第139話 妖精王パート9



 「ビッククラブを倒しに行くぞ」


 「おうーー」



 トールさんの掛け声にサラちゃんとポロンさんが答える。



 出雲山に八岐大蛇を倒しに行くはずが、いつの間にかビッククラブの討伐に変わってしまっているのであった。



 「トール、私達は八岐大蛇を倒して草薙の剣を取りに行くのよ。ビッククラブは、そのついでに倒しに行くだけよ」


 「わかっているぜ。でも、美味しい食材を食べてからの方が力が出るはずだぜ」


 「そうですわ」


 「そうなのよ」



 確かにトールさんの言い分は間違ってはいない。しかし、明らかにトールさんの目はビッククラブを食べたい目になっているのは一目瞭然である。しかし、無駄な言い争いをしても仕方がないので、ロキさんは諦めて何も言わなかったのである。



 サラちゃんは鼻歌を歌いながら上機嫌で出雲山に向かっている。よほどビッククラブは美味しいのであろう。私もどんな味か興味が湧いてきたのである。


 しかし、ビッククラブを倒したとしても3mもあるビッククラブをどうやって茹でるのであろうか。普通の鍋では不可能である。しかし、こんなことがあると私は予測して5mの特大の鍋を用意している・・・わけではない。そんな予測をできるはずがないのである。


 茹でるのは無理でも魔法で焼いて食べたらいいかなと思うのである。でもカニやっぱり鍋にして茹でて、食べた方が美味しいのにと思うのであった。


 ダンドーク山から1時間くらいで出雲山には到着した。しかし、今の目的は、ビッククラブである。私達は出雲山を通り過ぎてビッククラブのいる。海辺の方へ向かった。



 出雲山を過ぎて15分くらいしたら青々とキラキラ光る綺麗な海が見えてきた。この海を南に行くとオーガランドがあるらしい。オーガランドあるということは、このあたりの海はクラちゃんが通った場所に違いない。


 神獣の中でもトップクラスの食いしん坊のクラちゃんが、ビッククラブを食べ尽くしていないことを祈るしかないのである。



 海に着いた私達はビッククラブを探すことにした。サラちゃんが言うにはビッククラブは、海の岩場の影に潜んでいたり、海の底をのんびりと横歩きしているみたいである。オーガランドの周りには、デスシャーク、ヘルオクトパスが潜んでいるがこの海域にはいないようである。



 「岩場の方を探しているけど全然見つからないぞ」


 「こっちの方にもいませんわ」


 「サラ、本当にこの辺りにいるのだな」


 「間違いありませんわ。もしかしたら、産卵時期なので海中に身を潜めているかもしらませんわ」


 「海の中かぁ。海の中での戦闘は苦手だぜ」


 「私もですわ。海の中では息ができませんわ」


 「水、氷属性があれば、海中でも戦闘もできるのにね」


 「ホントだぜ。サラも火の聖霊神だから海中は苦手だろ」


 「そうですわ。海中は水の聖霊神ウンディーネの領域ですわ。でも問題ないですわ。私は初めから海中のビッククラブを狙っていのたよ。私のマグマを使って、この海を大きな鍋にしてビッククラブを調理してあげるわ」



 そういうとサラちゃんは、海に目掛けて無数のマグマの塊を吐き出したのであった。


 無数のマグマの塊は海を瞬時に高温にしてグツグツと泡をたてて沸騰しているのであった。しばらくすると、海底にいたブッククラブがいい感じに茹でられて真っ赤になって水面に浮かんできたのであった。


 水面に浮かんだビッククラブをサラちゃんが拾い上げて、ムシャムシャと食べていく。



 「身がたくさん詰まっていて美味しいですわ」



 私はこのままではサラちゃんが全て食べ尽くしてしまうと思って、素早くビッククラブを2体回収した。



 「ルシス、よくやった。あのままでは俺たちの分が回ってこない感じだったからな」



 トールさんもすぐに察知していた。サラちゃんが全部食べ尽くすことを。


 私は一体をみんなで食べて、残りの一体をオーベロンの為に収納ボックスにしまった。


 しかし、なんだかおかしいと私は感じていた。それは2点ある。


 まずは1つ目はなぜ美味しいと有名なビッククラブが、まだこの海に居たことである。ここは、クラちゃんが通ったはず・・・あの食いしん坊が食べずに通過するとは思えない。


 そして、2つ目が私がビッククラブを回収しても、サラちゃんが何も言ってこない。普段なら「私のビッククラブを取らないでーーー」と怒ってくるはずだ。


 この2点を踏まえて私は考えてみた・・・そういうことか。謎は全て解けたのであった。


 私は『世界の絶品珍味大事典』に載っていた、あの魔獣を思い出したのであった。そう、ヤミークラブのページを。



 ヤミークラブとは海に生息する魔獣の中でも、トップクラスの美味しさを誇る、海のデザートと言われる魔獣である。ヤミークラブの身は、甘みをもたらす成分が多く含まれているのでヤミークラブを襲う魔獣が多い。しかし、ヤミークラブの鋭いハサミは鋼鉄を紙のようにサラリと切りほどの切れ味があり、容易に近づくことはできないと言われている。


 サラちゃんの本命はヤミークラブに違いない。サラちゃんはヤミークラブを一人占めするために、誰にも言っていないのだろう。だからクラちゃんもビッククラブに見向きもしないで、ヤミークラブだけを狙って食べたのであろう。


 案の定サラちゃんはビッククラブを5体ほど食べた後は、上空から海面をずっと睨みつけている。ヤミークラブが浮き上がってこないか確認しているのであろう。


 しかし、クラちゃんがこの海を通ったなら、もうヤミークラブは全て食べられた可能性が高い。場所を変えないと食べることは不可能だろう。



 「おかしいわ?ヤミーが浮き上がってこないわ」



 サラちゃんがブツブツと独り言を言っているのであった。



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