第43話 ブラカリの町パート7
「プルート伯爵様に、お会いしたい」
「これは、バトクラライ司教様。お急ぎでしょうか?」
「できれば、すぐにお伺いしたい」
「わかりました。すぐに連絡をとってまいりますので、応接室でお待ちください」
「わかった」
プルート・サミュエル・リッチモンド伯爵は、このブラカリの町の領主であり、聖魔教会の教皇でもある。プルート伯爵の屋敷はかなり質素な屋敷である。大きさも、他の町の貴族の屋敷よりも小さく、華やかさもない。初めて、この町に訪れる人は、ここが伯爵家の屋敷だと誰も信じないのである。
「待たせたな、じぃーじ」
「その呼び方は、おやめください。皆がマネをしますので」
「親しみがあって、良いではないか。じぃーじには、子供の頃から世話になっておるからな」
「プルート様がそういうのなら、好きに呼んでください」
「ところで、急用とは何かあったのか」
「はい。先程、教会の入信の儀式の出来事なのですが、10歳くらいの女の子がにぎりしめた石が、濁りのない綺麗な真っ黒の石になりました。しかも、その女の子は、どことなくリプロ様に似ています」
「それは、誠か」
「はい。間違いありません。私自身の目で確認してきました」
ブラカリの町は、魔王様を崇拝するようになり、100年を過ぎた頃から、魔王様の使いが来られるようになったのである。
ブラカリの町は、150年前の、あの出来事以来、国王指導の神守教会の教えを退き、また、いかなる嫌がらせにも屈せず魔王様の言葉を守り、種族間の争いを避け全ての種族が共存できる町作りに励んでいた。
その功績が認められ、魔界からの使者より、高度な魔石技術を習得することができたのである。しかし、その魔石技術は、あくまでも生活環境の改善に使われ、軍事目的の使用は禁止されている。
先日、ブラカリに訪れたのが、魔王様の血を引く、10歳の男の子であった。名前はリプロといい魔王様の銅像とそっくりの男の子であった。
「そうか、それで、本人は魔王様の娘だと名のったのか」
「いえ、何かしらの事情で、記憶がないとのことでした。それに、いい伝えによると、魔王様のツノは、黒く輝いているとなっています。リプロ様のツノも黒く輝いていました。でもあの女の子のは、白いツノでした。それに、あの子から感じる、魔石のオーラは、魔族の放つ、漆黒のオーラではなく、白く優しいオーラでした。魔族というよりも天使のような雰囲気です」
「私も、確認したいところだが、もし魔王様の血を引く者であったら失礼があっては困る。どうすれば良いかな」
「あまり詮索はしない方が、妥当だと思います。こちらからは動かない方が良いでしょう」
「そうだな。その子の好きなように、この町を楽しんでもらおう。それが、この町の領主としての役割だな」
「はい、それが1番だと思います」
私は、教会を出ると宿屋に戻った。宿屋に戻るとロキさんとポロンさんが、何か深刻な話しをしているみたいだ。
「ただいま」
「おかえり、ルシスちゃん。教会はどうだったかな?」
「すごく、楽しかったです」
「それなら良かったね。今から、トールのいる大食館に行くよ。そこで、少し大事な話しがあるの」
「はーい」
私たちは、大食館に向かった。
大食館に着くと、トールさんの居場所はすぐにわかった。一際お皿が山積みにされているテーブルが、トールさんの席に間違いない。
「トールお姉ちゃん」
私は、お皿が山積みにされているテーブルに向かって叫んだ。
「なんだ」
やっぱり、トールさんのテーブルに間違いなかった。
「トール、大事な話しがあるから席を移動しましょう」
「何かあったのか」
「そういうわけではないのですが、ここだと、周りがうるさいので、静かな個室に変えてもらいましょう」
「わかったぜ」
私たちは、席を移動させてもらって、奥の個室の部屋に入った。
「それで、どんな話しだ」
「私がお話しします」
すると、ポロンさんがなぜ?国を離れて、旅をすることになったのか話し始めた。
「そんなことがあったのか」
「はい、情け無いことですが、でもやっと、精霊神様の情報を手に入れましたわ」
「誰にでも、失敗はあるさ。しかし、ポロンが寝坊とは信じられないな」
「トール、余計な事は言わないの」
「いいじゃないか!それが理由で、お酒を飲まないようになったのか?」
「はい、そうです。精霊神様の加護を受けるまでは、お酒は飲まないと決めたのですわ」
「精霊神は、ドワーフの国にいるんだな。この依頼が終わったら、次はドワーフの国に行くか?」
「そうしましょう」
「ありがとうございます」
「それで、もし精霊神の加護を受けたら今後はどうする?」
「今はまだ、冒険を続けて行こうと思っていますわ、でも、一度国へ戻って報告はしたいと思っていますわ」
「よし、ドワーフの国の次は、エルフの国だな。それにしてもポロンが王女様だったのか・・・」
ポロンさんが、エルフの王女様だったのはびっくりしたが、これで、今後の冒険のプランが決まった。王都への護衛が終わったら、Cランク冒険者の認定を受け、そして、ドワーフの国へ向かって、精霊神を探す。楽しい冒険になりそうだ。
「プルート伯爵様、何かあったのですか」
「いや、大した事はない。それで、そのルシスという子の情報が、知りたいとの事だな」
プルート伯爵は応接室を出ると、2階にある、小さな客間に戻った。
その客間には、アメリアとオリビアがいた。
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