ヒメコ様の情報では、家康将軍は、他の町の領主達に圧倒的な力を見せつけて、倭の国を完全に支配するつもりであると述べていた。



 この大会は、領主達、平民、家康将軍のそれぞれの思惑があるので、よそ者が参加することにより、場を荒らされるのを快く思っていないのであった。


 なので、私が会場内に現れた時は、会場中からブーイングが鳴り止まないのであった。



 「引っ込め、亜人!」


 「子供が出るとこじゃないぞ」


 「武蔵様、その無礼者を切り刻んでください」



 まだ、紹介されていない段階からヤジがとぶ。



 「黙りなさい。失礼です」



 もみじちゃんの声で、会場が静かになる。


 もみじちゃんは倭の国では有名人である。そのもみじちゃんが普段とは違った雰囲気で、平民・武家の者に大声で怒鳴ったのであった。



 「今回の大会は、俺たちの未来がかかっているのだ」



 静まり返った会場から平民の1人が叫ぶ。



 「ルシスさんは、ただの冒険者ではありません。帝様の推薦をもらっています」



 『ザワザワ・ザワザワ』



 会場内が騒ついている。



 帝様は形の上は最高権力者である。なので、帝様の推薦と言われると誰も文句を言えないのである。



 「ただいまより、剣術大会第一試合をおこないます。宮木武蔵選手、ルシス選手、舞台に上がってください」


 

 先に武蔵が舞台に上がる。さっきまで騒ついて会場内から歓声が飛ぶ。



 「武蔵様」


 「かっこいいところを見せてください」



 もみじちゃんの言葉が効いたのか、応援の声は響くが私への野次はない。それほど、帝様の影響力は強いのである。なので家康将軍はこの剣術大会で力を見せつけたいのであろう。


 そして、私が舞台に上がると武蔵が絡んできた。



 「こんな子供を、相手しないといけないとは俺もついてないな」



 自分たちに有利なる組み合わせにしといて白々しいのである。



 「この前は近藤男に邪魔されたから、あの時のガキの代わりにお前を処刑にしてやるわ」



 武蔵は昨日の出来事を根に持っているのである。近藤男はロキさんの事は警戒しているので、最初に私を殺そうと思ったのであろう。



 「それがお前の剣なのか。子供のおもちゃではないか。ハ、ハ、ハ、ハ」



 私の料理用ナイフを見て武蔵が笑う。そして、武蔵の言葉を聞いた武家の観客達もを大笑いした。



 「おい、あんなので戦うみたいだぞ」


 「試合を舐めてるのか」


 「ルシスちゃん・・本当に強いのかな?」



 もみじちゃんまでも私の調理用ナイフ見て落胆している。海の魔獣を倒しのはロキさん達であって、私は作戦の指示を送っただけである。なので、もみじちゃんは私の戦いを見たことはないのである。



 「もみじ、心配する必要はありません。あの子は強さは本物です」


 「・・・・・」



 もみじちゃんは明らかに、「えーーーーそんなふうには見えないよ」と言いたげな顔をしているが、ヒメコ様には言えない。



 「両者準備が整ったみたいですので、試合を始めたいと思います。第一試合、倭の国最強の剣豪宮木武蔵対冒険者ルシス試合を始めます」



 試合開始の鐘が鳴って試合が始まった。


 武蔵の身長は2mもあり大きな刀を二本持っている。右の刀を私の方に向け左の刀を上に振り上げる。


 私と武蔵ではリーチの差が歴然である。太くて長い大き腕に長い刀の武蔵に対して、小さな細くて短い腕に小さな料理用ナイフの私・・・誰の目から見ても、一瞬で試合は終わると誰もが思っていた。



 「ガキが調子に乗ってこの大会に出たことを、あの世で後悔するのだな」



 武蔵は右の刀で私を突き刺して、左の刀を振り下げて、私を真っ二つに切り裂いた・・・・


 そして、試合は一瞬で終わってしまった。


 もちろん私を切り裂いてニヤニヤしてガッツポーズをしている武蔵の姿はそこにはない。


 舞台の上では、白目を剥いて倒れている武蔵の姿があった。


 会場では何が起こったのか理解できずに静まり返っている。



 「一体何が起こったのだ」



 広場の屋敷の最上階から、剣術大会を見学していた家康将軍が問う。



 「急に武蔵様が倒れました。もしかしら、腹痛を起こしたのかもしれません」


 「そうかなのか・・・武蔵は試合前には体力をつけるためにかなりの暴飲暴食をする。それが仇となったのだな」


 「間違いありません」


 「あの小娘め。運がいいことよ。次はそんなラッキーで勝利などさせないぞ」


 「そうでございます。私があの小娘を懲らしめてあげます」


 「そうだな。野獣よ任せたぞ」



 

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