第174話 倭の国パート15



 観客達は何が起こったのか全く理解できていない。


 急に近藤男がロキさんの懐に移動して、ロキさんに腹部を剣の柄で突かれたのであった。


 近藤男も何が起こったのかわからないうちに気絶したのであった。


 審判はロキさんに勝ち名乗りをあげたが、どのように決着がついたのか全くわかっていないし、どちらが勝とうが興味すらないのであった。



 「あの剣は魔剣です」



 ヒメコ様がもみじちゃんに教える。



 「魔犬?負けん?漫研?」



 もみじちゃんの頭脳では解析不可能であった。



 「もみじ、魔剣です。神剣は神の力を宿した最強の剣ですが、その神剣を破壊することができる剣が魔剣です。魔剣は暗黒の力を宿しているので、人間が使いこなすのは不可能とも呼ばれる破滅の剣です」


 「そ・そ・そんなしゅごい剣を、ロキさんは使いこなせるのですね!!!」


 「そうみたいです。ロキさんはおそらく覚醒者なのであろう」


 「ふーーーん。そうなんだ」



 よくわかっていないもみじちゃんであったが、わかったような雰囲気を出して答えた。



 ロキさんがどうやって近藤男を倒したか説明しよう。


 ロキさんの魔剣レーヴァティンは間を切る能力が備わっている。間を切るとは、空間を切ると言うことである。


 ロキさんは、内臓を助ける時もロキさんと内臓の空間を切って、内臓を舞台から自分の元へ引き寄せた。近藤男との戦いの時も同じである。近藤男とロキさんの空間を切って、近藤男を自分の手元へ引き寄せて近藤男を倒してたのであった。


 ロキさんは近藤男を抱えて舞台を降りた。ロキさんの元に沖田が駆け寄ってくる。



 「何が起こったのですか」



 沖田にも何が起こったのか理解できていない。



 「間を切っただけです」


 「間を????よくわかりませんが、あなたが凄腕の剣豪だとは理解しました。近藤さんは無事なのですか?」


 「刀の柄で突いただけですので、すぐに意識を取り戻すでしょう。彼は素晴らしい方なので手を抜かずに戦いました。近藤さんの代わりに、私が家康の横暴を阻止してあげます」


 「ありがとうございます。しかし、近藤さんの意思は私が継ぎますの大丈夫です」



 そう言うと、沖田は近藤男を抱えてフレッシュ組の元へ戻って行った。



 「ロキお姉ちゃん、空間斬りを使ったのですね」


 「そうね。近藤さんに内臓を助けた時の技を見せてあげたかったのよ」


 「そうなんだ。近藤さんは理解できずに倒れちゃったね」


 「そうなのよ。近藤さんはとてもいい人だけど、やっぱり倭の国の侍のレベルは低いみたいね」



 第一回戦は全て終わった。私とロキさんは全ての選手を見て思ったことは、倭の国の侍の実力は低いと感じたのでる。


 神の子のような神の力を持つ者がいるかと少し警戒していたが、その心配の必要はなさそうであった。



 しばらく休憩をはさんで第二回戦が行われることになった。


 第二回戦の私の対戦相手は佐々木大二郎である。


 武蔵が棄権となった今、最も注目を集めているのが佐々木対沖田の試合である。私は武蔵の棄権で勝ち上がったラッキー少女と思われているので、2回戦ですぐに佐々木に負けると会場にいるほとんどの人が思っていた。もちろんその中にはもみじちゃんもいた。



 「ヒメコ様、ルシスさんの対戦者が佐々木になってしまったわ。次はどんなラッキーが降ってきても勝てそうにないわ」



 私はもみじちゃんに全く期待されていない。



 「もみじ、心配しなくても大丈夫です。ルシスさんは佐々木大二郎に負けることはありませんわ」


 「・・・・」



 もみじちゃんは、「絶対無理よ。佐々木大二郎に勝てるわけないわよ」と心に思うが、ヒメコ様に言い返すことはできなかった。



 「これより、剣術大会の第2回戦をおこないます。佐々木大二郎選手、ルシス選手、舞台に上がってください」



 佐々木が先に舞台に上がり私に向かって大口を吐く。



 「俺は、倭の国・・・いや。全世界で2番目に強い侍だ。俺に殺されることを光栄に思うんだな」


 「はい。光栄に思います」



 私は煽るように言い返した。



 「生意気なガキだな。武蔵が腹痛を起こさなければお前はズタズタに切り刻まれていただろう。だが安心しな、俺は優しいから首を刎ねてすぐに楽に殺してあげるからな」


 「ありがとうございます。綺麗に首を刎ねてください」



 またしても私は煽るように答えた。



 「口の減らないガキだな・・武蔵様の棄権で勝ったことを自分の実力だと思ったのか」



 佐々木の顔は怒りに満ちていた。小さい子供に煽られてかなり腹を立てているのだろう。



 「審判早く試合を始めろ。このガキに舐めた態度をとったことを後悔させてやる」


 「それでは、第2回戦の第1試合を始めます」



 試合開始の鐘が鳴る。


 鐘の音と同時に佐々木は私に刀を突き刺してきた。


 私は調理用ナイフで、佐々木の細長い刀をみじん切りして細かく砕いてあげた。


 今回はあっけなく倒さないで、じわりじわり倒してやろうと思ったのである。


 佐々木は目の前で刀を砕かれて顔を青ざめる。



 「佐々木様の刀が崩れ落ちている・・・」


 「刀の手入れを怠ったのかしら」



 観客達も刀が崩れ落ちて動揺はしているが、刀に何かトラブルがあったのだと思っている。



 「ヒメコ様、佐々木の刀が細切れになっています。佐々木はどんな技を使ったのかしら」



 もみじちゃんがあたふたしながらヒメコ様に聞く。



 「ルシスちゃんが細かく刻んだのです」


 「そんなわけないじゃないですか!ヒメコ様もご冗談がすぎますわ」



 もみじちゃんはキッパリと否定した。刀を細かく刻むなんてありえないことであるからである。


 佐々木は目の前で私が刀を切り刻むのを見ていたので、戦意を失ってガクガクと震え出した。


 近くでその現場を見ていた者がもう1人いる・・・それは審判である。しかし、審判は刀が斬り刻まれることを受け止めることはできず、何が起こったかわからずにポカーーンとしていた。


 その審判が佐々木の状態を見て、このままでは佐々木が負けるのでは思っていきなり試合を止めた。



 「佐々木選手の刀に異常を感じましたので試合を止めます」


 

 観客達は騒ついている。



 「刀に何かあったみたいだぜ」


 「そうみたいだな・・・」


 「刀が崩れ落ちたふうに見えたわ」


 「何が起こっているのだろう」



 審判が佐々木に駆け寄り事情を確認している。



 「佐々木様何があったのですか」


 「あいつは化け物だ・・・化け物だ・・・」


 「どういうことですか」


 「化け物だ・・俺はこのままでは殺される。棄権する。助けてくれ」


 「棄権はできません。家康将軍様よりもし何かあったら、佐々木様が勝つように采配しろと命令されています」


 「あんなのに勝てるわけがない・・・助けてくれ・・・」


 「わかりました。言ってる意味はよくわかりませんが、私が試合を終わらせましょう」



 審判は佐々木がなぜ私に怯えているのか全く理解できていない。しかし、このままでは佐々木が棄権してしまうのである秘策を思いついたみたいであった。



 「今回の試合はルシス選手に不正が発覚したので、佐々木選手の不戦勝とします。なので勝者佐々木選手です」


 「おーーーーーー」



 会場が歓喜に包まれる。


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