第98話 鬼の島パート6



 トールさんは攻めきれずにいた。炎神の炎の攻撃と素早い動きで、ハンマーの攻撃を防がれていた。


 しかし、炎神も同様であった。高熱の棍棒で攻めるが、トールさんのハンマーで弾き返されて、なかなかダメージを与えることができないでいた。



 「なかなかやるではないか」


 「お前もな」



 お互いに強がっているが、2人ともかなり体力を消耗していた。トールさんは、炎神の高熱の棍棒の熱ダメージで体力を消耗し、炎神はトールのハンマーを凌いでいるが、その圧倒的なパワーの前に両腕にダメージは蓄積されていた。



 お互いに息は乱れ、疲労は隠せずにいた。



 「決着をつけようじゃないか」


 「俺もそう思っていたぜ」



 お互いに体力の限界を感じて、全力を出し切ることにしたみたいだ。


 炎神は、両手で高熱の棍棒を強く握りしめる。全ての力を棍棒に注ぐことにしたのだろう。燃え盛る全身の炎は消え棍棒に全ての熱を吸収させる。


 トールさんも、魔力を込めてハンマーをさらに大きして、そして、魔力を均等に体に振り分けて、バランスを保つ。私の教えをきちんと習得し、魔力の偏りをせずにバランスをきちんと保った。



 「行くぜ」


 「こい」



 先にトールさんが動いた。風魔法で、勢いをつけて炎神に飛びかかる。


 炎神は、棍棒を強く握りしめたまま、身構えている。一撃に全てを賭けるみたいである。


 トールさんは、ハンマーを大きく振りかざし、炎神の頭上に振り落とす。


 炎神は、トールさんをハンマーごと棍棒で強く叩き潰す。



 「ガシャーーン」



 トールさんのハンマーは粉々に砕け散る。



 「やったぜ。これで終わりだな」



 炎神は、ハンマーごとトールさんを粉砕して勝利を確信する。



 「油断したな」



 トールさんは、ハンマーを叩きつけるふりをして、ハンマーを風魔法で放り投げていた。そして、その隙に炎神の背後に回っていた。炎神は、ハンマーが大きすぎてトールさんの姿を見失っていたのである。



 「くらえ、サンダーライトニング」


 

 トールさんは、電撃のパンチを、炎神のガラ空きの背中に打ち込む。



 「グェーーー」



 棍棒に、全ての魔力を注ぎ込んだ炎神は、防御力が低くなった為、サンダーライトニングを受けて、黒焦げになって倒れ込む。



 黒焦げになった炎神は、白目を剥いて起き上がることはなかった。




 「トール大丈夫ですか」


 「俺なら、大丈夫だ。風神は倒したのか」


 「倒しましたよ。これで、雷光石を探せるわね」


 「そうだな。この辺りに、フラッシュフライがいるはずだ。手分けして探そうぜ」




 一方、ルシスは・・・・



 「トロールさん、もう少し、力を強くしてらってもいいですよ」


 「あう」



 トロールにマッサージをしてもらっていた。私にマッサージをしているのは、トロールの子供で、体長は1mと小柄なので、私にはちょうど良かったのであった。



 「腰のあたりもお願いします」


 「あう」


 「私は肩をお願いするわ」



 もちろんクラちゃんも、マッサージを受けているのであった。



 「やっと三つ目の雷光石が手に入ったみたいだわ。一個だけ試食してみようかな」



 そういうと、クラちゃんは、雷光石を飴玉みたいに舐め出した。



 「舌がピリピリとして、程よい刺激がとてもいいですわ。そして、ピリピリと同時にくる柔らかい甘みが、口の中にほんわりと伝わって、とても美味しいですわ」



 クラちゃんが美味しそうに、雷光石を舐めている姿を見て、私も舐めてみたいと思ったが、血の池地獄の雷光石は、クラちゃんの物なので、私は味見する事は出来なさそうである。


 クラちゃんが5分ほど、雷光石を舐め終えると、ポッいと、甘みが消えた雷光石を捨てた。


 その雷光石は、黄色く輝いてとても綺麗である。これは、何か使えるのに間違いないだろう。



 「クラちゃん、その捨てた雷光石のかけらを、もらってもいいかしら」


 「ルシスちゃんは、こんなのが欲しいの?もう食べれないよ」


 「私は、黄色く光る雷光石が綺麗だから持って帰りたいの」


 「そうなの。いらないものだから、好きにしてもいいよ」


 「ありがとう。クラちゃん」



 私は、クラちゃんにお礼を言うと、雷光石をもらって収納ボックスにしまった。


 温泉でのんびりして、マッサージもしたのでロキさんのところへ戻ることにした。



 「クラちゃんは、これからどうするの」


 「もう少し、雷光石を持ってきてくれるのを待っていようかな。ルシスちゃんは仲間のところへ戻るのかな」


 「そうするつもりです。仲間のことも心配なので」


 「そうなんだ。久しぶりに、ルシスちゃんに会えて楽しかったよ。また一緒に遊ぼうね」


 「はい。私もクラちゃんに会えて楽しかったです」



 私は、クラちゃんと別れて、ロキさん達のところへ向かうことにした。またクラちゃんと会いたいけど、できたら、私たちと目的が被らないことを願うことにした。




 「ロイヤルオーガ様、大変です。この島に侵入者が、入り込んできました」



 ロイヤルオーガとは、この鬼の島を仕切る1番偉いオーガである。この鬼の島は、トロールキングとロイヤルオーガの2大魔獣が支配する島であり、トロールキングはロイヤルオーガに協力して、この鬼の島を他の種族から守っている。


 ロイヤルオーガは、知能も高いので、この島の王としてトロール達の協力のもと、島を管理しているのであった。



 「どうやってこの鬼の島へ入ってきたのだ?ジャイアントトロールがやられたのか」


 「いえ違います。1名は海を渡ってきたみたいです。そして、残りの3名は空からだと思います」


 「あり得ないだろ。海には、デスシャーク・ヘルオクトパスがいるはずだ。そして空の監視は、雷神が担っているはずだ。雷神からの連絡は来ていないぞ」


 「なぜ、海を渡れたのかわかりませんが、海からきた冒険者は、メガオーガを一撃で、空高く吹き飛ばし、トロールキングをボコボコにして配下にしてしまいました」


 「・・・・・」


 「そして、さっき入った情報によると3鬼神も冒険者に倒されました」


 「・・・・その冒険者は、鬼の島を征服しにきたのか」


 「いえ、雷光石を、とりにきたと言っていました」


 「雷光石は、この島の貴重な資源だ・・・・しかし、わざわざ、この島に来たのだから、好きに持って帰ってもらうと良い」


 「雷光石は、高値で売れるこの島の貴重な財源です。本当によろしいのでしょうか」


 「構わない。たまには良いであろう」


 「しかし、不正に侵入してきました。退治しなくて良いのですか」


 「もちろん、構わない。冒険者なのだから、冒険する権利があるはずだ。俺は寛大な王だ。何事も許してやろうではないか」


 「・・・・・」



 ロイヤルオーガは、めちゃくちゃビビっていた。あのトロールキングを配下にした冒険者に勝てる気がしないのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る