第59話 来訪者への誓い
応接室でデデリさんが来るのを待っている俺、クルトンです。
グリフォンと戯れていて全然部屋に戻ってきません、デデリさん。
いい加減にしてほしいのですが我慢します。
美味しいお茶と茶菓子をフォネルさんが出してくれましたので。
モッシャモッシャ、モッシャモッシャ。
ヅヅヅヅヅーーーー。
「おう、待たせた」
なんだかお肌ツヤッツヤで部屋に入ってきました、デデリさん。
ようやく馬具の話を進めます。
「空を駆けるんだ、とにかく軽くて頑丈なのにしてくれ」
・・・炭素繊維とかそんなんですかね、飛行機の主翼なんかに使われてたアレ。
いや、試した事ないんで出来るかわかんないけど、要望に応えるとしたらまず思いついたのがそれ。
ただし紫外線には脆かったはずだからUVカット(日焼け止め)の魔法陣は必須だろうな。
「とは言ってもこちらはその辺は門外漢だ、任せる」
はい、承知しました。
「しかしあれ程の騎乗動物だ、馬具にも格が必要になろうて」
式典用と戦場用、訓練用の3通りの注文をすると言い出した。
3通りですか・・・結構なお値段なりますよ、俺作るんで。
「まあそうだろうな、貴族とはいえ湯水の様に金が有る訳でもないのでな、仕様を決めたら見積もりをくれ」
ガッテンです。
で、馬具のデザインはどんなのが良いんでしょう?
特に式典用とか『格』って言われても良く分からんのです。
これにはフォネルさんが口を挟んできました。
「まずはその家の紋章を入れるのは必須だね、あと国王陛下より華美になってはまずい」
国王陛下の馬は見た事ないのでどれ程のものかイメージがわかない。
「貴族でないクルトンに説明するのは難しいが、多分君が思う『ちょっと派手』みたいなので丁度いいと思うよ」
そうですか結局『格』はイメージ付かないんですが、・・・ではデザインを描いて後日持ってきます。
1週間くらい時間ください。
それに合わせて見積もりもお出ししますので。
あと、付与する魔法陣の効果はこのような感じで3セット共に統一させますね。
機能を3種類それぞれのに特化させると何かあった時に乗り手の対応が遅れますし。
と、メモ用の木札にサラサラ書き出す。
騎手の重量軽減。
デデリさんも着こんでいる鎧もメチャクチャ重いし。
騎手の周りの気温調節、この場合は一定に保つように調整。
空は寒いからね。
騎手の周りの空気抵抗の軽減。
スピードが出るに従いグリフォンも騎手も無駄な体力使うだろうから。
グリフォンの疲労軽減。
騎手を乗せると単純に疲れるし。
索敵範囲の拡大。
これは知覚の感度を上げる付与。せっかく空から俯瞰できるのにもったいないからさ。
グリフォンに負担を駆けない事優先でこんなもんでいかがでしょうか。
「うんうん、ポポに負担を掛けないのが一番だ、これで頼む」
はい、ってポポってもしかしてあのグリフォンの名前ですか。
「さよう、俺の馬の名は『ポポ』にすると成人した時から決めていた」
ほえー、俺なら忘れてそうだな。
それ程自分用の騎乗動物への思いが強かったんだろう。
お互いの相性もいいようだし、結果オーライだな。
「でだ・・・いかほどで譲ってもらえる」
ん、空を飛ぶので安全面には最大のリソースを使います。
さっきの付与よりも高い品質で安全性確保のための付与を施しますので普通の馬具には収まらない、結構なお値段なりますよ。
「いや、ポポ・・・グリフォンの方だ」
「え?」
「え?」
「ふー」とため息をついて
「話がかみ合ってないですね、大隊長、クルトンはこのグリフォンをサンフォール侯爵家に献上してくれるみたいですよ」
とフォネルさん。
「誠か!それは誠か!!」
(ビクッ)え、ええ、そのつもりでしたけど。
テーブルの向かいに座っていたデデリさんが頭を下げ、俺の右手を自分の両手で握り下げた頭の上まで掲げる。
献上とかそんな大それたつもりじゃなかったですけど。
また「ふー」とため息をついたフォネルさん。
「グリフォンだよ、グリフォン。しかも騎乗できる状態まで調教されてて、この大隊長が騎乗できるくらいの体躯を誇る個体・・・もうねお金の話じゃすまないんだよ、ここまでになると」
「サンフォール家の歴史に刻もう、グリフォンをもたらした者として語り継いでいくことを来訪者に誓う」
重い、重いよ!
なんか新たな面倒事が起きそう(泣)。
・
・
・
とりあえず用事は一段落したので厩舎に寄ってスレイプニルを受け取ると下宿先のマルケパン工房に向かう。
こいつらの場所どうしようかな。
雨ざらしって訳にもいかないから・・・うーん俺が金を出して増築するにしてもそもそもあのパン屋に厩を増築する土地は無い。
かといって別の場所に部屋なり借家を準備するにしても工房の朝の手伝いがきつくなる。
朝早いから通うの大変。
今日一日は外にいてもらうとして改めて明日フォネルさんに相談しよう。
「ただいま」と帰った事を伝えると家族皆が店先から飛び出してきた。
「「「「「「おおお、スレイプニル!」」」」」
本当に前世のスーパーカーを目の前にした子供のノリだよね。
お祖母さんとか叔母さんまで見に来てる。
店先にちょっとした人だかりも出来始めた。
「スゲー、初めて見た」
「聞いていたのよりだいぶ大きいわね」
「かーッ、俺もこんなのに乗ってみてぇ」
そうでしょう、そうでしょう。
でもデデリ大隊長はグリフォンに乗ってますからね。
と、何気に興味をグリフォンに誘導します。
そうしたら人だかりの2割くらいは「こうしちゃいらんねぇ!」とか言って訓練施設方面に走って行った。
しめしめ。
スレイプニルも大分人に慣れてきて、仔馬なんかは自分から人と触れ合うまでになっています。
良い事なのかちょっと判断付かないが今のところはこのままでいいでしょう。
店先にスレイプニルを休ませると、皆にこれまでの事を伝える為に店の中に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます