第300話 ホロスコープ星国 ルシス編 パート12


 ⭐️ルシス視点に戻ります



 「ルシスちゃん、看板があるのだぁ」



 私はゲリに乗って、一本道を快走していた。しかし、二手に分かれる道に出くわしたのである。そして、二手に分かれる道には看板が建てられていた。



『西へ行くとハダルの町。東へ行くとカペラの町』



 と表示されていた。



 「悪人顔の人は、カペラの町へ行くと良いと言っていたのだぁ」



 確かに、ジェミニはカペラの町で情報を集めると良いとゲリに言っていた。



 「それなら、ハダルの町へ行くよ!」



 私はジェミニの話を信用しないのである。



 「わかったのだぁ!」



 ゲリも悪人顔より私の方を信じるのである。


 ゲリは快調に飛ばして、数時間後にはハダルの町へ辿り着いた。



 「ゲリちゃんは身分証は持っているの?」


 「身分証???」



 ゲリは天界に住む神獣である。身分証など持っていないのである。



 「身分証とは、町に入る時にどのような人物か証明するモノです。私は冒険者証を持っているので、問題はないけど、ゲリちゃんはどうする?」


 「困ったのだぁ・・・」



 ゲリは頭を抱える。



 「そうなのだぁ!」



 ゲリは名案が浮かんでみたいである。



 「ゲリちゃん・・・何かいい考えが浮かんだの?」



 実は、私も名案は浮かんでいた。しかし、ゲリの案を聞いてみることにした。



 「私は、小さな狼に変身することができるのだぁ。小さくなって、ルシスちゃんのペットとして町へ入るのだぁ!」


 「それはいい考えだよ」



 私の考えていた案よりも良い案だと思った。私の考えていた案は、ゲリを空に投げ飛ばして、上空から侵入する作戦であった。



 「小さくなるのだぁ」



 ゲリはみるみる小さくなっていく。



 「ガォーー」



 ゲリは子犬サイズの大きさになって、力強く吠えた。



 「可愛いぃぃぃーー」



 私は小動物は大好きである。キュンウサギを見た時もいち早く抱きついたのは私である。


 私は、ゲリを抱きしめて、ホッコリとしている。



 「ルシスちゃん、苦しいのだぁ」



 私は、あまりにも可愛いので、潰れるくらい強く抱きしめたのである。



 「モフモフ最高です」



 久しぶりの可愛いモフモフを私は堪能している。



 「ルシスちゃん、ルシスちゃん」



 ゲリは助けを求めるように叫んだ。



 「デヘヘヘへ、デヘヘヘへ」


 

 私のモフモフ魂がゲリの叫びを遮るのである。



 「お嬢さん・・・何をしているのですか」



 門の周辺で、怪しい動きをしている私に気付いた門兵が、私に声をかけてきた。



 「デヘヘヘへ、デヘヘヘへ」



 門兵の声くらいでは、私のモフモフ魂を遮ることはできない。



 「どうする」



 門兵たちが相談している。



 「何か悪い魔法でもかけられているのだろか?」


 「いや、何か悲しいことがあったので、現実逃避しているのでは?」


 「『ホロスコープ星国』は平和になったのに、まだ何か良く無い事が起こっているのか?」



 門兵たちは考え込む。



 「とりあえず、ドラキュン様に報告しよう」


 「そうだな」



 門兵は、急いでドラキュンの屋敷に向かった。



 「デヘヘヘ・デヘヘヘ」


 

 私はゲリを抱きしめて、気持ちよさそうに、満面の笑みを浮かべているのであった。



 


 「ドラキュン様こちらです」



 数分後、門兵はドラキュンを連れて戻ってきた。



 「あの女の子が、子犬を抱いたまま、不穏な動きをしているのです」



 私はゲリを抱きしめて、地面をゴロゴロと転がっている。



 「可愛い亜人の女の子ね・・・将来は私のライバルになるかもしれないわ」



 ドラキュンは、自分が世界で1番美しい女性だと勘違いしている少し変わったヴァンパイヤである。



 「そんなことよりも、女の子をどうしますか」


 「そんなことよりもとは、どういうことなのよ!」



 ドラキュンにとって美しさは1番大事なことである。



 「ドラキュン様よりも美しい者など存在しません。なので、そんなことよりも、女の子をどうするのかと、尋ねたのです」



 門兵は苦しい言い訳をした。



 「そういうことなのね。ごめんね勘違いしちゃったわ」



 門兵はホッとした。



 「あーーー。可愛い子犬を抱いているわ」



 ドラキュンはゲリの存在に気付いたのである。そして、なぜ私が怪しげな行動をしているのか理解した。



 「あの子がおかしくなったのは、あの可愛い子犬のせいだわ」


 「どういうことですか?」


 

 門兵は理解できない。



 「可愛い子犬を前にすると、乙女はあんな風に子犬と戯れ会いたくなるのよ」



 ドラキュンはズバリと私の行動を言い当てたのである。



 「そうなのですか・・・」



 門兵はあまり納得はしていない。



 「あの子犬を取り上げたら、あの子は正気に戻るわよ」


 「わかりました。私が子犬を取り上げてきます」



 門兵は私に近づいて、ゲリを取り上げようとした。



 「邪魔をしないでください!」



 私は、殺気を感じたので、門兵を睨みつけて威嚇した。



 「申し訳ありませんでした」



 私の鋭い眼光に恐れをなした門兵は、土下座をして謝った。



 「デヘヘヘ・デヘヘヘ」



 危機がさったので、また私のモフモフライフが再開した。



 「何をビビっているのよ」


 「殺されると思いました。私にあの子の邪魔をすることはできません」



 門兵はガクガクと震えながら言った。



 「私が行ってくるわ」



 ドラキュンは、門兵には任せることができないと判断して、代わりに私の側に来た。



 「可愛い子犬ね。私にも抱かせてもらえるかしら」



 ドラキュンは、門兵と違って優しく声をかける。



 「可愛いでしょう」



 私は満面の笑みで答えた。



 「確かに可愛い子犬ね。でも、私のがもっと可愛いわよ」



 ドラキュンは目的を忘れて、可愛さで張り合うのである。



 「ゲリちゃんのが可愛いです」



 私も負けるわけにはいかないのである。



 「私よ」


 「ゲリちゃんです」


 「私よ」


 「ゲリちゃんです」



 「うるさいのだぁ」



 ゲリは、耳元で言い争っているのがうるさくて、人型に戻ったのである。



 「えっ・・・子犬じゃなかったのね!」



 ドラキュンは驚いている。



 「あっ・・・やってしまいました」



 私はモフモフ魂に負けて我を失ってしまった。そして、ゲリをこっそり連れて入る計画が失敗して、後悔しているのであった。


 



 

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