第172話 倭の国パート13
武蔵はあまりにも弱すぎた。どんに強い大剣豪かと少しは期待していたが、動きも鈍いし神技すら使えていない。これが、倭の国最強の剣豪だと思うとガッカリしたのであった。
それとも、私が子供だと思って舐めてかかってきたのだろうか?そう思わないと、倭の国の他の剣豪に対して失礼である。
武蔵の攻撃を説明しよう。
武蔵は開始と同時に右手に持っている刀で私の喉を突いてきた。しかし、あまりにも単純な動きなため、私はサッと右に避けた。
武蔵は私の喉を突き刺したと錯覚して、私に無惨な死を与えようとして、左手に持っている刀で、私の体を頭から縦に真っ二つに切り裂きにきた。
しかし、武蔵が左手を空に向かって振り上げた刀を振り落とそうとした時には、私が料理用ナイフの小尻で武蔵のお腹を突き刺していたのであった。
殺すのは可哀想だと思って小尻の方を使ったのであった。
「武蔵様が急にお腹を抑えて倒れました。今すぐに確認します」
剣術大会の審判の方が武蔵に駆け寄る。
「何が起こったのだ」
「武蔵様・・・体調でも悪くなったのですか」
侍達が武蔵の体調を心配する。
「ヒメコ様、武蔵が勝手に倒れましたわ」
もみじちゃんがヒメコ様に尋ねる。
「あれが、武蔵の・・・いや、倭の国の実力です」
「・・・・」
もみじちゃんには、ヒメコ様の言葉の意味は理解できない。
「武蔵様の状態を確認しました。武蔵様はお腹が痛くなって倒れてしまいました。なので、武蔵様は棄権となりルシス選手の不戦勝となります」
「武蔵様ーーー」
「なんて運のいいガキなんだ」
侍達から罵声が飛ぶ。
「本命が消えたぜ。この剣術大会は誰が優勝するのだ」
絶対的強者の武蔵が棄権となり、広場に集まった大勢の人たちが困惑している。
「やったーーー。ルシスちゃんが勝ったよ。不戦勝でも立派な勝利だよね」
跳ね上がって喜ぶもみじちゃん。それを黙って見つめるヒメコ様がいた。
武蔵は数人の男達に担いで運ばれていった。そして、私は舞台から降りてロキさんの元へ向かった。
大会の出場選手は試合を間近で観戦できる特別のスペースを与えられている。しかし、私たちには、そのスペースは用意されていないので舞台の近くで立って待つしかないのである。
「ルシスちゃん、楽勝でしたね」
「はい。はっきり言って弱すぎです」
「そうね。私も武蔵の動きを見てそう感じたわ。でも、油断は禁物よ。他の剣豪の中に神の子がいるのかもしれないわ。神の力を持った剣豪がいたら危険よ」
「はい。次の試合も油断しないで戦います」
私は武蔵を倒したら棄権する予定だったが、あまりにも張り合いがなかったので、次の試合にも参加することにした。
「運が良かったな」
細くてスッラとした背の高い剣士が近寄ってきた。
「そうですね」
「俺は佐々木大二郎、武蔵の次に強い剣豪だ。今年も俺と武蔵の決勝戦を国民全てが待ち望んでいたはずだ。もしかしら、お前が武蔵の食事に何か細工したのか?」
佐々木はそういうと舞台の方へ向かっていった。
私が武蔵の食事に何か入れて、武蔵に腹痛を起こさせたと会場内で噂になっているのであった。
「ルシスちゃんが食事に細工をする?何を言っているのかしら、ほんとあの佐々木も、大したことないのかもしれないわ」
ロキさんは、怒りをあらわにして言う。
確かにロキさんの言う通りである。私の動きを全く見えていないと露呈したのと同じである。なので、佐々木もしょぼいと私とロキさんは判断した。
「これより第二試合を始めます。第二試合は、武蔵様の影に潜んだ天才剣士、佐々木大二郎対平民最強剣士岡田内蔵です」
試合開始の鐘が鳴った。
試合開始と同時に岡田内蔵が佐々木に向かって、フェンシングのように剣を突いていく。岡田内蔵は、他の剣士が綺麗な袴を着ている中、内臓だけは血まみれの薄汚い袴を着ている。彼は貧しい家庭に生まれて、自己流で磨いた剣の腕だけでここまではい上がってきた剣士である。なので、初心を忘れないように、袴は使えなくなるまで使い続けているのである。
「平民最強か・・・俺は、倭の国ナンバー2の剣士だぞ。お前の剣など俺には当たらないわ」
佐々木は内蔵の突きを、細長い刀で軽くあしらっている。
「お前らに、平民の辛さがわかるものか。俺はこの大会で優勝して家康を将軍の座からおろす」
内蔵の目が鋭い眼光に変わった。そして、全体重を刀に乗せて佐々木の胸に向かって突進した。
しかし、佐々木は内蔵の動きを読んでいて、内臓より先に攻撃を仕掛けた。
佐々木は細い長い刀を大きく振りかざす。
先手を取られた内蔵は、瞬時に立ち止まって佐々木の刀を避ける。が、佐々木の振り落とした刀は、次は突き上げるようにして内蔵の体を襲う。
「秘技スズメ返し」
内蔵は佐々木の振り落とした刀は避けることができたが、第二手の振り上げる刀は避けることができず、腹を切られて倒れてしまう。
「お前は平民だ。平民が8剣豪を名乗るのは俺が許さない」
佐々木は倒れている内蔵の体を刀で突き刺した。
「どういうことだ」
しかし、そこには内蔵の姿はない。
舞台で倒れ込んでいた内蔵はロキさんの手元にいた。
「お前何をした」
「もう勝負はついているわ。これ以上の戦いは無意味ですわ」
「うるさい。平民にはトドメを刺すのが俺の流儀だ」
「それは私が許しません。なんなら、私がお相手しましょうか」
ロキさんが佐々木を挑発する。
「望むところだ」
佐々木が挑発に乗る。
「そこまでだ佐々木、勝敗はもうついている。ロキさんの相手は私だ。邪魔をしないでもらえるかな」
近藤男が止めに入る。
「近藤男・・・今回はお前に免じて見逃してやる」
佐々木は、勝者の名乗りをあげて舞台から降りていった。
「ロキさん、どうやって内臓を助けたのですか」
近藤男がロキさんに尋ねる。
「秘密です」
「手の内は見せれないと言うことですね。わかりました。では試合の時に教えてもらいます」
そう言うと近藤男はフレッシュ組の元へ戻っていった。
内蔵はかなりの深傷を負っていたので、私が魔法をかけてすぐに治してあげたのであった。
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