第5話 追尾する矢って最強じゃね

12歳になりました、俺クルトンです。

弟、妹たちが産まれてからは怒涛の毎日だけど家族はみんな笑顔です。


村では流行り病も発生せず冬に亡くなる人もいなくなった。

俺が21世紀の日本基準での生活様式に近づけるべく、特に衛生面には妥協しなかったからだと思う。

今現在の出来る限りでだけれども。


拾われっ子の俺を除いても家は一世代で子供が3人生まれている。

子供至上主義と言っても過言では無いこの世界、この功績により両親の村での発言力は抜群だ。

しかもお母さん世代への好感度がメチャクチャ高い俺もいればなおさらだ。


実は俺、赤ちゃんの時にすでにかなりデカくて食欲も旺盛だったもんだから自宅の家畜の乳では足りずに他の家の家畜の乳ももらってた。

そんで一緒にまだ母乳の出る村のお母さん達からも分けてもらってた・・・って聞いた。

母さんは妊娠していないから母乳は出なかったし。


なので、そのみんなが俺の乳母みたいな立ち位置だから拾われっ子でもとても可愛がられた。

ありがてぇ。



そこで両親を通してうがい、手洗い、衣類やシーツなどの小まめな洗濯。

極め付けは入浴の習慣化の励行を促した。


結果から言えば近場に温泉が有ったんで解決は時間の問題だった。

村では以前から存在は把握していたけど、臭いお湯湧いてるから近づいちゃダメって事で立ち入り禁止区域にしてあったんだとか。

俺も自分で見つけるまで知らなかった。

両親に聞いても「そう言えばそんなん有ったな」ってな感覚。


硫黄成分の温泉だったせいか人によっては腐敗臭と感じるらしく(実際臭い)誰も活用してこなかったそうだ。

活用する発想も無かったみたい。

俺も前世の記憶がなかったら同じだったかもね。


しかし、そんな事は実際の温泉を目の前にすれば些細な事。

この温泉は広く湯量も多い、じゃぶじゃぶ湧いてる。

やったね!

ただ浅かったので掘り下げる手間はかかったけど水漏れの影響出ることもなく活用を開始した。

まずは俺が。


そこに行くには村から歩いて5分ほどかかるがそんなの気にならない。

温泉に入れるのだから。

しかし本当になんで気付かなかったんだろうな。

確かに結構近づかないと匂いもしないのがちょっと不思議で解せなかったが。

硫黄成分の温泉なら結構な匂い漂うけどね・・・。



そんな俺が口角を上げ、目じりを下げて毎日ホカホカの顔で帰ってきて夜もぐっすり、朝はしゃっきり、お湯は臭いけど一晩寝れば体への匂いは残っておらず清潔だから汗臭さや獣の様な匂いも無い。

1週間もすると家族も気になったらしく「入ってみるか」ってなった。


そして入浴しだすと家族にはすこぶる好評で、その後はそれ程時間かかることなく村に温泉への入浴が習慣化した。

浴場スペースの都合で毎日って訳にはいかないけど、温泉が楽しみの一つになった。


だからみんなお肌スベスベ。

温泉だから長湯は危険との注意しないといけない程、今はみんな温泉が好きで結果清潔な生活を送ることができるようになったんだ。

なんでかノミも虱も寄り付かなくなったしね。



そしてもう一つの変化。

12歳ってのはこの世界では子供じゃなくなる。

18歳が成人なので大人ではないんだけどそれ迄の見習い期間に入ったようなもの。

具体的にどうなのかというと魔法と弓矢が解禁になる。


ヒャッホーイ!


家の仕事も本格的に手伝う事にもなるんだがそんなのは問題じゃない。

人一倍大きな体格の俺は大人と同じ量の仕事をすでに始めていたから。

ちなみにこの村は開拓村、家は農家で森を切り開きながら麦、大豆、ジャガイモを栽培してる。


森への狩りはその技能を持つ人が交代で行っている。

父さんもその中の一人。



話を戻して、魔法と弓矢に年齢制限ある理由は至ってシンプルで危ないから。

故意ではなくても自分以外の人を害してしまう可能性が高いからだそうだ。


うん、俺納得した。

だから今まで我慢した。

なので父さん、手に持ってる弓矢を早く俺に渡してください、お願いします。

検証したい事が有るのです!



今いる場所は森の中、父さんが先導して一緒に歩いています。

ええ、いくら何でもいきなり一人で森に狩りに出かけるのは許されません。

見習い期間ですから。


暫く森を歩いていると父さんから止まれのハンドサイン。

二人ともその場にしゃがみ込むと父さんが指で指し示す方向に鳥がいた。


雉だ。

さすが父さん、よくこんなの見つけれるな。

飛べない分、山鳩なんかと違って目方が有り当然食い応えもある、ラッキーだ。

いや、そんな思考は仕留めてからだ、今は集中しなければ。


ゆっくり弓を引いて狙いを定める。

大丈夫、当たる。

外れたように見えても射線上に障害物が無ければ問題ない。

弦をはじくと『シッ』と短く鳴り矢が放たれる。

そして狙いたがわず雉の首元へ突き刺さり初めての狩りが成功した。

あっけないものだった。


(やっぱり・・・)俺は確信した。

父さんもちょっと首をかしげている。

うん、わかるよ違和感あるよね。


「クルトン、なんかしたか?」と父さんの問い。

そして俺はこう答える。

「なんかしたかも・・・、でもまだ確証を持てない。もう少し狩らせて」


予想はしていたしこの一矢で確信できたけど、もしもって事もある。

その後の狩りでも俺は百発百中の腕前を披露し雉が2羽、山鳩を6羽仕留めた。

山鳩なんか6羽中5羽は飛んでいるのを撃ち落とした。

申し分ない、ってか初狩猟じゃなくても結構な成果だ。

だが父さんは難しい顔のまま黙っている。

明らかに俺がこの状況について説明するのを待っているって顔だ。


意を決して俺が話す。

「なんて言えばいいんだろうね、狙ったら障害物に邪魔されない限り外さない。矢が獲物を追っていくんだ」


罠って手段も有るが、狩りでは弓矢の技能の優劣は死活問題だ。

そして家には俺を含め育ちざかりが4人もいる。

大豆の様な植物性たんぱく質の他に、良質な動物性たんぱく質の量の確保は最重要課題の一つ。

そう、食生活の改善である。

良質な食事と適度な運動は健康の秘訣。


だからMMORPGだけじゃない他ゲームでもスキルでもなんでもないただのシステム、『狙い放てば必ず当たる』弓矢の技能は今時点で俺が求めてやまない能力だったんだ。

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