第207話 神守聖王国オリュンポス パート16



 ★場面は変わってパーシモンの町になります。




 「バルカン、明日までには必ず神剣を作るのだぞ」



 アポロ公爵がバルカンを怒鳴りつける。



 「わかりました。必ず間に合わせます」



 バルカンは頭を下げて言った。


 アポロ公爵は、2週間以内に神剣を渡す約束をしていた。その期日が明日に迫っていた。



 「ケレス、バルカンが明日までに必ず神剣を作るようにお前が監視しておけ。もし、明日までに神剣が作れなかったらバルカンの命はないと思え」


 「兄上、無茶なこと言わないでください。バルカンの体力はもう限界です。せめてあと3日ほど時間をください」


 「ダメだ!2週間以内で作るとネプチューンに約束したのだ。俺に約束を破れと言うのか?」


 「初めから2週間は無理だったのです。私がネプチューン伯爵様の元へ行って交渉してきます」


 「ダメだ!俺にもメンツがある。それに期限を引き延ばせば俺への報酬も変更される可能性がある。俺はコーンウォリアスの領土を手に入れて、神守聖王国オリュンポスの最大の領主になるのだ」


 「そんなうまくいくのでしょうか?私は、兄上は騙されていると思います」


 「うるさい。俺に指図をするな。お前は黙って俺の言うこうと聞いていればいいのだ。お前は大怪我から回復してからおかしくなったみたいだな。以前は俺のすることにいつも賛成していただろう」


 「しかし・・・」


 「ケレス団長、俺なら大丈夫です。明日までに神剣を仕上げたいので急いで工房まで行きましょう」



 バルカンはケレスと共に、パーシモンの町から少し離れた工房へ向かった。



 「バルカン、本当に大丈夫なのか?」


 「俺は、神剣を作るために今まで何不自由のない生活を保障されていた。だから神剣を作るのは、俺にとって命をかけてする仕事だと思っている。しかも、レア素材を譲り受けたから、何年もかけて作る神剣を短時間で作ることが可能になった」


 「しかし、いくらレア素材があると言っても限度あるだろう」


 「確かに・・・2週間で作るのは不可能に近い。しかし、作り上げないとどうせ俺は処刑される。どうせ死ぬのなら、俺は神剣を作り上げて死にたいのだ」


 「バルカン・・・お前はそこまでして神剣を作りたいのだな」


 「そうだ。最初は神剣がネテア王妃様に献上されると思って快く承諾した。しかし、俺の作る神剣がネプチューンの元へ渡るのは納得がいかない。ネプチューンの計画は想像はできる。たぶん俺の神剣をアレスに持たせて、ネテア王妃を亡き者にするのだろう。しかし、それだけは絶対に食い止めなければいけない」


 「なら、なぜ神剣を作るのだ。お前の神剣を悪用されたくなければ、作らなければいいのではないのか?」


 「確かにケレス団長が言う通りです。しかし、俺はある人物にこの神剣を渡したいのです」


 「例の女の子か?」


 「そうです。ルシスちゃんにはハンマーを作ってあげる約束をしたのです。彼女なら私の作る神剣を平和のために使ってくれるでしょう。俺はこの国の未来をルシスちゃんに託したいのです。だから、俺が作り上げた神剣は、ケレス団長からルシスちゃんに渡してください」


 「それなら明日、兄上が神剣を取りに来たらどうするのだ」


 「神剣を作るのを失敗したと伝えます」


 「そんなことをしたら、殺されてしまうぞ」


 「大丈夫です。俺は神剣を作り上げたら体力の限界で動くこともままならにでしょう。そして、2、3日後には命を落とすでしょう。だから殺されても問題ないのです」


 「何か別の方法はないのか?」


 「ありません。それに・・・もし奇跡が起これば、俺も死ぬこともないでしょう」



 バルカンは笑顔で言った。



 次の日、バルカンは気力を尽くして神剣を完成させたのであった。



 「ケレス団長、この神剣いや『ミョルニル』をルシスちゃんに渡してください」



 工房で倒れ込みわずかな気力を振り絞ってケレスに神剣を託した。



 「バルカン、これは受け取れない。俺は奇跡が起きること信じている。だからその神剣はお前の手でルシスちゃんに渡すのだ」



 ケレスはそう言うと工房から出た。



 「ケレス、ちょうどいい時に出てきたな。神剣はできたのか」


 

 アポロ公爵が神剣を取りに工房に出向いたのであった。



 「バルカンは見事神剣を完成させました」


 「でかしたぞ!これで俺の地位も安泰だな。ワハハハハハ」



 嬉しそうにアポロ公爵は笑う。



 「しかし、兄上に神剣を渡すことはできません」



 「・・・」



 アポロ公爵は何を言っているのかすぐには理解できなかった。



 「ケレス、今なんと言ったのだ?」



 アポロ公爵が聞き返す。



 「神剣を渡すことはできないと言ったのです」



 アポロ公爵の表情が一変した。



 「ケレス、もう一度だけ言うぞ。なんと言ったのだ!」



 「兄上に渡す神剣などありません」



 ケレスは強い口調で言い放った。



 「俺に逆らったらどうなるかわかっているだろう。一度助けた命を粗末にするとは、相変わらずバカな弟だ」


 『プロミネンス』



 アポロ公爵は神の子の力を使った。紅炎がケレスを包み込んだ。



 

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