第155話 妖精王パート25

 


  食欲の3魔王はあっという間に雑炊を食べてしまった。



 「おかわりよ」


 「おかわりだぜ」


 「おかわりですわ」



 客人なのにあつかましい3人である。村長の家族はもう一つの鍋を渋々渡す。



 「わーい、わーい。追加の雑炊なのよ」


 「ありがたいぜ」


 「感謝しますわ」



 食欲の3魔王は追加の雑炊に大喜びをする。


 ロキさんは村長の家族に深くお詫びをするが、村長の家族はヒュドラ、八岐大蛇を倒してくれたお礼なので気にすることはないと言ってくれた。しかし、食欲の3魔王の胃袋はこれだけで満足するはずがない。



 「おかわりよ」


 「おかわりを頼むぜ」


 「おかわりをお願いするわ」



 村長の家族はもう雑炊はできないので困り果てている。



 「ゴツン」


 「ゴツン」


 「ゴツン」



 ロキさんが食欲の3魔王の頭にゲンコツをくらわす。


 

 「いい加減にしなさい。もう十分食べたでしょ。これくらいにしときなさい」



 食欲の3魔王はロキさんに怒られてシュンとする。


 私はあることに気づいた。ポロンさんの手元に金色に輝く剣があることに。



 「ポロンお姉ちゃん、その金色の剣はどうしたのですか?」


 「これは虹蛇の体内で拾ったのですわ」


 「その剣は草薙の剣ではないのですか!」



 剣に気づいたミコトさんが思わずに叫んだ。



 「確かあの大蛇もそんなことを言ってたかしら」



 ポロンさんは草薙の剣の話しはもちろん忘れていた。



 「これで試練は達成だわ。封印したオロチにいくら聞いても、草薙の剣のありかを言わないから困っていたのよ」


 

 ロキさんだけはちゃんと今回の試練の内容を把握していた。



 「トール、オーベロン王の元へ戻るわよ」


 「えーーー!今日はここでゆっくりとしていこうぜ」


 「そうですわ。まだ雑炊が食べたいですわ」


 「雑炊・・・まだあるのかしら?あるのならさっさと私によこすのよ!」



 トールさんの意見はもっともである。もう時間も遅いので村長には悪いが今日はここに泊めてもらうのが妥当だと私も思った。それにお米の話しを村長に確認したいと私は考えていた。



 「ロキさん、今日はオロチ祭りです。ヒュドラの脅威もさり虹蛇も退治されました。祭りの本番は夜なので、皆さんで楽しんでください。雑炊の追加は難しいですが、祭りではいろんな出店が出るので食事は楽しめると思います」



 村長が私たちを引き止めてくれた。



 「祭りを楽しもうぜ」


 「そうですわ」


 「出店の食事?気になりますわ」


 「ロキお姉ちゃん、今日はゆっくりとこの村で過ごしましょう」


 「わかったわ」



 ロキさんも了承して村に滞在することになった。そしてトールさん達は出店の食事を堪能して、私は村長に米の入手先を確認したのである。





 次の日、私たちはオーベロンの元へ向かった。


 ダンドーク山に着くと、そこには金色の長い髪をした美しい女性が立っていた。



 「サラマンダー、適当なことを言ってくれましたね」



 美しい女性を見たサラちゃんは、額から大粒の汗が流れ落ちていく。



 「なんのことかしら。オホホホ・・」



 明らかにサラちゃんがとぼけていることはすぐにわかった。



 「オーベロン王のことよ。私が、オーベロン王と浮気したとティターニアに言ったでしょ」


 「記憶にございませんわ」



 私は覚えている。サラちゃんは確かにそう言っていた。それなら、この女性が水の精霊神のウンディーネなのであろう。



 「とぼけないでよ。あなたのでまかせの話のせいで、昨日はずっとティターニアから説教をくらったのよ。私はオーベロン王に言い寄られていただけで、あんなクソジジイなんて全く興味がないのよ」


 「ティターニアが勘違いしただけよ。私がウンチャンのことを悪く言うと思うの」


 「だから、その呼び方はやめて欲しいと何度も言ったわよね」


 「ウンディーネだから、ウンチャンと呼んで何がいけないのよ」


 「ウンチャンは、なんかイメージが良くないから、ディーチャンにしてと何度も言ったわよね」


 「ディーチャンより、ウンチャンのが可愛いと思ったのよ」


 「全然可愛くないわ」



 サラちゃんとウンディーネの話しの論点がどんどんずれていく。



 「ウンディーネ、サラマンダー、その辺にしときなさい。悪いのはオーべロンなのよ」



 ティターニアが妖精の扉から出てきた。



 「オーベロンの今回の浮気相手はわかったわ。リャナンシーだったのよ」



 リャナンシーとは、若くて美しい女性の姿をした妖精である。リャナンシーには妖精の恋人妖精の愛人と言う意味も持つのである。



 「私の思った通りだわ」



 根拠もなくサラちゃんが自慢げに言う。



 「リャナンシーにも困ったものだわ」



 ウンディーネが愚痴りながら言う。



 「オーベロンは罰として当分は外出禁止にしたわ。ウンチャン、疑ってごめんね」


 「だからその呼び方はやめてよぉ〜」



 ウンディーネは頬を膨らませて怒る。



 「ウンチャン、怒ると美容に悪いわよ」



 サラちゃんがかぶせるようにウンチャンと呼ぶ。



 「もう、本当にやめてよぉ〜」


 「あのーーー、話しをしているところ悪いのですが、オーベロン王に会いたいのですが?」



 ロキさんが話しが進まないので、話しを遮るようにティターニアに声をかける。



 「覚醒の件ね。それなら試練の成果を見せてくれるかしら」



 私たちは封印した八岐大蛇と草薙の剣を渡した。



 「完璧ね。2度と八岐大蛇が悪さをしないように、八岐大蛇は私が管理しとくわ」


 「これで覚醒してもらえるのですか」


 「もちろんよ。今からオーベロンのいる妖精の神殿に行きましょう」



  私たちは妖精の扉を通って妖精の神殿へ向かった。しかしサラちゃんが妖精の扉に入ろうとした時!



 『ゴツン』



 「痛いわよ。なんで私だけ、入れないのよーー」



 サラちゃんとオーベロン王の和解はまだ成立していないのであった。

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