第272話 ホロスコープ星国 パート49


 「ヴァルゴが目を覚ましたみたいだぜ」



 レオが、ヴァルゴの目が開いたのを確認した。



 「あんな不細工な馬より私は劣っているの・・・」



 ヴァルゴはかなり引きずっているみたいである。



 「人の価値観なんて様々なものだ」



 レオは、ヴァルゴを慰める。



 「私が1番美しいと思っていたのに・・・」



 ヴァルゴは、なかなか立ち直れそうにない。



 「お前など、見た目の美しさ以外に、いいところは何もないからな!」



 慰めていたはずのレオが、次はヴァルゴにトドメを刺すような暴言を吐いた。



 「見た目が全てよ。みんな美しいモノが好きなのよ」



 ヴァルゴは開き直った。



 「だからお前は王にはなれないのだ。フェニ王を見てみろ。あの気品あるお顔立ち、純粋で汚れなき瞳、何事にも揺るがない強い意志、そして、絶大なる力の持ち主、まさしく王の器である」



 レオは私をベタ褒めするが、ヴァルゴは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。


 それもそのはずである。私はヴァルゴが気を失っている間、お腹が減ったので、収納ボックスがパンを取り出して、パクパクと大きな口を開けて、ニヤけた顔をしながら食べている。その姿に全く気品も何も感じないのであった。感じるのは、食いしん坊丸出しのだらしない姿だけであった。


 

 「あなたたちの価値観は、全くわからないわ」



 ヴァルゴは素直に言った。



 「お前もいずれフェニ王の素晴らしさに気付くだろう」



 レオは確信を持って言い放った。



 「・・・」



 ヴァルゴには、レオの私への熱い思いは全く理解できないのであった。



 「ヴァルゴ、お前の『魅惑』は俺達に通用しない。お前が俺達に勝つのは不可能だぜ」



 キャンサーがヴァルゴを睨みつける。



 「わかっているわ。私1人で『星の使徒』を4人も相手にできるわけないわよ」



 ヴァルゴも理解している。今自分の立場かなり悪いことに!



 「俺達に協力する気はないのか?」



 キャンサーは、ヴァルゴを説得する。



 「そうね・・・あなた方が崇拝するその女の子に興味を持ったわ。その子が本当に王に相応しいか、一緒に行動して、調べたみたいわ。だから協力してあげてもいいわよ」



 ヴァルゴは協力を承諾したのであった。



 「これで準備は整ったわけだな」



 レオは、ワラキアに言った。



 「はい、そうです。あとは、王都に攻め込んでジェミ王を撃つのみです」



 ワラキアは期待に胸を膨らまして、嬉しそうに言った。



 「ジェミを倒す前に、この町の囚人を解放しようぜ」



 キャンサーが提案した。



 「解放しなくても大丈夫よ。囚人達は、私の『魅惑』の力で喜んで、仕事をしているわ。私のために働くことを生きがいにして生活をしているのよ。ジェミ王を倒してから、解放した方が混乱は少ないわよ」



 ヴァルゴの言っていることも正しい。今、囚人達を解放しても、混乱するだけである。それなら、きちんと革命が終わって、平和な国になってから、囚人達を解放しても遅くはないのである。



 「ヴァルゴの案を採用する」



 レオは、ヴァルゴの案が好ましいと判断した。



 「明日、王都に攻め込もう」



 ワラキアが、みんなに言った。



 「わかった。異論はない」


 

 レオが静かに言った。



 「明日の作戦を説明します」



 ワラキアが、思い描いている作戦の説明を始める。



 「王都シリウスの門は、日の登っている間は、アリエルが監視しています。しかし、夜になるとヴァンピー様が監視していますので、夜になれば、容易く侵入することができるでしょう。なので、夜に王都シリウスに侵入します。そして、一旦ヴァンピー様の屋敷で睡眠をとってから、早朝にシリウス城に攻め込みましょう。早朝なら、市民たちに与える影響は少ないと思います」



 「アリエルごときなら、俺が一撃倒せるぞ」



 レオは、自慢の腕力を見せるように腕を見せつけながら言う。



 「少しでも混乱を避けたいのです。なので正面突破はしたくないのです」



 ワラキアはレオを説得する。



 「それなら仕方ない」



 レオは諦めた。



 「朝になったら、ヴァルゴ様の『魅惑』でシリウス城の兵士たちの魅了します。あくまで、この『魅惑』は、兵士を味方にして戦闘に参加させるのではなく、戦闘に参加させないことが目的です」


 「わかったわ。兵士に争いに参加させないようするわ」


 「お願いします。城の兵士たちの魅了が終わったら、城に入って、ジェミニ王のいる王の間に攻め込みましょう。相手は軍団長のカプリコーンとジェミニ王だけです。そして、アリエルが邪魔しないように、サジタリウスさんとピスケスさんには、アリエルの監視をお願いします」


 「わかったぜ。アリエルのことは俺達に任せてくれ」



 サジタリウスとピスケスが元気な声で言った。



 「何か質問はありますか」



 ワラキアは質疑応答を開始した。



 「まず、王都に着いたら、美味しいパン屋さんに行きたいですぅ」



 最初に発言したのは私だった。私は王都で1番美味しいパン屋さんに行きたいのである。



 「何か質問はありますか?」



 ワラキアは、私の質問を無視した。



 「すぐにパン屋さんに行きたいですぅ〜」



 私も負けていない。ワラキアに無視に対して、私は大声で対抗したのであった。



 「シリウス城に乗り込む前に、パン屋さんに行くべきではないか!」



 私の熱意に負けたレオが、私の仲間に加わった。



 「私もパン屋さんに寄ることは賛成よ」



 王都からパン屋さんの職人を連れてくるように、駄々をこねていたヴァルゴも、本当はパン屋に行きたいのであった。



 「俺もフェニ王の胃袋を満たしてから、シリウス城に攻め込むのが最適だと思うぜ」



 キャンサーも私の意見に賛同した。



 「わかりました。シリウス城に攻め込む前にパン屋さんに行きましょう」


 

 ワラキアは渋々了承したが、早朝にシリウス城に攻め込む予定が、パン屋さんに行くことになったので、大幅に時間が遅れることになったのであった。


 いきなり作戦時間の変更を余儀なくされたワラキアは、不安を隠せないのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る