第60話 サンプル確認

あれから3日経ちました、今日はカサンドラ宝飾工房に出勤途中の俺、クルトンです。


結局、戻ってきた次の日フォネルさんにお願いして厩舎を3頭分借りることにした。

ちゃんと対価は払って。


人慣れもしてきて、仔馬の体力もかなりついてきたことから俺がいなくとも牡馬がそんなに神経質になる事が減ったから。


パン屋の朝の仕事を終えて厩舎に向かいスレイプニルに挨拶、ブラシで毛並みを整え訓練場から街の外を思いっきり走って一通り散歩したらスレイプニルを厩舎に預ける。


職員さんが色々世話をしてくれているのでスレイプニルはストレスなく暮らしていけそうだ。

何気に団員さんたちの受けも良いし。




訓練場から自分の足で宝飾工房に向かい入口を開ける。

「クルトンです、ただいま戻りました。」

と声をかけると奥から親方が早足で出てくる。



「ようやく来たか。まずはお前の仕事場で打ち合わせだ」

奥様方二人と共に部屋に入ります。

?何でいるの、奥様達。


いつの間にか備え付けてあるソファーに座ります。

「とりあえずお疲れ様、大した活躍だったそうじゃねえか」

いえいえ、でも大きな仕事を引き受けてきました。

それでこの工房にも手伝って頂きたいのです。


「ああ、任せとけ。姫様の成人祝いの品だろう?ギルド本部からもくれぐれも頼むと書状が来た」

初めて見たぜ、あんな書状とか言ってガハハと笑う親方。


「でだ、早速色々鉱石のサンプルが届いている」

え、もう来たんですか?


「ああ、サンプルだからな。小指の爪先位の大きさのものを鳩便で送ってきたんだよ」

ああ、なるほど、そうなんですね鳩ですか。

失念してました、サンプルですから量はそんな要らないですしね。

確認させて頂いても。


「ああ、お前宛のもんだからな。俺に聞く必要はないぞ」

第一夫人のルーペさんが部屋から出ていき台車にサンプルを乗せ戻って来ます。


結構有るんだな、サンプルとは言えこの短期間でここまで運んでくる気合いの入れよう半端ないな。

どれどれ、作業台について1個1個スキルで判別していきます。


それでは、

高純度の鉄鉱石

黄銅鉱

亜鉛

タングステン

アメジスト

モリブデン

バナジウム

ニッケル

オパール

クロム

鉄鉱石

ドロマイト(マグネシウム)

イリジウム



なんか宝石も混ざってます。

しかし、マグネシウムにイリジウムですか。

今のところ宝飾には使わないが採れた鉱山の場所は押さえておこう。

前世では意外と使用されてた記憶があるし。


タングステンなんかこの世界じゃ加工出来ないだろうな。

やるとしたら俺のスキル頼み。


バナジウムとかモリブデンなんかは合金の用途かなり広がるはず。


意外と多いな、この世界で使われてない金属。

なんか宝石も混ざってるけど。


国王陛下の仕事終わってもし次の仕事の間が空いたら、合金のナイフでも作って売ったら食いっぱぐれないんじゃないか?俺。


「そんな有用な金属あったか?」

ええ、かなり。


「大仕事が終わったら一旦特許の申請期間を設けた方がいいか、何れやらにゃならんなら早い方がいい」

まあ、そうですね。


ネジとかその工具なんか作っていきますかね。

規格統一してそれ用の工具なんか使ったら一気に作業の効率が上がりますし。


もうちょっと段取り期間が必要です。


差し当たり

タングステン

モリブデン

バナジウム

以上3種類の鉱石確保とここまでの輸送を鉱山に依頼してもらう。

どのくらいの鉱石が確保可能か今は分からないので上限1000kgまでで有るだけ送ってもらうことにした。

精錬したら10分の1以下の重量になる事も十分あり得るし。


簡単な旋盤、フライス加工機なんかの金属加工設備を小さなものでいいから作っておこう。

加工精度をかなり上げれれば後工程での合わせが簡単になるし。

そうすれば機械式腕時計でも日常防水位は組み立て精度に物を言わせて解決出来そう。


加工機の動力は魔法陣で魔素から魔力変換してモーターの様に一定回転で回る道具を作れば問題ない。

魔素はかなり融通が利く謎エネルギーなので大変ありがたい。

こんなんだから技術の進歩が歪になるんだろうな、この世界。


うん、なんか完成形が見えてきた感じがする。



「で、俺たちは何をしたらいい」

特殊な金属に微細な加工を施すので正直な話、段取り以外でお願いすることは殆ど無いんです。

ひたすら部品の研磨をお願いすることになると思うんですよね。


「そうなのか・・・残念」

あ、でも設計図は準備しますので皆さんで加工可能な材料を使って作ってみたらどうですか?時計。

腕時計は無理でも懐中時計なら『チェルナー姫仕様レプリカ』とかなんとか銘打って姫様成人記念時計とか貴族や豪商の方々に売れるんじゃないですかね。

記念コインとか有ってもよさそうですけど偽造されると困るんでしょうね。


親方と奥様達の首が”グリン”と回って一斉にこちらを向きました。

「『懐中時計』とは?」


手のひらサイズの時計です。

こんな感じで懐に忍ばせてる感じで持ち運ぶんですけど。

ザックリこんなもんですとメモを書いて渡す。


当然これも宝飾品の価値を持たせるために色々意匠を凝らせば結構なお値段になるんじゃないですかね。


いずれにせよ精密機械加工の訓練にはピッタリじゃないでしょうか。



「・・・やってみよう。でも、おそらくうちの工房だけじゃ手に余るな、他の工房も巻き込んで良いか?資料が他工房に流出することになるが」


問題ないです。

コルネン内工房の技術の底上げにもなるでしょうから。


「分かった、これも一大産業になりそうだ。腕が鳴る」


そうなればいいんですけど結構な時間かかりそうな気がしますよ。

時計の利便性を理解しない職人も多いでしょうしね。

仕事が分単位での時計に、この場合は『時間』に縛られるようになって「ほら見た事か」と反発する人がいてもおかしくないでしょう。



前世の携帯電話みたいに。

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