第284話 ホロスコープ星国 パート61


 「ふざけないでください!」



 ジェミニとハモるような形で、可愛い声も食堂に響いた。


 それは、私の声であった。



 私は、ヴァンピーに激怒しているのであった。私の嗅覚は鋭い。特にお腹を空かしている時のパンの匂いには敏感である。私は食堂に入ってすぐにわかった。ここにはパンが一つもないことを。


 私はすぐにヴァンピーに文句を言おうと振り向いた時、ヴァンピーは私の口を塞いだのであった。



 「フェニちゃん、今は大事な場面なのよ。少しおとなしくしてくれるかしら」



 ヴァンピーは私をなだめようとする。



 「フガフガ・フガフガ」



 私は、パンがないのでとてもイライラしている。ヴァンピーに抑えらている手を外そうと必死であった。そして、ヴァンピーの手をこじ開けて叫んだのであった。



 「ふざけないでください」


 「どう言うことだ!」



 ジェミニ王が私を睨みつける。


 私はヴァンピーに怒鳴ったつもりだったが、ジェミニは勘違いして、私に怒鳴りつけられたと思ったのである。



 「お前の方こそふざけるなと、フェニ王は言っているのだ!」



 レオが私の気持ちを、間違った方向で代弁する。



 「そうよ、フェニちゃんが新しい王になるのよ。ふざけたことは言わないで欲しいわ」



 ヴァンピーは、チャンスだと思って、レオに追随するように言った。



 「ヴァンピー・・・お前も俺を裏切るのか!」



 ジェミニは怒りのあまり顔が真っ赤になっている。



 「最初から貴方の配下にはなっていなかったわ。私は貴方を王から引きずり落とすチャンスをずっと待っていたのよ」



 ヴァンピーは、ジェミニを汚いモノを見るような目で見ている。



 「俺の力で、王国魔法士団の団長にしてやったのを忘れたのか!」



 ジェミニは怒りのあまり食堂のテーブル叩き割った。



 「頼んだ覚えはないわ。貴方が勝手に任命しただけよ」



 ジェミニもヴァンピーの美しさに魅了されていた。そして、いくら声をかけても振り向いてくれないので、王国魔法師団の団長に任命して、強大な権力を与えたのである。しかし、いくら強大な権力を与えようが、莫大な給料を与えようが、ヴァンピーは、ジェミニを相手にすることはない。



 「お前も両親と一緒にラードーンの餌にすればよかったわ!」



 ジェミニは、ただでさえ空腹でイライラしている。それに加えて、私を王にすると言って、レオ達がジェミニに反旗を翻した。そして、追い討ちをかけるように、ヴァンピーの冷たい仕打ちにあって、ジェミニの心は崩壊した。



 「どういうことよ」



 ヴァンピーはジェミニを問い詰める。



 「お前が、俺を相手にしないから、ライブラに、王の森で魔獣を倒しラードーンを誘き寄せるように指示を出したのだ。そして、俺の思惑通りラードーンは、お前の両親を殺してくれた。最愛の両親を亡くしたお前は、必ず俺を頼ってくると思ったが・・・お前は、俺を全く頼ろうとしなかった。俺のモノにならないのなら、お前もラードーンの餌にすればよかったと言っているのだ」



 ジェミニはニタニタと笑いながら言った。



 「そういうことだったのね・・・」



 ヴァンピーは唇を噛み締めながら言った。そして、少しの動揺も見せないように努めた。ヴァンピーはわかっていた。両親を殺された事を知って、怒り狂うヴァンピーの姿を、ジェミニが見たいと思っていることを。なので、ジェミニの思い通りにならないように、笑みを浮かべながら、気持ちを隠すのであった。



 「つまらないことをするヤツだな」



 話を聞いていたレオが、ジェミニに声をかける。



 「全てが俺の思い通りにならないといけないのだ!俺の思い通りにならないのなら、全てをぶちこすのみだ」


 「全てをぶち壊す力が、お前にはあるのか?」



 レオが、ジェミニを挑発する。



 「俺に勝てる者はいない。俺には『神剣の能力がある。この能力がある限り俺は誰にも負けないのだ」



 ジェミニの『ゾディアックサイン』の能力は『神剣』である。簡単に言えば剣の達人である。



 「お前は、何度か俺に挑戦したことがあったな。しかし、一度でも俺に勝てた事があったのか?」



 レオは、力こそ全てだと思っている。なので、ジェミニが本当に強いか、何度も対戦を望んだのであった。しかし、一度も勝つことはできなかった。



 「確かにお前は強い。しかし、圧倒的な強さではない」


 「俺より弱いお前が言っても説得力がないぞ」



 ジェミニはレオを嘲笑う。



 「確かに俺は弱い。だから、俺より遥かに強いフェニ王に忠誠を誓ったのだ」



 レオは誇らしげに言った。



 「その子供が俺より強いというのか?」


 「そうだ」



 レオは、即答する。




 「ヴァンピーさん・・・」



 私はさっきまで猛烈に怒っていた。しかし、ジェミニの話を聞いて、ヴァンピーのことを心配しているのである。


 私の両親も戦闘に巻き込まれて死んでしまった。幼い私を助けるために、両親は身を挺して私を守ってくれたのである。なので、両親を殺された痛みは、誰よりも理解できるのである。私はヴァンピーの両親を殺したジェミニに対して、激しい怒りが込み上げている。



 「フェニちゃん、私は大丈夫よ。もしかしたらと思っていたからね。今はジェミニを倒す手段を考えることが先決だわ」



 ヴァンピーの口から、血が滴り落ちてきた。ヴァンピーは、歯を食いしばって、込み上げてくる怒りを抑えようと必死なのであった。ヴァンピーは怒りに身をまかして、無謀に戦いをするほど愚かではないのであった。


 しかし、私は違った。ヴァンピーの両親を殺したジェミニへの怒り、そして、その現実を突きつけられても、平静を装うヴァンピーの姿を見て、私は我慢することができなかったのであった。



 「私が、ジェミニを倒します」


 「フェニちゃん、どうやってジェミニを倒すつもりなの?ジェミニの『神剣』の能力は最強よ」



 ヴァンピーは、私ならジェミニを倒せると信じてここまできたのである。しかし、いざジェミニと対峙すると、本当に勝てるのか不安になってきたのである。



 「私には、ティルヴィングがあるのです」



 私は、リプロ様からもらったティルヴィングを取り出した。ティルヴィングは、狙った相手を絶対に外さない剣である。レオでさえティルヴィングの放つ圧倒的な威圧感に屈して、すぐに土下座して降伏したくらいである。

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