第190話 倭の国パート31



 「おい!なんだあれは」


 「米俵の化け物が現れたぞ」


 「いや、よく見ろよ!女の子が1人で米俵を運んでいるぞ」



 米俵の化け物の正体はサラちゃんであった。サラちゃんは1人で20表の米俵を軽々と運んで宿屋に戻ってきたのである。サラちゃんは宿屋の前に米俵を置いて宿屋に入っていった。



 「みんなまだ戻ってないのね」


 

 サラちゃんはそう言うと横になって眠りについた。



 「ポロン、宿屋に戻ろうぜ」


 「そうですね。まだ、お腹がパンパンで動くのも辛いからゆっくりと休みたいわ」


 「剣術大会の応援には行かないのですか?」



 かえでちゃんが心配そうに言う。



 「興味ないわー」


 「どうでもいいですわ」



 トールさん達は素直に言った。



 「でも、名だたる剣豪が剣術大会に出ています。ロキさんは、もしかしたら試合中に殺されるかもしれません。宿屋に戻っている場合ではないと思います」



 かえでちゃんは真剣な表情で言う。



 「問題ないぜ。ロキが負けるわけがないぜ。それに、何かあればルシスがいるから心配する必要はないのだぜ」


 「そうですわ。それに今の私たちが行っても何もできませんわ」



 タプンタプンのお腹を叩きながらポロンさんは言った。


 かえでちゃんも、タプンタプンのお腹を見てその通りだと悟った。



 「それなら、宿屋までご案内します」



 トールさん達は、かえでちゃんに連れられて宿屋に戻った。




 「私達は宿屋に戻ります」



 ロキさんがヒメコ様に言う。



 「今回はご協力していただいてありがとうございます。何かお礼をしたいのですが、何か欲しい物でもあるのでしょうか?」


 「お米が欲しいです」



 私はロキさんが考えるより先に言ってしまった。


 私が倭の国へ来たのはお米の調達である。エードの町を歩いていたときにも、お米が売っていないか探してはいたが、全く見つからなかったのであった。



 「お米ですか・・・・」


 「ヒメコ様、何か問題でもあるのでしょうか?」



 ロキさんがヒメコ様の様子が変わったのを感じて確認してくれた。



 「今年は天候不良の為、米不足になっています。そのうえ、武蔵達の年貢の取り立てが激しくて、倭の国のお米がかなり不足気味でございます。先ほどエード城の倉庫を確認しましたが、お米の備蓄はほとんどありませんでした。たぶん、武家達がお米を独占していると思います。なので、すぐにお米の回収をおこないたいと思っていますが、ロキさん達にすぐにお米を用意することは難しいと思われます」



 「そうでしたか・・・それなら、お米の件は無かったことにしてください。ルシスちゃんもそれでいいよね」


 「はい」



 私はお米を入手することを諦めることにした。



 「力になれなくて、申し訳ありません」



 ヒメコ様は深々と頭を下げた。



 「気にしないでください。報酬が欲しくて協力したわけではありません。差別のない平和な倭の国の再建を期待しています」



 そう言うとロキさんは、私を連れて剣術大会の会場を後にした。



 「ルシスちゃん、宿屋に戻りましょう。トール達がわんこそば大会を終えて帰っていると思いますわ」


 「はい」


 

 私は元気よく返事した。私はロキさんに手を引かれて宿屋に向かった。


 宿屋に着くと大きな人集りができていた。



 「何かあったのかしら?」



 心配そうにロキさんが言う。



 「私が見てきます」



 私は小さい体を活かして、人集りの間をすり抜けて宿屋の前にたどり着いた。


 宿屋の前には20表の米俵が山積みにされていた。



 「この米は誰のなんだ?」


 「こんなにあるならもらっても構わないよな」


 「やめとけ、米泥棒は重罪だぞ」



 年貢が高くてほとんどの米を武家に取られていた町人達が、米俵の周りを囲んでいる。



 「なんでこんなところに米俵があるのかしら?それに、重そうな米俵を綺麗に並べて山積みにされている・・・こんなことができるのは???」



 私はこの状況を見てある仮説が浮かんだのであった。こんなことができるのはあの子しかいないと。私は急いで宿屋の中へ入っていった。


 宿屋では天使のような微笑みを浮かべながら、気持ち良さそうに寝ているサラちゃんがいた。



 「間違いないわ。あのお米はサラちゃんが持ってきたのだわ」



 私は気持ちよさそうに寝ているサラちゃんのほっぺを、ビローーーンと引っ張って起こすことにした。



 「サラちゃん、起きてください」


 『シャキーーーン』


 「その声はルシスちゃんね!」



 サラちゃんはサクッと目を覚ました。



 「ルシスちゃん、ほっぺたを離して欲しいのよ」



 私は、モチモチですべすべのサラちゃんのほっぺたが気持ちよく、ビローーーンと何度も引っ張っていた。



 「あっ、サラちゃんごめんなさい」



 私はすぐにほっぺたを離した・



 「いいのよ。ルシスちゃんなら許してあげるわ。それよりも、ルシスちゃんが探していたコメを、多量に手に入れることができたのよ。さぁ、私をたくさん褒めるのよ!」



 自慢げにサラちゃんは言った。


 やはり米俵を宿屋の前に置いてのはサラちゃんであった。



 「サラちゃん、どうやって、あんなに多量のお米をゲットすることができたのですか?」


 「ちゃんこを食べて、ふっとちょを投げ飛ばして、オオスモモ大会で優勝した成果なのよ。さぁ、私をたくさん褒めるのよ」



 サラちゃんは胸を張って褒めてもらう体制に入っている。


 これはサラちゃんを褒めないと、話しが先に進まないと思ってサラちゃんを褒めることにした。



 「サラちゃん、すごいです。こんなにたくさんのお米を手に入れるなんて、サラちゃんが倭の国へ来てくれて本当に嬉しいです」


 「そうでしょう。でもルシスちゃんは、私に倭の国へ来ないよう言ったのじゃなかったのかしら?」



 サラちゃんは、私が倭の国へ来ないように言ったのを、根にもっているみたいである。



 「私の判断が間違っていました。サラちゃんを最初から倭の国へ連れて来るべきだったです。サラちゃん・・・ごめんなさい」



 私は、サラちゃんが謝罪を要求しているのを素早く察知してサラちゃんに謝った。



 「オーホホホホ、オーホホホホ。そうなのよ、そうなのよ。今回はルシスちゃんの判断は間違っていたのよ。次からはちゃんと私も仲間に入れるのよ」



 サラちゃんは、勝ち誇ったかのように言うのであった。




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