第428話 スカンディナビア帝国編 パート16


 ⭐️場面はスカンディナビア城の謁見の間になります




 「玉座はとても気持ちが良いな」



 ヴァリはクーデターを成功させて謁見の間の玉座に座って、嬉しそうに玉座をゆりかごのように揺らして子供のようにはしゃいでいる。



 「兄上とても玉座が似合っています。」



 ヴァリの弟であり元アーサソール家の執事であるヘルブリンディは、アーサソール王を裏切ってヴァリのクーデターに協力したのである。



 「お前にもいい身分を用意してやろう」


 「ありがとうございます」


 「俺の戴冠式の手筈はどうなっている」


 「準備は滞りなく進んでいます。国民達の動揺もほとんどなく、誰も邪魔するものはいないと思います」



 スカンディナビア帝国の国民はクーデターが起こったことにそれほど違和感を感じていない。それは、アーサソール家とヴェナヘイム家の特赦な関係を知っていたからである。なので、スカンディナビア帝国はいつもと変わらなり雰囲気であった。


 しかし、それは一般市民だけである。今までアーサソール家に取り入っていた貴族達は、自分たちの処遇がどうなるか心配しているのである。そのため、謁見の間にはヴァリのご機嫌を取るために貴族達が長蛇の列作っているのである。



 「しかし、俺を今まで使用人としてバカにしていた貴族達が、頭を下げて這いつくばる姿を見るのはとても愉快だな。ガハハハハ」



 ヴァリは大きく足を開いて、玉座に背中を押しつけ両腕を左右にダランとぶら下げて、うっすらっと笑みを浮かべながら、挨拶にくる貴族たちを見下していた。



 「次は誰が待っているのだ」


 「次は、スカンディナビア帝国の南部一帯を治めるエティショーン侯爵です」


 「あいつはドンナーとかなり親しい関係だったはずだ。後ろ盾を失ってかなり切羽詰まっているはずだ。あいつとの謁見は断っておけ」


 「わかりました」




 「待ってください。私にもヴィリ王に合わせてください」


 「ヴァリ王は、あなたとは話すことはないと言っています。なので、すぐにこの城から出て行ってください」


 「ヴァリ王!お願いです。私の言い分も聞いてください。私はドンナーに良いように利用されていたのです。私はずっとヴァナヘイム家の復興を願っていました。なので、クーデターが成功して私はとても喜んでいるのです。どうか、私に戴冠式の援助をさせてもらえないでしょうか?私はヴァリ王のためならなんでもするつもりです」



 エティショーン侯爵は、周りの目も気にせずに大声で嘆願する。



 「ふっ・・入れてやれ!」



 ヴァリは、思惑通りにエティショーン侯爵の慌てふためいている様を見て、嬉しそうな顔してエティショーン侯爵を謁見の間に入る許可を与えた。



 「ありがとうございます」



 エティショーン公爵は、謁見の間に入るや否や、すぐに頭を床に擦り付けてお礼の言葉を述べる。



 「スカンディナビア帝国の2大貴族のエティショーン公爵様が、使用人だった私に頭を下げる必要はありませんよ」



 玉座にふんぞり返って座っているヴァリは、言葉の口調は下手に出ているが、立場の違いをわからせるために嫌味を言うのである。



 「滅相もありません。私など一介の貴族に過ぎません。私はヴァリ王のために全てを捧げる覚悟でここに来たのです」



 エティショーン侯爵は、屈強な軍隊を組織する武闘派の貴族であり、アーサソール王からはスカンディナビア帝国を守る役割として、かなりの軍事費を優遇してもらっていた。それは、隣国である巨人族の住むガリヴァー国が、もしも攻めてきた時のための砦の役割になってもらうためにであった。


 しかし、クーデターが発生した時、巨人族相手にエティショーン家の騎士団は呆気なく壊滅させられ、巨人族の侵攻を食い止めることはできず、スカンディナビア城は簡単に陥落したのである。力の違いを見せつけれらたエティショーンは、ヴァリにすがるしかないのであった。



 「お前のその真摯な態度に免じて、今までのお前の行いを許してやろう。そして、お前に俺の戴冠式の費用を出す名誉ある権利を与えてやろう」


 「ありがとうございます。喜んで費用を用意いたします。もしよろしければ、その戴冠式の責任者を任せてもらえないでしょうか?」



 エティショーン侯爵は、ヴァリ王政権でも国民達に存在感を見せつけたいのである。



 「調子に乗るな!ヴァリ王の戴冠式の責任者は俺だぞ!」



 ヘルブリンディは、顔を真っ赤にして怒りをあらわにした。ヘルブリンディもヴァリ王の側近として、国民達に存在感をアピールしたいのである。



 「落ち着けヘルブリンディ。しかし、エティショーン伯爵の申し出を受けても構わないと思っている。しかし・・・」



 ヴァリを言葉を濁して、頭を抱えて考えるふりをする。



 「ヴァリ王の望む物はすべて私が用意いたします。もちろん美しい女性も用意します」


 「ヒヒヒヒ・・・よくわかっているではないか」


 「ヴァリ様の為ならなんでも致します」


 「よし。お前を戴冠式の責任者に任命する。もう、時間も少ないがヘルブリンディと協力して盛大な戴冠式にしてくれ」


 「わかりました」



エティショーン侯爵は笑みを浮かべながら謁見の間から出ていった。



 「あいつに任せてもよかったのですか?」


 「問題ない。エティショーン家をうまく利用した方が、スムーズに国の統治ができるだろう」


 「確かにそうでございます。ほとんどの貴族がヴァリ王に忠誠を尽くしましたが、バドロット家だけが謁見に訪れていません」


 「バドロット家かぁ・・・アーサソール家を根絶やしにするためにもバドロット家は今すぐに潰してやるか」



 スカンディナビア帝国で力を持つ2大貴族のもう一つがバドロット家である。バドロット家は北の辺境にあるあれ荒れ果てた大地を支配している。しかし、なぜ?そんな辺境の地を支配しているバドロット家が大きな力を持っているかというと、それは、エルフの国アルフヘイム妖王国と直接同盟を結んだのが、カレン・バドロット辺境伯夫人だからである。


 巨人族とは有効な関係を築いているスカンディナビア帝国だが、南を巨人族の国ガリヴァー国、北をエルフの国アルフヘイム妖王国と異種族の国に挟まれているので、いつ争いが起こるかわからない。しかし、アルフヘイム妖王国と同盟を結んだことにより、北の大地の安全は確保されたのである。しかも、カレンはアーサソール王の姉であり、辺境の地に追いやられたのだが、カレンがエルフと同盟を結んだことにより、アーサソール王は手出しができなくなったのであった。




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