第290話 ホロスコープ星国 ルシス編 パート2


 私は、ゲリをみんなに紹介することにした。もちろん神獣であること内緒である。


 

 「私の故郷の友達のゲリちゃんです。お姉ちゃんが行方不明になったので、お姉ちゃんを探しているそうです」


 「なんてこったい!」



 トールさんが困惑した顔をする。



 「お姉さんが無事だといいね」



 ロキさんが優しく声をかける。



 「一緒に探してあげましょうよ」



 ポロンさんは、困っている子がいると、力を貸してあげたいのである。



 「ありがとうございます」



 ゲリは、一緒にさがしてくれると優しく声をかけてもらって、とても喜んでいた。そして、喜びを表現するように、ポロンさんに抱きついたのであった。



 「ギャーーーー」



 ポロンさんが死を察知したかのような叫び声を上げた。



 「ゲリちゃん、力を抜いて!」



 ポロンさんを激しく抱きしめるゲリに向かって、私はすぐに声をかけた。



 「あ・・・またやってしまっただぁ」



 ゲリはしょんぼりとした。


 ゲリの抱きしめは、プロレスの技のベアハッグみたいなものであり、少しでも力の加減を間違えると背骨が折れてしまうのである。



 「気・・気に・・しなくても・・・いいわ」



 ポロンさんは、涙を流しながらゲリを許した。



 「ごめんさい」



 ゲリはとても反省しているが、力の制御ができないのである。



 「ゲリちゃん、お姉ちゃんがどこへ行ったのか心当たりがあるの?」



 ロキさんは、ゲリがしょんぼりとしているので、ベアハッグの件を遠ざけるように話題を変えた。



 「ロキお姉ちゃん、ゲリちゃんのお姉ちゃんは、南の森の方へ行ったみたいです」



 ゲリがしょんぼりとしているので、私が代わりに答えてあげた。



 「そうなのね。それなら、私たちと目的地は一緒ね。ゲリちゃん、一緒に南の森を探索しましょうよ」



 ロキさんは、ゲリに優しく声をかける。



 「いいのですかぁ」



 さっきまでしょんぼりしていたゲリが嬉しそうな顔をする。



 「もちろんよ」



 ロキさんはニッコリ笑う。



 「ありがとうございます」



 ゲリは嬉しさのあまりロキさんに飛びついて抱きしめる。


 ロキさんは、さらりと避ける。



 「ギャーーーーー」



 トールさんの悲鳴が轟いた。





 「ルシス、ゲリにむやみに抱きつくなと注意しとけ」



 トールさんは背中の痛みがまだ治らない。


 ゲリはまたベアハッグをしてしまって、しょんぼりと歩いているのであった。


 トールさんも、ゲリに悪気がないのはわかっているので、怒ることもできない。なので、私に注意するように促すのである。



 「私はダメな子だぁ」


 「気にしなくていいのよ。誰にでも失敗はあるわよ」



 ロキさんが、ゲリを優しく慰める。



 「ロキお姉ちゃんは優しいのだぁ」



 ゲリがニコリと笑う。


 私たちはゲリと一緒に南の森へ入って、森の中を探索している。



 「少しおかしくないか?」



 トールさんが異変に気づく。



 「そうね。さっきから全く魔獣だ出てきませんわ」


 

 南の森に入って30分は経過している。なのに、全く魔獣が出てこないのであった。以前に南の森に来たときは、すぐにブラックウルフが襲ってきたはずなのに・・・



 「魔獣の魔力を全く感じません」



 私は、魔力を探知したが、辺りからは全く魔力を感じないのであった。



 「『ホロスコープ星国』が、南の森を支配下に置いたと言う噂は、本当なのかもしれないわ」



 『ホロスコープ星国』が魔獣を退治して、南の森を支配下においたとロキさんは推察した。



 「南の森の魔獣を全て倒すなんて、どんな奴らなんだ?」



 トールさんは、少しワクワクしてきた。トールさんは強敵相手に、ミョルニルを使いたいのである。



 「人間の気配を感じます」



 私は100m先に3人の人間をいるのを察知した。



 「どうするのよ?」



 ポロンさんは、オロオロしている。



 「多分・・・『ホロスコープ星国』の兵士に違いないわ。私たちの任務は南の森の現状の把握よ。兵士と遭遇するのは危険よ」



 ロキさんは、『ホロスコープ星国』の兵士と戦闘になるのを避けたいのであった。



 「でも、このままだと情報不足だと思わないか?」



 トールさんの意見ももっともである。南の森に魔獣が存在しないのは確認できた。そして、南の森に人間がいることもわかった。しかし、その人間が何者なのかわからない。もしかしたら、ただの冒険者かもしれないのである。



 「それもそうね・・・」



 ロキさんは考え込む。



 「森を進むのだー」



 私たちが、話し込んでいるうちに、ゲリは1人でテクテクと森の中を進んでいく。



 「ゲリちゃんがいないです」


 

 私がいち早くゲリがいないことに気づいた。



 「兵士に見つかったら危険だわ」



 ロキさんが心配する。



 「あの怪力娘なら問題ないだろうぜ」



 トールさんは身を挺してゲリの力を体験している。



 「何を言っているのよ!ゲリちゃんはまだ子供なのよ」



 ロキさんがトールさんを怒鳴りつける。



 「子供なのに大魔王のように強いのがここにいるぜ」



 トールさんが私の方を見る。



 『ニタニタ』



 大魔王と言われて嬉しそうにしてる私がいる。



 「ルシスちゃんは別格よ。こんな子が何人もいたら、世の中大変な事になるわよ」



 しかし、いるのであった。神獣のゲリは私より弱いが、人界でゲリに勝てるモノは、ほとんどいないのである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る