第61話 事業を始めよう、客は俺一人

手続きに追われてちょっとウンザリしている俺、クルトンです。


後回しになっていたスレイプニルを利用した事業の立ち上げを行っています。

褒美で頂戴した設立費用の『補助金無条件給付許可証』も活用するのでちょっと手続きが煩雑になっていますが次々サインをしていきます。

因みに手続き自体はコルネンでも可能です。


役所の担当職員曰く

「審査が無い分かなり楽ですよ、新参者が事業立ち上げようとしたら補助金審査なんて丸1年かかるのはざらです」

申請者の身辺調査から始めないといけないんですから、との事。


あの時逃げずに魔獣討伐した俺を素直に褒めたい。


時間はかかるが書類の作成は粛々と進む。

しかしある所で俺は頭を抱え込む。


「スレイプニルを活用する事業という事で・・・いいですよねスレイプニル。後で私も見に行っていいですか?一生のうちにスレイプニル見れる日がくるなんて考えもしなかったんですよ!」

話しているうちに職員さんのテンションが段々上がっていって・・・それに気づいて「コホン」と一つ咳ばらいをしてこう告げます。


「スレイプニルの登録をしますので識別記号、まあ名前ですね、ここに記入してください」


名前・・・だと?

「え、ええ名前です。ロバなんかは1号、2号って登録する人もいますけど・・・もしかして名前つけてないんですか?スレイプニルなのに?」


・・・はい、そうです。

これから考えます。


声には出しませんが「信じられない、マジかよコイツ!」って顔で驚かれました。


だって今まで不都合なかったんだもの。


所持しているだけで役所に登録はしないといけないんだそうな、税金発生するから。

調べてもらったら仮登録みたいなのは済んでるらしいんだけど、この名前にあたる識別記号の記載は『未定』になってた。


本登録も一緒に済ませますので決まったら呼んでください、と言い残し職員さんは他の仕事に向かいました。



今、俺は3頭分の名前を考えねばならなくなった。

仔馬は雄だったのでそれに見合った名前。

どうしたものか・・・。

前世の競走馬からパクろうか。

いや、競馬をしなかった前世の俺は超々有名馬以外の名前は知らない。

参考にならんな。



結局

牡馬「ムーシカ」

牝馬「ミーシカ」

仔馬「マーシカ」

にした。


ムーシカ、ミーシカは前世の子供の時見たアニメ映画に出てた熊の夫婦の名前。

仔馬の名前は親馬の名前の韻を踏んだだけ。

それにしてはうまくまとまったんではなかろうか。



これでお願いしますと職員さんを呼んで書類を渡す。

手続きはその後も続いたが一応完了。


王都での所在地、連絡先が確定したら開業日の申請の時にもう一回手続き有るのでそれが最後になるそうだ。


ふー、本業に戻ろう。




宝飾工房では本日も持ち込まれた鉱石サンプルを確認。

新しいものは無かった、残念。

・・・今、気づいたんだが、もしかしたらウランとか送り付けられたりしないよね。

この世界にも鉛が有るからあり得るかも。(ガクブル)



その翌日、革製品の工房にお邪魔した。

機材を使用させてもらうために。

デデリさんのポポちゃん用の馬具を作るためだ。

デデリさんからの紹介状とグリフォン用の馬具を製作すると言ったら二つ返事で貸してくれた。

権力とグリフォンのネームバリュー凄いな。


馬具を作成するにあたり、事前に軽量、高剛性を求めてドライカーボン繊維と呼ばれる前世時代の先端素材の再現を試みた。

マグネシウムが発見されたもののボーキサイトがまだだったのでアルミ合金は未だ作る事が出来なかった事もあって。


極端な話原料の炭素はどこにでもある。

炭と言わずあらゆる物に含まれているが、まずは原料としてそれのみを精製することができるのかが一つの懸念材料だったが錬金スキルで事足りた。


・・・ご都合主義も甚だしい。

これダイヤモンドも作れるんじゃねぇか?と思ってダイヤモンドの分子構造を意識して魔法と錬金スキルを行使すると親指の爪程のものができた。

カットすればもう一回り小さくなるだろうが・・・いや、そんなレベルの話しじゃない。

ヤバいよ、ヤバいよ!

この世界はダイヤモンドはそれなりに採掘されて思ったほど高価でもないが・・・平民がホイホイ買えるほど安くはない・・・しかも俺が生成した品質の物は極々稀だ。

クラリティーで言ったらFLだろ?これ。

だって俺が作ったもん、材料は炭素しか使ってないもん、カラーもクラリティーも俺次第だもん。



いや、これで良かったと考えるんだ。

姫様の腕時計で使用するガラスの上位互換が手に入ったと思えば良いじゃないか、いや良くない、いや良くなくなくはない・・・。

ヤバい、テンパった。


そして今更なもう一つの考えが頭に浮かぶ。

「これって燃料使わずに木炭が量産できるって事じゃないか?石炭も同じ要領でコークスに出来るって事だろ、これは」


超高級スペシャリティーカーのメーカーより一般大衆カーを製造しているメーカーの方が会社の規模、利益が何倍、何十倍も大きいというのはよくある話し。


ごく限られた宝飾品を扱うのより、インフラに関わる様な物資を大量に捌く方が遥かに利益になるだろう。


今回は金属の様な材料ではなくエネルギーとなる物資。

そう考えると初めて戦闘スキルを試した時以来の汗が頬をつたい落ちた。


ドライカーボン繊維の再現は無事終了したのだけれども、それが霞むこんな事が有ったもんだから革製品の工房に行くのが翌日になってしまった。

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