第173話 倭の国パート14



  「第三試合は、右目の眼帯を外すとき最強の侍となる野獣十兵衛対フレッシュ組の超新星沖田早郎の試合を始めます」



 試合開始の鐘が鳴った。


 

 「かかってこい、沖田!お前の実力を見せてもらうぞ」



 沖田早郎はまだ16歳と若い侍であるが、幼少の頃から天才剣士と騒がれていた逸材である。今回が初めての剣術大会の出場だが優勝候補と噂されている。



 「沖田様ーーーー」


 「沖田様かっこいいですわーーー」



 沖田早郎は剣の才能だけでなく見た目も超美男子で、エードの町ではアイドル並みの人気である。なので沖田早郎の姿をひと目みようと若い女性がたくさん集まっている。


 その若い女性の中でひときわ大き声で声援を送っているのがもみじちゃんである。



 「キャーー、沖田様が私に手を振ったわ!!!もしかしたら私のことを愛しているのかもしれませんわ」


 

 もみじちゃんはとんだ勘違い女である。沖田は観客に手を振っただけなのに、自分だけに手を振ったと勘違いしているのである。



 「ヒメコ様、私は剣術大会が終わったら、沖田様と結婚することになりましたので忍びを辞めることにします」



 もみじちゃんはヒメコ様に退職届けを手渡した。



 「はいはい」



 ヒメコ様は退職届を受け取って、すぐにビリビリに破いて捨てた。ヒメコ様の対応を見るとよくあることなのであろう。


 さて、試合に戻ろう。


 沖田は、試合開始の鐘音と同時に野獣に襲いかかる。沖田の猛攻に野獣は怯んでしまい、広場の舞台から飛び降りた。


 野獣が舞台から降りたので野獣の場外負けである。なので沖田は刀を突き上げて勝利を宣言する。



 「トイレ休憩のため試合は中断します」



 審判が奇怪なことを言う。



 「トイレなら仕方がない」


 「そうだ、そうだ」



 エードの町の侍達は野獣を擁護するかのように叫んだ。


 エードの平民は侍達に逆らえないし審判の判定に文句も言えない。



 「野獣に尿意がなければ沖田様は勝てたのに・・・」



 もみじちゃんは審判の判定を素直に受け入れて悔しがっている。


 野獣は場外に逃げた後、トイレに行くふりをして一旦屋敷の中へ入ってから、広場の舞台に戻ってきた。



 「待たせたな沖田」



 野獣はカッコつけて言うがみっともない姿である。



 「次はもう逃げる手段はないぞ」



 沖田は審判が家康将軍の配下であるのはわかっているので文句は言わない。審判に抗議でもしたら、即退場となるのがわかっているからである。



 「お前の実力は把握できたわ。ついにこの眼帯を外す時がきたか・・・」



 野獣は眼帯を外し長年閉ざされた目を見開いた・・・



 「う・・・・太陽が眩しすぎて目が見えない」


 

 野獣は子供の頃から独眼竜正彦に憧れたいた。正彦のあのかっこいい眼帯をつけた姿を。なので、野獣は子供の頃からずっと右目に眼帯をつけて生活をしていた。


 そして、いつの頃からかある噂が流れるようになってきた。野獣が眼帯を外した時、本当の強さを発揮すると・・・しかし、それはただの噂であり真実ではなかった。野獣はただカッコいいから眼帯をつけていただけであり、力を封印していたわけではなかったのである。


 しかし、当の本人もなぜ眼帯をつけているのか忘れてしまい、嘘の噂を間に受けて眼帯を外せば、強くなれると信じていたのであった。


 野獣は、眼帯を外してまともに見えない右目を抑えて、オロオロしているところを、沖田に蹴り飛ばされて場外負けとなった。



 「魔の力に汚染されたのだろう」



 沖田は野獣がかわいそうに思えて、野獣をフォローする言葉を残して舞台から降りていった。


 沖田のフォローにより、野獣は封印した力が大きすぎて身を破滅したと審判から説明されたのであった。





 広場の屋敷の最上階から剣術大会を観戦している家康が問う。



 「野獣はなぜ負けたのだ」


 「闇の力に食われてしまったのです」



 佐々木大二郎が言った。佐々木は真剣にそう思っている。



 「どういうことだ」


 「野獣の右目には闇の力が注ぎ込まれていました。その力を封印するために眼帯をつけていたのです。その闇の力を解放しようとして眼帯を外したのですが、闇の力に飲み込まれてしまったみたいです」


 「そういうことか・・・武蔵に続いて野獣までもが一回戦で消えるとは想定外だ」


 「問題ありません。この佐々木大二郎が必ず優勝して見せます」


 「よしわかったぞ。お前の次の対戦相手は、簡単に勝てるようにルシスという子供にしといてやる。武蔵は腹痛で棄権となったから、お前は体調管理をしっかりとしておくのだぞ」


 「わかりました。手洗い・うがいはきちんとしておきます」



 第四試合は、西郷大盛のパワーある剣術を軽くあしらって巴午後が圧勝した。



 「続いて、第五試合を始めます」


 

 家康将軍の配下の者が出場していない組み合わせは、選手の紹介もなく、淡々と試合が始まってしまうわかりやすい演出である。



 「ロキさん、よろしくお願いします」


 「こちらこそ、お願いします」



 お互いきちんと礼をして開始の鐘の音を待つ。



 『カラン・カラン・カラン・カラン』



 鐘の音がなった。


 近藤男が両手で刀を構えて、ロキさんにじわりじわりと近づいてくる。


 ロキさんは、魔剣レーヴァティンを握りしめて近藤男の動きをじっと見ている。


 近藤男は腕が震えている。近藤男にはロキさんのスキのない構えに驚愕しているのである。



 「ロキさん・・・あなたは化け物ですか」


 「化け物とは女性に対して失礼ですわ」


 「申し訳ありません。しかし、あなたから感じるオーラは化け物という言葉以外は浮かんできません」


 「それなら褒め言葉して受け取りますわ。近藤さんがかかって来ないのなら、無理矢理にでも近づけてあげますわ」



 ロキさんは、レーヴァティンを振りかざす。すると、近藤男は瞬時にロキさんの目の前に引き込まれる。



 「これが内臓を助けた技ですわ」



 そう言うと、ロキさんは近藤男の腹部を突いて、一撃で気絶させたのであった。



 「勝負あり。勝者ロキ選手」


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